平穏なる朝食
ようやく五日目。
まだ、五日だ。
これだけの事があったのに、まだ五日なのだ。
初日、牧場が死に、大河内が飛び降りた。
二日目、香中が刺殺され、高坂が墜落死した。
三日目。御堂と足立の飽戸が篠崎に殺され、三綴が及川に殺された。
もちろん犯人は見付かり、篠崎が自殺した。
四日目。及川の犯行が発覚し、自殺しようとした井筒を庇って及川が墜落死した。
そして本日。早朝に発覚したのは川端の刺殺。犯人の日上は自殺。
一応日上が犯人だったということでこれで一巡。
順番であるならば次は一班。
明日の死者は小川達から出るはずなのだが、既に川端が死亡している以上コレは無理だろう。
何しろ一班のメンバーは既に小川、中田、十勝の三人。十勝は俺達と図書館で寝泊まりしているのでほぼ死亡したり殺したりはないはずだ。
と言ってもこれは俺達が勝手に決めたルールみたいなものなので守られるかどうかは不明。
そもそもあってないような暗黙の了解だ。
だから順番通りに犯人と死者が出る訳じゃない。
もはや俺たちの利害関係は複雑に絡み始めていて、誰がいつ殺人を起こしてもおかしくない状況になっている。
それでも……
仮眠を終えて朝食に向かう。
食堂では既に女性陣となぜか壱岐が混じってレトルト料理を作っており、暇を持て余していた坂東と榊が来ていたが、俺を見ると露骨に舌打ちをしてくれた。
「お、もう食事作ってんのか」
「あ、足立アニキ」
「だからなんでアニキなんだよ」
「ふふ。アニキね。アニキ」
しばし食事を待っていると、足立と田淵がやってくる。
足立をアニキ呼ばわりすると、田淵がそれに笑いを向ける。
ツボに入ったようだ。
「小川は?」
「ああ、中田が私に任せろっつーから任せて来た」
それ、大丈夫なのか?
「ん? なぁ、あの可愛い子誰だ?」
「へ? あ、ああ、奴か……」
「新顔? いや、でも、何か見覚えが……」
「あれ、壱岐じゃない?」
田淵が気付いた。
しばし沈黙して足立がしっかと壱岐を見る。
「うっそだろ!? マジか。なんでアイツ女になってんの」
「い、いろいろあってな、女装しちまった」
「ああ、その顔と言葉で察したわ。ご愁傷様」
田淵は理解したようだが足立は気付かなかった。小首を傾げる足立を放置して、田淵が俺に同情する。
「沢木、少しいいだろうか?」
足立と田淵と会話していると、その背後から山田がやってくる。
「おぅ。山田じゃねぇか」
「沢木に用事? 私達混ざらない方がいい?」
「いや、構わん。聞かねばならん事があってな」
随分と深刻そうな顔に、俺たちは顔を見合わせる。
「何かあったのか?」
「お前は、この学園に連れて来られた理由とか、主犯を知ってるか?」
連れて来られた理由? 主犯? いや、そんなのは知らないが。
しかし、なんでまた山田がそんなことを?
「いや、知らんけど、何か知ってんのか?」
「いや、知らないのなら、いいんだ。お前が知らないのなら、ああ。奴が単独犯なのならまだ救いはある……」
「山田?」
「邪魔だけは、するなよ沢木」
それだけ告げて、山田が不気味に去っていく。
「なんだありゃ?」
「不気味ね。なんていうか、犯罪を犯す決意をした後みたいな……」
「おいおい……」
「ねぇ沢木。今の山田の言葉。あんたの知り合いに主犯って奴が居るんじゃないの?」
「主犯って何の? ここに俺達を閉じ込めてる奴が俺の周りに居るとでも?」
そんなバカな?
いや、でも、その可能性はあり得るのか?
怪しい奴は?
やはり木場か? あいつは犯人当て楽しんでるから可能性は一番高いかも?
「何の話?」
「うひゃっほぅ!?」
木場の事を考えた瞬間真後ろにやって来た木場。
思わず変な声が出た。
「ふむ。なんでもないわ。沢木、朝食食べたら保健室に来て。あんた一人で」
「あ、こいつなんて呼んでどうすんだ。まさか3P……」
「その腐った眼ン玉突き潰すわよ?」
とりあえず田淵に了解と伝える。
確かに山田の話は気になる。
アイツ何かに気付いたのか? それとも、何か別の要因で知ることになったとか?
一先ず食事が出来たので俺たちは食事を取る。
残念ながら全員一緒にではなかったが、朝食は実にゆったりとした時間を過ごすことが出来た。
本日の殺人は起こらないと皆が気付いているからだろう。
小川、中田、所沢が来てないが、皆彼らが居るかどうかなど気にすることもなくただただゆったりと時間を楽しんでいた。
できるならば、この時間がずっと続けばいいのに。そう思ったのは、きっと俺だけじゃない筈だ。
食事を終えるとぴったりくっつこうとした光葉と壱岐を木場に任せ、俺は一人保健室へと向かう。
既に食事を終えて待っていた田淵と足立が椅子に腰かけ待っていた。