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見つけた

 足立次郎と田淵美里は校長室に居た。

 ここには苦い思い出しかないが、今は思いだすのを我慢して資料探しだ。

 何かあってくれればいいが。

 田淵はやる気のない足立と共に資料を探す。


「なぁ」


「なによ次郎? シたいならいつでもするわよ?」


「いやそっちじゃなくてだな」


 頭を掻いて、どういったものかと考える。


「正直あると思うかぁ? こんな場所にそんなピンポイントで」


「さぁ、どうかしら? でも……可能性があるなら調べてみるのもいいんじゃない?」


「なんでだよ? 別にそう言うのは沢木たちに任せりゃ……」


 田淵はやる気ない足立に困った顔を向ける。


「そうできたらいいんだけどね。次郎、あんた食料庫見た?」


「食糧庫?」


「ええ。既に冷凍食品もすぐ食べれる奴は数える程。調理物ならまだあるけど、一週間持てばいい方よ」


「マジか?」


「ええ。出来るだけ早く脱出の手掛かり見つけないと、飢え死にで全滅」


「ちょ、ちょっと待てよ。沢木たちが裏庭に野菜育ててたろ?」


「それだけでこの人数をどうにかできると思う? 食堂も補充される訳もないから減る一方。多分、二週間持たないわ」


 大問題じゃねぇか。足立は今更ながら顔を青くする。


「そ、そんなに切迫してたのかよ」


「ええ。木場や沢木は気付いてるだろうけど、あの二人はパニック恐れて絶対に告げることはないわ」


「よくわかったな?」


「私達の食器洗うの誰がしてると思ってるのよ」


「美里だろ?」


「そうよ。私が一人で洗ってんの。まぁ二人分だからいいんだけどさ、一人だけって無防備だと思わない?」


「悪かった。今日からは俺も食堂行くよ」


「あら、悪いわね」


「確信犯だろ……って、おお?」


 引き抜いた専門書にひっついていた紙きれが落下する。


「何か落ちたわよ。これは……」


 田淵が持っていた本を仕舞ってしゃがみ込み、紙きれを拾う。

 ただの紙切れだと思っていたが、これは違う。

 新聞の切り抜きだ。


「……見つけた」


「は? 見つけたって、何を?」


「これよ。探してたのが見付かったわ」


 田淵が切り抜きを読んでいく。

 最初の方は普通の顔だった。けれど読み進める程に険しくなっていく。


「どうした田淵?」


「これは……思った以上に最悪な事実かも」


「こりゃあ二十年くらい前の新聞か」


「ええ。丁度私達の親世代・・・ね」


 そこには今の自分たちと同じように、数日間消え去ったクラスの話がつづられていた。

 唐突に授業を受けていた一クラスが神隠しにあったように消え去る事件。

 そして十日程経った後のこと。三人の男女が生還した。


 名前は、大河内神奈。木場祐司。そして……忌引光葉。


「お、おいおい。どういうことだよこれ?」


「間違いだと思いたいけど。忌引光葉。凄く怪しいわね」


「まぁ、忌引なんて名字からして珍しいから娘さんだとは思うが。まさか同一人物とか、言わないよな?」


「同一人物だったら三十代後半くらいよ。あの姿はどう見ても私達と同じ同年代だったわ。まるでバケモノになってしまうじゃない」


「じゃあどうなってんだよ」


「可能性としては……娘、でしょうね。自分の娘に同じ名前を付けるのはおかしいとは思うけど……」


 足立と田淵は顔を見合わせる。

 二人とも顔がこわばっている。

 まさか本当にこんな怪しい記事が見付かるとは思ってもみなかった。


「沢木に伝えるべきだな」


「ええ、昼食後にまた呼び出すしかないわね。エッチはおあずけよ」


「へいへい。つか俺の方ががっついてるみたいに聞こえるんだが」


「え? 違うの?」


「違ぇよ!?」


 切れ端を懐にしまい、田淵と足立は校長室を後にする。


「ん? 小川か」


「ああ、足立に田淵か」


 元気のない小川が階段から降りてきた。

 足立と田淵を見て少し哀しげに俯く。


「どうしたんだよ?」


「なんか、さ、女って、恐いよな。何考えてるか分からなくて」


「あら。もしかして度重なる裏切りで女性不審?」


 田淵の言葉にははと頷く小川。

 川端の死と日上の殺人により彼の精神は摩耗しきってしまったようだ。

 ふらふらと外へと向かって行く。


「なんつーか、哀れだな」


「きっと、この空間から戻ってきた奴はああいう経験をし終えた後だったのでしょうね」


「おいおい、冗談じゃねーぞ。お前は俺残して死ぬんじゃねーぞ」


「そうね。できるだけ努力するわ。というかあんたもよ次郎。先に死んだり誰か殺したりするんじゃないわよ」


「あったりまえだ」


 笑いながら拳を突きつけ合う。

 二人は踵を返し、昼休憩までゆったり保健室で過ごすことにしたのだった。

 ベッドに座ってゆったりし合う二人からは、小川を気に掛けることなど既に欠片すら覚えちゃいなかった。

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