第六回学級裁判2
死んだ山田は俺が気絶している間に音楽準備室に運ばれた。
俺が気付いたのはそれからしばらく、木場たちが来た後だ。
その間に犯人は山田を移動させ、光葉の学生証を回収したことになる。
木場たちがやってくるわずかな時間でそれができるのか?
それに、そんな事を誰かが出来たとすれば、音楽室が音楽準備室に潜んでいたことになる。
俺に見付かることなく、あるいは音楽準備室なら田淵と光葉の密談を聞いていたことになる訳だが、やはり所沢が有力か。
「とりあえず、犯行時間の間は何をしていたか、あと俺が襲われた時のアリバイを聞いといた方がいいか?」
「それが良いでしょうね。それじゃあ、一応修から行きましょう。時計回りがいいかしら?」
俺は皆を見回す。どうやらそれで問題は無いようだ。
「じゃあとりあえず俺から。図書室で女性陣の名前呼びについて議論していた。数時間程白熱して日付が変わる頃だ。アニキ……足立がやって来て田淵が居ないから捜索手伝ってくれって言われたんだ」
「名前呼びの議論ってなんだよ?」
「今関係ないでしょ坂東君。修、続きを」
折角意見出したのに即殺された坂東がムッとする。
ほんとうにどうでもいい事なんだよ。
俺に木場たちが名字じゃなく名前呼べっと圧力掛けて来てただけだし、危うく了承仕掛けたところで足立乱入の御蔭で今回はうやむやになった。
「とりあえず、それで足立と一緒に捜索をしてたんだ。俺と足立は四階から、十勝と木場、壱岐は下から、賀田と井筒が外回りを担当した」
「ということは、沢木氏と足立氏だけが先に発見した、ということですな。他のメンバーの動向は見ていない、と」
「ああ。それで、俺と足立で四階から捜索して、音楽準備室で田淵と光葉を見付けたんだ」
「そういえば山田の奴しきりに忌引のことスト―キングしてたよな」
「ああ、廊下ですれ違った時はやべぇ第二のストーカーじゃねって思ったし」
「そこんところどうなのよストーカー一号君」
「え? 僕? 原さん僕はストーカーじゃない。忌引さんの騎士だ!」
「いや、騎士って……」
叫ぶように平然と告げる所沢に、原が一歩退く。
まぁそうだろうね。退くよな。アイツマジで騎士とか言ってるんだし。
相当おかしくなってる思考回路はもはや正常に戻すことは不可能だ。
「それで、最上が……ああ、そうだ。四階に上がったところでトイレから出て来た最上とばったり会ってさ。屋上で先に会ってた大門寺に最上が居たら教えてくれって言われていたし、三階で合流する予定で探索に加わって貰ったんだが、最上が田淵と光葉発見時に音楽室のドアに視線を向けて発見したんだ。音楽室で揺れてる山田を」
「それで第一発見者が最上なのか」
「だから明奈は関係ねぇからなテメェら」
「あ、はは。そうっすね」
「あら。でも四階に居たなら山田君殺害を行うことはできる状況だから容疑者の一人ではあるわよ」
「木場?」
「あくまで容疑者に名を連ねているだけってことよ。そんなに睨まないでちょうだい」
舌打ちする大門寺。
木場はふぅっと胸をなでおろす。
実は結構緊張してたな。殴られる可能性も想定していたのかもしれない。
「とにかく、それで足立と最上に大門寺と木場を呼びに行って貰って、田淵と光葉に十勝を呼んで放送して貰うよう言ったんだ。俺は残って証拠品を探していた」
「で、さっきの証言に繋がるのね」
「そういうことだ、原。一応俺の証言はこんな感じだが、聞きたいことはあるか?」
俺の問いに、皆は考える。
「俺はないかな」
「俺の疑問はやはり、名前呼びの議論ってなんだ? ってことだな」
「それはどうでもいい。それより明奈が見付かったのならすぐに連絡が欲しかったな」
「それは悪い。どうせすぐに出会うと思って先に四階捜索を優先したんだ」
「トイレ長引いて、ごめんね?」
「い、いや、明奈が悪い訳じゃねぇよ」
「そうね、私としては、何故そこで自分だけ残ってしまったのかは聞いておきたいわね」
「そこを聞くよなやっぱり。その時は皆を一人きりにさせるのはマズいとしか思っていなかったし五人しか居なかったからな。二人づつにして余った自分の危機は想定してなかった」
「探偵としては致命的ね」
「ああ。殺され無くて良かった。むやみに首突っ込んだせいで遺体で発見なんて可能性もありえたしな」
今思うと全身が震える。
一撃喰らって昏倒した瞬間、殺されててもおかしくは無かったのだ。
そうでないということは、初めから俺を殺すつもりは無かったんだろう。
あるいは、致命的な証拠を見付けた俺を慌てて気絶させてしまった、とか?
今回は俺の失態のせいで証拠品をいくつか消されてしまった。
正直犯人が誰なのかすら分かっていないし、当りを付けることも難しい状態だ。
木場の推理に期待するしかないんだろうか?