三者協定
「これって……」
「とりあえず見つけたから報告しただけ、どうなってるのかは聞かれてもわからないわよ?」
そりゃあそうだろう。二十年前の新聞記事に光葉の話が乗ってるなんて、いや、となると、二十年前十代だったってことは光葉は30代後半ってことか!?
「あ、姉さん女房……」
「いや、そこじゃないだろ驚くところは」
「あ、あれかな。岩窟王的な? あまりにショッキングなことがあって成長止まった、とか?」
「いや知らんがな」
「あ、でもそれはありそうね。ってことは本人? じゃあ忌引さんは前回のこの状況から生き残ったってこと? つまり、彼女は知ってたってことになるわね」
何を? と聞くのは野暮だろう。
つまり、光葉が本人である場合、彼女は二十年前今と同じ状況となり、木場、大河内の親と思しき人物と共に生還した。
大河内、木場、忌引。この三人は昔の脱出方法を知っており、あるいは、ここに来る方法も、知っていた?
山田が狙っているのは、もしかして……
いや、まさかそんな? でも、そう考えると少しづつほつれた糸が解けて行くような……
「光葉の謎……か」
「つかここの名前の人物が忌引自身だった場合、お前30代後半の女を抱いたってことか」
「みたいだな、まぁ光葉は可愛いから良し」
「マジか」
「あんたどんだけ忌引好きなのよ……」
「いや、光葉可愛いんだって。こう、ぽすっと抱きしめやすい体型だし、撫でやすいし、顔可愛いし。今まで彼氏が居なかったのが不思議なくらいだぞ」
「そりゃ、確かにな」
「確かに、今まで彼女は目立たなかったわね。まぁ、その辺りは良いとして、沢木」
「ん? まだ何かあるのか?」
「校長室を探しきった訳じゃないからまだ何かあるかもだけど、忌引さんのことどうするの?」
「どう、と言われても、確証がない今の段階じゃなんとも言えないな。光葉が関わってるか分からないのに疑うのもどうかと思うし」
「そう。一応こちらでも探っておくわ。また何か分かればその時に」
「了解」
新聞の切り抜きを足立に渡す。
「おい、いいのか?」
「俺が持ってて何かの拍子に図書館メンバーに見られたら面倒なことになりそうだからな。二人に預ける」
「次郎、持っといて」
「まぁいいけどな。っし、なんか過去の記録暴きも面白そうだし俺も本格的に手伝ってやるぜ」
「今まで適当だったのか」
暴かれ始めた謎に気を良くした足立に二人して溜息を吐く。
俺達三人は真相を暴く為の同盟だ。
協定としては他の誰かに喋らないこと。
「引き続き色々調べてみるわ。もしかしたら別の教室にもあるかもだし」
「分かった……別の教室、か」
別教室と言えば皆が探索を始めている筈だ。
もしかしたらそっちで何か見付かってしまうかもしれない。
「皆が探索を始めてるから何か見付かるかも、俺も合流してみるよ」
「分かったわ。こっちは校長室終えたら開かずの間に行ってみる。校長たちだけが使用していたのならあそこにも重要機密が置かれていても不思議じゃないから」
「資料っつーなら職員室もだろ」
「じゃあ手分けしましょうか次郎」
「え? マジで」
「エッチなことはおあずけよ」
「おいおい、俺よか自分の首絞めてんじゃねぇかぁ?」
「さぁてどうかしらね」
クスリ、微笑む田淵。
妖艶な保険医を思わせる彼女に、足立アニキが真っ赤になってそっぽ向いた。
うん、まぁよろしくやってくれや。
保健室を出て図書室へと向かう。
中田良子がふらふらと廊下を漂っていた。
絶望したような顔をしていたのが印象的だった。
「沢木君……」
「お、おぅ?」
「才人君、知らない?」
「あー、すまん。見てない」
「そう、ありがと」
まるでゾンビのようにのったり歩く中田。正直恐怖しかない。
おそらく慰めようとして小川に手酷く袖にされたのだろう。
「あー、大丈夫か?」
「……私? ええ。才人君が居るからまだ大丈夫。どんなに邪険にされても側に居続けるわ」
「あんまり追い詰め合うなよ。たまには互いに一人になって深呼吸するくらいの余裕持った方がいいぞ?」
「分かったわ」
本当に分かっているのだろうか? ふらふら歩く中田は壁にぶつかりドアにぶつかり、窓にぶつかりと心配になるほど憔悴しきっているように思う。
皆。少しづつだけどおかしくなってきている。
限界が近いのだ。
食料も目減りしているし、暇潰し出来るものもない。
彼氏彼女がいれば現実を忘れるように互いに愛を貪り合う。
特に貝塚と原は如実だろう。
足立たちは別の趣味というか校内探索に乗りだしたので多少マシな思考だが、他のクラスメイトたちは……出来るだけ早めに脱出方法を探しださないと。
今危ないのは? 山田に小川、中田だろうか?
最上も危うくはあるし、光葉と木場は疑惑がある。
それと、たびたび目撃される大河内。本当に生きているのか、それとも……