第一回学級裁判2
「で、香中と田淵がよろしくヤッて、俺が高坂とな。直前でこの女逃げやがったんだ」
「そりゃ逃げるわよっ。身を守るために身を差し出すとかおかしいでしょっ!」
ちぇっと香中を見ながら上手くやりやがって。みたいな顔をする足立。可哀想とは誰も思いはしなかった。
そりゃあ高坂の宣言通り逃げるに決まっている。ヒステリックに叫んだ高坂に皆の視線が向かう。同情と言うよりは最上に強要したくせに? みたいな白い目だ。
うぐっと押し黙った高坂に、黙っていられなかった女が叫ぶ。
「何よッ! あんただけ逃げたのッ!?」
「だ、だって、美里凄く暴れて痛そうだったし。恐くて……」
「ふざけんなっ。テメーだけ逃げてんじゃねぇよクソ女ッ」
激昂する田淵が高坂に駆け寄り詰め寄った。そのまま首を絞めて思い切り揺さぶりだす。
「ちょ、苦し……っ」
「煩いっ、死ねっ、死ねよッ」
「ちょ、見てないで止めなよ!?」
鬼気迫る顔で友人を殺そうとした田淵。はっと我に返った大河内の言葉で大門寺が田淵の首根っこ引っ掴んで思い切り引き離した。
流石に田淵も大門寺相手には喰ってかかれなかったようで、ひぃっと焦ったように尻持ち付いて大門寺から遠ざかる。
「げほっ、うぅ……」
「殺人者が二人になるところだった……」
「ちょっと大河内君、不謹慎」
「あー、その。と、とりあえず俺らの話は今回置いとこうぜ? あっちの怒りも爆発寸前みたいだしよ」
「あー。そ、そうだな。話逸れてるもんな」
「ほ、ほら、どーどー。田淵さん落ち付いて」
……うん、二班もいろいろヤバそうだけど今回の殺人者は居なさそうだ。
普通班の三人娘に拘束されて田淵は未だ憤った顔で高坂を睨みながらもここで暴れても意味は無いと思えるだけの理性は戻ったらしい。
木場もこれ以上聞いてはいけないと思ったようで、言葉を切るように十勝に視線を向けた。
「私の記憶じゃ貴方達、牧場さんを体育館から連れていってたわよね?」
びくり。話が飛んできた三人娘が青い顔になる。
次はこの三人がターゲットのようだ。
ソレを見ていた小川がギロリと視線を向けた。
「まさか、お前達が……」
「ち、違う違うっ!」
「た、確かに体育館からトイレに誘い出したわよ!」
「あ。馬鹿っ」
「いいの。とにかく、私達の話は直ぐに済んだのよ。才人様だって知ってるでしょ。その後本人と会ったんだから」
川端の言葉に怒りの矛先を逸らされた小川が呻く。
そう言えばそうである。
時系列的に言えば、彼女達が犯罪を犯した事実はない状態だ。
体育館から彼女達に呼び出された後、殺されるまでの間は小川と教室でにゃんにゃんしていたのだ。
ならば、彼女達が犯人説は無くなる。
「その別れた後は、ずっと三人一緒だったの?」
「ええ。そのまま鏡の前で才人様の良いところを話し合っていたら悲鳴が聞こえて……」
トイレに牧場を呼び出して何か話した後からずっとトイレで小川の話とか。よくもまぁそんな場所で長時間居られたなぁ。
「慌てて飛んで行きました」
「そもそも憎くはありましたけど、才人様の彼女に手を出して才人様の不評を買う訳ないじゃないですか」
ぶーぶーと中田が告げる。
その辺りが怪しいからこそ聞いているのだが、自分たちは絶対にやって無いと自信たっぷりに告げる彼女達を見ていると逆に犯人にしか見えて来なくなる。
でも、三人が共同で犯罪を行うにはお粗末すぎるし、そもそも殺した相手はライバルとしても消える存在なので三人が犯人を庇う意味は無い。
ならば三人とも本当にトイレに籠っていたんだろう。
にしても……犯人候補が一人もいなくなってしまった。
つまり、誰かが嘘を吐いてるってことか。
「誰か、途中でトイレに立った人は?」
「つかよ、いろいろ質問してくるのは良いけどテメーらはどうなんよ? お前と、沢木と所沢と、忌引だっけ」
アリバイを崩すために質問したのに足立に潰されてしまった。
仕方無く俺が代表するように答える。
「ああ、俺たちは四人一組で行動してたよ」
「でも購買に居たんだろ。俺の背後から直ぐ現れたんだしよぉ、お前ら五人」
「ええ、そうよ。私達は丁度購買に着いたところだったの。その後倉庫に向かう予定だったから、貴方達とは一足違いだったわね」
「だったら無理か。って、あれ? んじゃ殺人者候補いねーじゃん」
「そうね。皆にアリバイがあるわね。どうなってるのかしら?」
「お、おいおい、部外者が居るとか言わねぇよな」
「ええっ!? 知らない人が紛れ込んでるの!?」
「だって俺ら全員アリバイ成立ならそれしかないだろ?」
そう、いな……いや、待て。
なんであんな怪しい奴を見逃していた?
そうだよ。おかしいじゃないか。何であいつはあそこに居た?
あの時、あの場所に居た理由はふらふらしてたから、なんて理由じゃ納得出来ないぞ。