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ストーカーは進化する

「そうか……僕の使命は……」


 眼から鱗が落ちたように光に満ちた顔で涙を流す所沢。

 果たしてコレで良かったのかどうか。

 だが、まぁやれるだけはやった。


「じゃ、謝りに行こうか所沢」


「ああ。忌引さんに許して貰えるよう全力を尽くすよ」


「全力尽くすのは良いが相手が迷惑に思うようなことはするなよ?」


「あたりまえだ。僕の全ては忌引さんの為にある。僕は騎士なんだ。忌引さんのために全てを投げだし彼女の盾となる。彼女が望むならば彼女が誰かの妻となろうとも。影に日向に彼女だけを守り抜く!」


 うん、ちょっとやりすぎたかもしれん。

 なんかおかしな方向に思考誘導してしまった。

 まぁ俺が刺し殺されることは無くなったので良しとしよう。


 と言う訳で、所沢と一緒に図書室へと戻る。

 先に戻っていた女性陣と壱岐が所沢の出現に驚いていたが、入室一番、光葉の元へと近づいた所沢は彼女の前で土下座。すいませんでしたっ。と速攻の謝りを披露し、さらに皆を困惑させる。


「修、これはどういうこと?」


「ああ、いや。所沢の精神が危なかったからさ、とりあえず思考誘導してみたら……光葉の騎士だと言いだして……」


 物凄い押しを披露されて謝罪を受け取った光葉に自分を売り込む所沢。騎士として貴女を守らせてくれと強引に彼女の騎士に収まってしまった。


「なんだか、おかしなことになったわね」


 図書室前で仁王立ちするらしい所沢の背中をドア越しに見つめ、木場がため息を吐く。

 まぁ問題は無いだろ。

 これで光葉の身の安全と俺の命の危機二つがいっぺんに守られたのである。

 一挙両得である。


「ま、まぁいいわ。それで、田淵さんたちと何を話していたの?」


「え? あー……」


 お前がこの学園に俺達閉じ込めたんじゃね? って相談してた。なんて本人に言える訳がない。


「新しいエロに対する探求……かな」


 あまり言いたくないと言葉を濁して告げたのが良かったのだろうか?

 木場は納得した様子で俺との会話を切り上げる。


「さて、それじゃぁ、本日の暇潰しは何にする?」


「エッチ、とか?」


「井筒さんはそればっかりですね」


「まったくだ。もう少し慎みを持て玲菜」


「えへへ。無理でーす」


 もはや自分の欲望を隠す必要がないので玲菜さんはドエロ街道まっしぐら。

 溜息吐いた賀田は玲菜を連れて本棚の連なる奥へと去っていく。

 俺と致させるのは絶対に阻止するんだそうだ。


 二人は二人だけでお楽しみなそうなので、一先ず俺たちは図書室を出て時間を潰すことにした。

 校長室は田淵たちが探してるはずだからそこに行くのは避けるとすると……どこで時間潰そう?

 俺は木場と顔を見合わせる。


「そうね。せっかくだから体育館で汗でも流しましょうか?」


 木場。それってただ運動するだけだよな? バスケかバレーでもするつもりか?


「あ、あの、ちょっとトイレ行ってから、行くね?」


 俺たちは雑談しながら体育館へと向かう。

 だから気付かなかったんだ。

 光葉がトイレに向かい、それを守るように所沢が女子トイレ前に張り付くことに。

 そのことが何を齎すのかを、俺たちは、全く思いもしなかった。




「所沢君、ちょっと、いい?」


 忌引光葉は皆が居なくなったのを確認し、所沢をトイレ内へと呼び寄せる。


「はい、何ですか忌引さん」


「貴方にとって、私は何?」


「僕にとって? えっと、言葉にしづらいですけど、大好きな人です。貴女の為なら僕はいつでも死ねるくらいに。貴女の幸せが、僕の幸せなんです」


 忌引光葉は知っていた。

 忌引光葉は気付いていた。

 所沢勇気が既に壊れていることに。


 彼はストーカーだった。

 自分を付け狙う、一番危険なレイプ犯予備軍だった。

 どうにかしようと、前から思っていたのだが、思った以上の成果を沢木修一が行ってくれた。


 ストーカーをストーカーのままに、彼女にとって都合のいい存在に変えてくれたのだ。

 ならば、使わなければ、損だろう。

 詳細を聞けば、光葉を自分の物にしたかった所沢の思考を、自分を光葉の所有物だと思わせるようにしたのだとか。

 だから、彼にとっては光葉の好きなように指示されることこそが彼の望みと言うことになる。

 ならば……告げるしかあるまい。


「――を、殺してほしいの」


「……え? あいつを、殺すのか?」


「うん。私の秘密に気付いたから、これ以上知られる前に。でも、私がお願いしたと知られてはいけない。修一君に悟られてはいけない。直情的に殺人を狙ってはいけない。策を弄してトリックを使って、誰が殺したか分からないようにして。出来る?」


「仰せのままに。僕は、貴女の為ならば何だってやります」


 トイレの床に片膝付いて光葉の騎士が頭を垂れる。

 近づいた光葉は優しく彼の頭を撫でた。


「さぁ、行って来て。私の騎士様」


 クスリ。笑みを浮かべる光葉。

 彼女の秘密を探り始めた誰かに、最悪の刺客が放たれた。

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