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第五の真相7

「馬脚を現すとはこのことね」


 木場が楽しげに告げる。

 自分で自分の罪の切れ端を告白してしまった日上は苦々しい顔をしていた。


「裏切ったのは私じゃない? では誰が貴女を裏切ったのかしら。裏切ったから、貴女はどうしたのかしら?」


「う……ぁ……」


「ど、どうなんだ佳子? 美海を、美海を殺したり、してないんだよな?」


 不安げに尋ねる小川。

 皆も不安そうに告げる。

 木場の当てずっぽうとも言える推理と言動を誘導するような行為で半信半疑ではあるが、日上はそれに引っかかってしまっている。

 つまり、本当に彼女が犯人である可能性が生まれてしまっているのだ。


「まさか、本当に貴女なの、日上さん……」

「う、嘘ですよね。貴女は既に勝利を手にしていたはずです。なぜそんな危険を冒す必要が……」

「どう、なってる? 俺は途中参加だからよくわからんが、日上が川端を殺したのか?」

「日上さんが……殺人?」

「ま、待ってくださいよ大門寺サン。流石にそんなことは……」

「あら、誰だって人を殺す可能性があるんだもの、彼女が犯人の可能性は充分にあるわ」

「た、田淵さんよ、でも、日上だぞ。川端を殺すなんて大それたこと、いや、確かに全裸で校内走りまわる大それたことしてるけど……」

「アレは確かに刺激的だった。大それた女だ」

「あんたたちは日上さんに謝りなさい。でも、確かに信じたくないわね。中田さんならやりそうだけど」

「円香。人はみかけによらないものさ。ゲーム一つで殺人だって起こるんだ。きっと何かしらの理由はあったんだろうが……」

「男を巡る女の闘い……か」

「うわぁ、こ、恐いね忌引さん」

「ん」


 所沢と壱岐は我関せずで木場はただただ日上を見つめたまま動かない。

 俺はそんな木場と日上を静かに見つめ、思考を巡らせる。

 確かに、木場が追い詰めたことで日上から致命的な言葉を引き出すことには成功した。

 だが、まだそこまでだ。日上はまだ認めて……


「なぁ佳子、なんとか言ってくれ。間違いだって……」


「……」


 皆から言葉で責められ俯いてしまう日上。

 しばし皆からの疑惑の声をそのまま受け止める。

 だが、結局受け止めきれなくなったのだろう。


「……うるさい」


「か、佳子?」


「煩いのよ、あんたたち全員ッ、そうよ、私よッ、私があのクソ女殺してやったわよ。ねぇ満足? 寄ってたかってイジメみたいに一人の女の子追い詰め、あんたたち満足ッ!?」


 かっと眼を見開き全員を睨みつけながら叫ぶ日上。その声に皆が押し黙る。

 ついに言っちまったな日上。隠し通せば疑惑のままに回避出来たかもしれないのに。


「う、嘘だろ佳子……なん、で?」


「あの女が悪いのよッ! 私は才人君の側にいられればそれでよかったのに、例え彼女が川端だったとしても耐えるつもりだったのにッ。あの女は良子さんも私も眞果さんも消そうとしたのよっ。才人君の側に居ていいのは自分だけだってッ」


 ああ、やっぱり才人のトラブルが招いた結果だったか。


「ま、待ってくれ、美海が、そんなこと、したのか?」


「ええ。あの人は悪魔だったわ。私を脅し、中田さんを拉致させて、おまけに十勝さんまで」


 堰を切ったように日上が告げる。

 川端の悪行。

 小川を完全に自分だけの物にするために画策した中田殺害計画。

 そしてそれに利用された自分。


 中田を拉致するのに加担。

 戻ってくれば十勝を部屋に連れ込んでいた川端。

 川端が告げる。

 中田を殺して十勝を犯人に仕立てる。

 ほら、これが沢木たちに十勝を犯人だと思わせる証拠品。コレをそこに転がしておけば勝手に犯人だと思ってくれる筈よ。


 川端が小川が十勝に上げたストラップを襖の奥に投げ、隠し扉を開く。

 自分が中田を連れて行くから十勝を連れて来なさい。

 そう告げられ、日上は言われるままに十勝を連れて降りて行く。そして、殴られた。

 後頭部を殴られ昏倒させられそうになった。


 運が良かったのはその場で気絶しなかったことだろうか?

 気絶させたと思った川端は鼻歌交じりに中田を椅子に座らせ殺害現場を作っていく。

 その背後で、日上はゆっくりと立ち上がった。


 怒りと共に中田から回収していた包丁を使い、気配に気付いて振り返った川端を刺し殺してしまった。

 思わずやってしまった日上は慌てて川端が行おうとしていた殺人偽装を自分が行ったのだ。

 死体は川端で、血付きの包丁を床に落として、そこに中田を寝かせ、階段から戻る。

 すると十勝が斃れていることに気付いた俺達がやって来ていて、襖の奥でしばし待機。

 全員が出ていったら部屋に戻って何食わぬ顔で自分がトイレに行っていたと小川の元へ現れる。


「だ、だから、これは正当防衛なのですわ!」


「正当防衛……」


 顎に手を当て木場が考えだす。

 確かに、川端が日上を裏切り殺そうとしたのなら、日上の正当防衛は成立する……?


「そうね。それなら確かに」


 納得する木場。

 彼女は違和感に気付かなかったようで、うんと唸る。


「せ、正当防衛。じゃ、じゃあ佳子が悪いんじゃなくて、美海の方が悪かった?」


「殺人は悪いけど、正当防衛なら……私と、同じ、なのかな?」


「明奈……まぁ、正当防衛ならこれ以上責める必要はねぇよ」


 大門寺は正当防衛なら殺人もアリだと言い始める。正当防衛の日上が断罪されたとなれば、最上まで断罪対象にされかねないからだろう。

 他の面々もそれなら仕方ないのか? そんな考えに染まり始める。

 だから、だから俺しか告げる奴が居なかったんだ。


 例え皆に恨まれることになろうとも、このまま真相を闇に葬る訳にはいかなかったから。

 だから、告げる。


「違うだろ、日上」


 告げなければならない。犯人が逃げることを許容させないために。

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