過去日記2
二日目。既にクラスメイトは滅茶苦茶だ。
女性陣は武装を始め、食糧庫を占拠。
弱肉強食組は手下を使って人海戦術。そこいらじゅうの食べれそうなモノを接収し始める。
負け犬組は悲惨だ。
食料が一つもないから土を水で洗って洗って洗って雑菌をコして食べたり、雑草を煮たり、ネズミを焼いたりして飢えをしのぐ羽目になった。
一日二日はそれでもいいが、この先何日も生活するとなるとこのままではマズい。
少年も日記にこの先の不安を綴っていた。
三日目。腹の虫が収まらない。
頭がぐわんぐわんしている。
周囲で寝ていた仲間たちも似たような状態だ。
このままじゃ誰からともなく死んでしまう。
最悪水だけは確保できている。
七日は生き残ることは可能だろう。
とはいえ、衰弱状態でどうなるかと言われると死ぬ以外に道はないだろうが。
少年は苦悩した。
このまま座して死を待つべきか、それとも行動を起こすべきか。
少年は座して死を待つことを拒絶した。
弱肉強食組に向かい、彼らにより殺されたクラスメイトを奪取する。
成功した彼は生まれて初めて、人を食べた。
元クラスメイトを、同じ仲間を、彼は生きるために食べる選択をしたのだ。
見付からないように気を付けながら、負け犬組の数人と共に命を繋ぐ。
今、ここに居るメンバーは共同体だ。
命がけで他者を蹴落とし、生き残る。
例え悪魔に魂を売り渡そうとも。
それからは隙を見て死体を奪い、命を繋いだ。
弱肉強食組は潤沢に食料がある女性組に戦争を仕掛けたらしい。
何人かの女性を手に入れ喜んでいた。
しかし翌日の早朝。疲れて眠っている所に女性組の急襲部隊が突撃し、散々に男共を殺して行った。
まさに悪鬼のような女性組。しかし、逃げ延びた弱肉強食組が反撃を行い、まさに血で血を争う戦争になった。
当然負け犬組はこの戦争の間に大量の肉を確保した。
少年は前から狙っていた女生徒の遺体を手に入れ喜んでいるのが書かれていた。
どうやら既に狂気で精神に異常が来ていたようだ。
しばらく見るに堪えない日記が続く。
七日目。
女性組と弱肉強食組は共倒れという結果で戦争を終えた。
最後の二人は生き残っていた負け犬組によりトドメを刺されたのだ。
もはや生き残った負け犬組は腐った肉すら食べるハイエナと化していた。
十五日目。
ついに食料が尽きた。
負け犬組は必死に食材を探し、結局見付からず、互いを食料と認識し始めた。
愛しい女性を喰らい、我に返った少年は、一人、自分たちの狂気に気付いて呆然とする。
ここからは後悔ばかりが書かれ始めた。
十七日目。
ついに彼が食料にされそうなようだ。
日記にはもう腕を喰われ、足を喰われ、口に筆を取って文字を書いていると書かれていた。
壮絶な生存戦争を生き残ったのは二人。
彼はそれに含まれなかったようだ。
最後まで、生き足掻こうとした少年の魂の叫びがそこにはあった。
そして、別の誰かが日記を引き継ぐ。
別の少年によって書かれていたのは日記を引き継ぎ、またここに来た者がコレを見た時に同じ間違いをしないようにと願ってのことらしい。
そしてその少年は疑問が一つあったようだ。
それがここに来た時自分たちの側に居た筈の少女が消えていたこと。
同じクラスに居た筈なのに、皆が彼女がクラスメイトだったことを知らなかった。だが、彼は確かに覚えていた。
いたはずなのだ。忌引は確かにこの世界に来る前まで、居た筈なのだ。
そう、書きなぐった後で、日記は途切れていた。
おそらくこの後に何らかの方法で位相世界から脱出できたのだろう。
俺たちは唖然としながらノートを読み終える。
足立も田淵も無言だった。
そして俺たちは、一つの事実に神妙な顔で頷き合う。
「忌引……か」
「これって、忌引さんと関係あるのかしらね?」
「確かよぉ、二十年前にも忌引がいたんだよな?」
「このよくわかんない世界とどの年代にも存在する忌引。光葉さん、何者なの?」
「いや、普通の女の子のはずだが……」
さすがにここまで忌引姓が連発していると俺としても光葉を疑わざるをえない。
「ただ、光葉が何らかの事情を知っていることは確かだろうな。聞いてみた方がいいだろうか?」
「まだ待ちなさい。一応校長室で調べ物があるから、明日、その結果を持って私達全員で尋ねましょ」
「だな。下手に一人で尋ねるべきじゃねぇぞ」
「ああ、わかったよ」
足立も田淵も一人で確認するのは止せという。
俺としてもこれ以上死亡フラグをおっ立てる気はないし、彼らの言葉に従おうと思う。
しかし、光葉、一体君は何者なんだ?
俺にレイプされた可哀想な学生のはずだろう。
それだけの物静かな少女の筈だろう?
君に何か、秘密があるのか……?