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第五の真相8

「お、おい沢木……?」


「違うって、どういうこと?」


 小川が驚き、木場が眼を見開く。


「お前ら気付かなかったのか? 日上は今、ありえないことを告げていたぞ」


「ありえないこと? な、なんだよそれ?」


 そんなバカな、と榊が告げる。今更だがお前、普通に会話可能になったんだな。

 あのまま壊れた思考回路になってると思ったけど正常そうで何よりだ。


「いいか、日上はさっき、こう告げたんだ。言われるままに十勝を連れて降りて行く。そして、殴られた。気配に気付いて振り返った川端を刺し殺し、川端が行おうとしていた殺人偽装を自分が行った。死体は川端で、血付きの包丁を床に落として、そこに中田を寝かせ、階段から戻った」


「そ、それのどこがおかしいのよ?」


「次の一文だよ日上。すると十勝が斃れて・・・・・・いることに気付いた俺達がやって来ていて、襖の奥でしばし待機した」


 そう、これはあまりに不自然だ。


「そ、その一文がどう不自然だって言うのよ!?」


 そうだそうだと野次が飛ぶ。


「わからないのか? 教えてくれよ日上。十勝はお前が開かずの間に連れて行ったんだろ? どうやって戻したんだ? お前が一度上に戻った訳でもないのにさ」


「あっ!?」


 今気付いたように日上が眼を見開く。

 木場もようやく気付いたようで失敗したと苦虫を噛み潰した顔になる。


「そ、それはその、告げ忘れただけで、十勝さんを上に……」


「何のために? 十勝は暗闇に倒れていたんだろう? 殺人現場を整えていたお前は何のために、いつ、どうやって十勝を上に戻した?」


「だ、だから、その……」


「本当は、十勝を連れて開かずの間には行っていない。そうだろう?」


「あ……ぅ……」


「だ、だったら、だったらなんだっていうんだ沢木ッ」


「悪いな小川。お前にとっちゃ最悪の結末だ。でも、それが真実だ」


「お、おい……嘘だろ? なぁ、嘘だろ佳子ッ」


「日上は川端に言われたようにはしなかった。十勝は開かずの間には下ろされていない。日上は自分一人、包丁だけを持って川端の背後から迫り寄った」


「ああ……それじゃぁ。それじゃあまるで……」


「中田を背負っていた川端は無防備に気配に気づいて振り返り、そこに包丁が突き刺さった。これは正当防衛じゃない。りっぱな……殺人だ、日上佳子ッ!」


 俺の指摘で全ての視線が日上へと向かう。

 壊れた顔で俺を見ていた日上は、皆の視線に気づき、精神すらも壊した。


「あは。あはは。あはははははははははははッ」


「か、佳子……?」


「あいつが悪いのよっ。あいつがッ。中田に殺されないために自分が殺すとか言ってやがった癖に怖気づいてあんたが殺して? 私の為に死んでくれって、何ソレ? ふざけんなッ。私はあの女の礎になるために生きてる訳じゃないのよっ」


 女の怒りがそこにあった。

 日上は笑いながら歩き出す。

 皆の視線を集めながら、優雅に、華麗に、その姿のまま。悪役令嬢の最後のように。

 屋上の縁へと歩み寄ると、愕然としている小川に一度だけにこやかに微笑む。


「か、佳子……嘘、だろ? お、お前が、本当に美海を?」


「はい、小川才人様。川端美海を殺したのはこのわたくし、日上佳子にございますわ。ああ、残念。コレで貴方はわたくしのものになったと思いましたのに。悪役令嬢は悪役令嬢らしく、皆の前で断罪され、処刑されるのですわね……」


「待て、待ってくれ佳子ッ。俺は……」


「ごきげんよう才人さん」


 スカートの裾を持ち上げ貴族のような挨拶を終え、日上佳子は後に倒れる。

 床など何も無い、屋上の外側へ。


「やめろ、止めてくれッ、佳子ォ――――ッ!!」


 差し出した手は何を掴むことも無く、小川の目の前から悪役令嬢を目指した少女は消え去った。


「あ、ああ……あああああああああああああああああああああああッ」


 小川が崩れ、床を叩いて悔しがる。

 何も出来ず、ただ成り行きを見守るしか出来なかった自分の力の無さを悔やみ、彼女達をちゃんと見ていなかった自分のふがいなさに憤怒する。

 だが、全ては遅かった。遅すぎた。


 もう、彼を取り巻くハーレムは一人もいない。

 大切だった彼女は親友に殺された。

 逃れるように求めた女は彼を求め過ぎた女に殺された。

 彼の為に悪役令嬢となった女も消え、

 彼を望む女は自分から遠ざけ、偶像として憧れていた女は別の男に走った。


「……行くぞ、明奈」


「あ……うん」


 大門寺と最上が去っていく。

 他の面々も学級裁判は終わりだと一人、また一人と消えていく。


「今なら、彼を慰められるかもしれないわよ十勝さん」


「……いえ、身を引いた私にその権利はありませんよ。行きましょう」


 小川を放置するのは少々怖かったが足立のアニキと田淵が残って下に連れて行くと言ってくれたので、俺達も屋上を後にして図書室へと戻ることにした。

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