昼の密談
昼になった。
再び食堂に集まった俺たちは食事を行う。
俺の側は女性だらけだ。しかも俺の両隣を誰が座るかでもめている。
正直冗談としか思えないほど夢のハーレム状態だ。
しかし、そのハーレム状態から誰もいなくなった実例がすぐ側にいるので女性陣からちやほやされてるからって高を括る訳にも行かない。
とりあえず、俺の両隣りは光葉と十勝が奪い取った。
悔しそうにしているのは井筒と木場。
木場は多分フリだけだろう。本当に悔しがってるようには思えない。
そして壱岐は迷ったあげく、何故か俺の上に座って来た。
やめろ。男の癖にそこに座るな。
しかも無駄に柔らか華奢ボディをおしつけてくんな。
「お前、ついに男にまで……」
「さすがですねアニキ」
「ちょ、待てっ。壱岐は違うからなっ、何もしてないからなっ!?」
坂東と榊が引いた視線を向けて来たので慌てて告げる。
しかし、どうにもフリにしか思われなかったようだ。
「け、結婚式には呼ばないでくれよな?」
「結婚式には来ないでくれよな」
「お前ら人の話聞けよ!?」
今回来ていないのは山田、小川、中田、所沢。
所沢の奴光葉のトイレに付いて行ってから見当たらないな。どこほっつき歩いてんだ?
「おう沢木」
「ん? アニキか。どうした?」
「だからなぜアニキ……ああもうアニキでいいや。それより昼メシ喰った後また保健室来いよ。当然一人でな」
「おっけー。了解」
「何よ密談?」
「まぁそんな感じだ」
そう言いながら周囲を見る。
最上が気落ちしているのも気になるがあっちは大門寺に任せておけばいい。
貝塚と原はバカップル化してはい、あーん。しまくっているから放置の方向で。
坂東と榊は隣り合って粛々と食事を取っている。なんか男二人隣に並んでるのを見ると哀しくなってくるな。すまん、今度からちょっとは優しくしようと思う。
「昼から修は用事があるのね。じゃあ私達はどうしようかしら」
「んー」
「まぁ図書室でゆっくり本でも読んでいようかしらね」
「えー、またぁ」
「私は道場に行きたいのだが、まだ個人行動は無理なのだろうか?」
「別に無理じゃないわよ。三綴君も居ないから一応気を付けてくれればそれでいいわ」
「分かった。ならば道場で暇を潰して来るとしよう」
「んー。天ちゃんは道場かぁ。行ってもいいけど私は暇になっちゃうしなぁ。十勝さん何か暇潰しないかな?」
「そうですね……ではお宝探しはどうでしょう?」
「お宝探し?」
「各教室の机の中やロッカーを探して何か使えそうなモノを探すんです。ほら、各教室の後ろのロッカーとかは道具が詰まっていたでしょう」
「あ、それ面白そう」
「なら私もご一緒しようかしら。忌引さんはどう?」
「ん。行く」
「待て、そういうことなら私も一緒させて貰う、構わないか玲菜?」
「天ちゃん寂しいのかなぁ~仕方無いなぁ」
どうやら光葉も暇だったようだ。
壱岐だけはうーんと考えていたが、その視線が最上に向けられると、決心したように十勝に告げる。
「あの、僕も一緒でも、いいですか?」
「ええ。構いませんよ」
柔らかに微笑む十勝に照れる壱岐。
女性と話すのも初めてに等しい彼にとっては十勝の言葉はインパクトがデカ過ぎたらしい。
恥ずかしそうに俯いて尻を左右に揺すってもじもじする。
うん、止めてくれ。なんかそれはマズいから。
「あっ」
「どうしたの壱岐君?」
「な、なんでもない」
とかいいながら俺に視線を向けるな。恥ずかしそうにするな。なぜさらに尻を押しつけて来る?
マジで止めてくださいっ。おまわりさんこいつですっ!!
そして昼食が終わる。
なんとか耐えきれた。
いろんな意味で俺は耐えきった。
壱岐の奴。なぜかフローラルな髪の匂い漂わせてくるんだ。
あいつ女性物のシャンプーでも使ったのか?
食事を終えた俺は中腰になりながら不自然な歩きで保健室に足早に向かった。
光葉のぎるてぃという呟きが耳に残った気がしたが、全然ぎるてぃじゃないのですぐに忘れることにした。
保健室に向かうと、少し遅れて足立と田淵がやってくる。
神妙な面持ちの二人はカーテンを閉め、ドアに鍵を掛け、念入りに他の誰かが聞いていないかと確認する。
「どうしたんだよ二人とも」
「沢木。校長室でこいつを見つけた。気をしっかり持って見ろ」
気をしっかり持ってって、足立から受け取った新聞の紙切れを見る。
驚きに眼を見張る。
そこにあったのはありえない名前だった。
大河内神奈。木場祐司。そして……忌引光葉。
大河内は多分大河内斈の母だろう。木場祐司ってことだし木場の父親か?
その辺りは理解出来る。だが、忌引、光葉? 光葉と同じ名前の存在が、二十年前に存在していた?
ありえない名前にしばし呆然とする。
気を強く持て。言われてなければ俺はそのまま倒れていたかもしれない。
なんとか気力を保ち、内容を読みこんでいくことにした。