第六の殺人2
「……ん? ぁ、痛ぇ……」
後頭部が痛い。
何があった?
眼を開けば、心配そうな顔の光葉の顔があった。
キス、しちゃってもいいだろうか。
なんだこの天国のようなシチュエーション。
思わずキス顔しそうになって、光葉の隣から割り込んだ木場の顔で我に返る。
「寝てた……か?」
「ええ、気絶してたみたいね。状況、分かる?」
「あー……」
ズキリズキリと後頭部が痛む。
何をしていたんだったか?
確か音楽室に来て……
「そうだ、山田ッ」
起き上がった俺は周囲を見回すが、山田の遺体が見当たらない。
「……消えた?」
「死体なら音楽準備室よ。誰かに移動させられたみたい」
「マジかよ!?」
クソ、やられた。何を取られた?
大切な証拠品がっ。
俺は急いで音楽準備室へと向かう。
そこには確かに山田の死体があった。
俺が見た時と違うのは……クソ、状況把握を優先してたせいで山田の死体についた証拠はまだ見れてなかった。
「沢木君、山田君のズボン、濡れてたかしら? それにその下の床は?」
「え? それは……」
必死に記憶を掘り返す。
ズボンが濡れてたか? 床に水たまりがなんかあったか?
いや、無かった。あの時山田は垂れ流してはいなかったはずだ。
定かな記憶じゃないが、確かまだそこまでじゃ無かった気がする。
となると、あの時山田はまだ生きていた?
もしくは死ぬ直前だった?
となると、犯人は殺害する直後位に俺達が居たからあそこに隠れていた、とか?
クソ、みすみす犯人を取り逃がしたってことか!
とりあえず証拠品は、俺の持ち物はスカートの切れ端と男子生徒のボタン、そして忌引の……ない? クソッ、多分光葉のだろう生徒手帳が無くなってる。
犯人に盗られたようだ。
他にもロープが無くなっている。あるいは俺が気付いていなかった証拠が持っていかれてるかも。
参った。まさか背後から襲われて気絶するなんて。
しかし、誰が?
「とりあえず、分かってることをすり合わせましょ」
「ああ。つっても大したことは調べられなかった。あった証拠は三つ」
「三つ?」
「スカートの切れ端、男子生徒のボタン。そして……光葉の学生証」
「……え?」
「山田が持ってたんだ。絶対に離さないって感じで」
「そう……ねぇ修。あれ、見てくれる?」
と、木場が視線だけ動かしてみせたのは、光葉のスカート。
少し切り取られた状態になっている。
「……ま、待ってくれ、もしかして……」
「ええ。スカートが切り取られてるのよ、忌引さんのモノだけ」
それはつまり、光葉が音楽室で山田に出会っていたってことか?
けど、それはおかしい。なぜなら光葉は田淵と一緒に音楽室準備室で話をしていた筈だ。
何があった? 何をした? 光葉、君はこの殺人事件に、関係しているのか?
「どう、死体に何か気になる所はある?」
「いや、死後硬直が始まってるくらいか?」
「それはそうなんだけど……」
素人でしかない俺たちではこれ以上はわからない。
クソ、今回も殆ど証拠がないぞ。
持ち去られた証拠もあるし、どうしたらいいのか……
「とりあえず、私達も屋上に行きましょう。皆待ってるわ」
「……ああ、そうだな」
そうか、もう放送が終わって皆集まってるのか。
仕方無い俺達も……ん?
立ち上がろうとして違和感に気付く。
「なぁ木場」
「何かしら?」
「山田って首吊りで死んだんだよな?」
「貴方達が見たんじゃ無かったかしら? 首を吊ってたんでしょ?」
「ああ。でも山田は漏らしてなかった。つまりあの時はまだ生きてた筈なんだ。そうなると死因はなんだ? 本当に絞殺だったのか?」
「そ、それは分からないわ。実際に私が死体を見たのはこうして横たわっている死体だもの」
「そりゃそうなんだが……」
俺はじぃっと山田を見る。
何か違和感がある。違和感の正体が分からない。
なんだ? 何がおかしい?
首元を凝視する。
縄の跡がある山田の死に顔。
そうか、あの時の山田は眼を瞑って首を下に向けていた。
でも今は、物凄い形相で舌を出し、暴れたような顔で死んでいる。
そして気付く。
そういうことか。
つまり、どういうことだ?
ダメだ。何が起こったかは理解出来たが犯人の特定には至らない。
もう少しだ。
もう一ピース欲しい。けどそれが見当たらない。
「犯人の特定は?」
「小川君、中田さん、貝塚君、原さん、坂東君、榊君、所沢君ね。彼ら以外は私達と行動しているわ」
「なるほど」
つまり、現状怪しいのは単独行動中と思しき所沢か。
だが、なぜ奴が俺を襲う? 光葉の騎士となったあいつが俺を襲う理由はなんだ?
他の奴が犯人ならばなぜ山田を殺した?
「行きましょう、修」
「……ああ。真相を、暴きに行こう」
今考えても真実には辿りつけない。最後のピースはきっと、裁判中にある。
見付けるぞ犯人。ただ、光葉、お前が犯人じゃない事を、切に願うぞ?