第六回学級裁判5
そう言えば、よくよく見ればこの周囲に所沢が見当たらない。
普通に学級裁判始めてたけどアイツだけ来てないじゃないか。
「なぁ、所沢、どこだ?」
「へ? あ? え?」
俺の言葉に今気付いた。とでもいうように木場がはっと顔を上げて周囲を見回す。
すると、なぜか貯水施設のある入口の上部から梯子を伝って所沢が降りてくる。
何故そんな場所に?
「ああ、ごめん。ちょっと小用があって、最初から屋上に居たんだけど裁判中?」
ちょ、待て。いや、まずは聞いてからだな。
「所沢。お前は夕食後、何してた?」
「夕食後? えー、ああ。山田をスト―キングしてたよ」
「は?」
「山田の奴が忌引さんを付け狙ってたから変なことしないか後ろから追ってたんだ」
ちょ、ちょっと待て。それじゃ、山田が死んだ時もこいつは後ろから追ってたってことか?
「そ、それは、いつまでだ?」
「え? あー……そうだね音楽室に入る前、までかな」
「入る前、まで?」
「そう、その後は小用が出来たから屋上に居たよ」
いや、待て。それだと時系列が色々合わない。
「あー、その時音楽準備室は見たか?」
「見たよ。忌引さんと田淵さんが何かを話してた」
ココは素直に証言するか。
「じゃあどうやって屋上に?」
「どうやっても何も普通に屋上に上がったよ。ドアから普通にさ。ああ、でもすぐに後ろから誰か駆け上がってくる気配があったから思わず裏側に回ってやり過ごしたかな」
それ、俺と足立じゃね?
ってことはあの辺りで所沢は既に屋上に居て今まで小用を済ませてたってことか。
「それは光葉に頼まれたことか?」
「え? いや、忌引さんに頼まれたことは別にあるけど、こっちは重要だったから。何しろ、大河内と話し合いだったし」
「大河内!?」
「うん。やっぱりアイツ生きてたんだ。しかも忌引さんが危険だって僕に言ってきて、いろいろ面倒だったから忌引さんは僕の姫だ。って言ったら諦めて帰って行ったよ」
なんだそりゃ。
だが、それはつまりこいつはその間屋上に居た訳だ。俺を襲った人物とは異なる。
だったら俺を襲ったのは誰になる?
「はは。もしかして犯人大河内だったりしてな」
「死んだと思わせて実は犯人だった。って奴か、ありうるな」
坂東と榊は当てずっぽうで言わないでくれ。
「木場、どう思う?」
「……まだ、証言は残っているでしょ。田淵さん、忌引さん、二人の証言、お願いするわ」
そうだったな。
田淵と光葉の証言がまだか。
「では代表して私が言うわ」
「代表して?」
「ええ。殆ど一緒だったモノ。そもそも夕食終了後は私は次郎と校長室で逢瀬を楽しんでいたわ。次郎がトイレに向かったから一人で居たんだけど、そこに忌引さんが来たの」
なぜ光葉がそこに来たのか気になるな。
「忌引さんが私と合流するまでのアリバイはさっき所沢が教えてくれたでしょ。ずっと山田と所沢がスト―キングしてたから、その時間帯では山田はまだ生きていた」
確かにその通りだ。
問題は所沢が光葉の騎士である以上光葉にとって有利な証言しかしないだろうということだ。
彼の話は半分くらい本当と思う程度で聞いた方が良さそうだ。証拠能力はほぼないだろう。
「光葉は、何故田淵の元に?」
「理由は……」
やや言いづらそうにする田淵。そりゃそうだろう。忌引が怪しいから調べていたら忌引の光葉が現れたんですとか、言いづらい。
「仕方ねェよ美里。もう秘密にする必要無くね?」
「……そうね。いいかしら沢木?」
「まぁ、こうなっちまったら仕方ないか」
「何が仕方無いんだ沢木氏?」
俺は田淵に頷く。
仕方ないだろう。出来れば秘密裏に調べたかったんだけどな。
「私は沢木と次郎と共に昭和時代にこの地で起こった神隠しに付いて調べていたの。突然一クラス丸ごと消えて、数日後二人だけ戻ってきた怪事件について、ね」
「お、おい、それって……」
「今の俺たちの状況と同じ……?」
「ね、ねぇ、待って。二人戻ってきた? 戻れるの!?」
「つまり、やっぱり脱出出来る場所がどこかにあるってことか!」
「なんで皆に言わないんだよっ。おかしいだろ! 何で秘密裏に調べる必要がっ」
「あったんだな。秘密にしてなきゃマズい事が」
激昂しかけた坂東を大門寺が遮る。
俺は神妙に頷き、足立が仕方なくあのノートを腹から取り出した。
どうやらズボンのベルトで止めて腹とズボンの間に挟んでいたようだ。
「なんだそれは?」
「沢木曰く、俺らが作った墓の近くに埋まっていた、前任者たちの墓に埋まってた日記だ」
代表するように大門寺が受け取り、日記を見る。
近くに居た最上達が大門寺の横合いから覗く。
一ページめくるごとに顔を険しくする大門寺。女性陣が徐々に顔を青くする中、読み終えた大門寺がノートを閉じて息を吐く。
「こいつは……やべぇな」
と、木場が見たそうにしていたので大門寺が彼女に手渡す。
「修に渡した奴ね。内容は確かに気になっていたの」
そしてまた、周囲の人が横合いから覗き込み同じように青くなる。
しばしの間、皆でノートの回し読みが起こったのだった。