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第五の真相6

「あら、開かずの間に入ったのを見ていない。だなんて、なんだかそこで見ていたような言い方ね」


「な、何を言ってますの!? 挙げ足を取らないでくださいません?」


「あら、気になったことを聞いてみただけよ」


 日上の言葉を逐一ピックアップして行く木場。それだけで日上が焦りを覚え始める。

 日上にとってはたまったものじゃないだろう。

 下手に話をすると挙げ足を取られて不利になる。

 しかし話しかけられている以上押し黙ればそれもまた不利になる。


「ただの表現力が乏しかっただけですわ。そ、そもそもわたくしはトイレにずっと居ましたもの、その間川端さんも十勝さんも中田さんも見ておりませんわ。それだけが事実なのよ!」


「そうかしら? 本当に何も見てないの?」


「見てませんわ!」


「なら声はどうかしら?」


「見てないって言っ……こ、声?」


 虚を突かれた日上がうろたえる。

 普通に聞かれただけであれば普通に答えるだけなのだが、犯人にされるかもしれない。否、真相が暴かれるかもしれない日上にとっては些細な話題転換でも致命傷に至りかねない。

 うろたえながらも必死に考える。


「な、何も……」


「まさか何も聞いてないとは言わないわよね? 何しろトイレ、ドア一枚隔てた場所に居たのでしょう。川端さんが」


「う……」


「気絶していたとはいえ中田さんを運ぶなら布ずれの音、襖を開く音、開かずの間への隠し階段を開く音。移動音まで聞こえなかった。なんて通用はしないわよ?」


「そ、そうですわね、えーっと……」


 必死に何かを考える。


「そ、そうですわ。中田さんを引きずる音がしました。それに襖を額で開かずの間……どこかを開く音もですわ。見ていないのですものどこを開いたかはわかりませんでしたわ」


 開かずの間への扉を開く音。というと挙げ足を取られそうだと思った日上は慌てて表現を変える。


「後は、ええ。何も聞いてませんわ」


 これで良いんでしょう? そう告げるような顔で言い終えた日上。

 そんな日上に木場が冷笑を浮かべる。


「その証言でいいのね? 本当に?」


「あ、当り前ですわ。これ以上何が……」


「ええ。聞こえない筈がありえないものがあるでしょう?」


「な、そ、そんなはず……」


「だって貴女、十勝さんを見ていなかったのでしょう? つまり、どこかに居た十勝さんが部屋に連れ込まれる音が、聞こえてないとおかしいでしょう?」


「ッ!」


 想定していなかった音を指摘され、日上が愕然とする。


「そ、それは……」


「ええ。それは?」


「と、当然聞いてましたわ。また扉が開かれる音と、襖が開かれる音共……」


「はい、ダウト」


 木場が楽しげに告げる。

 ああ、多分推理小説好きな彼女が犯人当て出来る喜びに打ち震えているのが丸分かりだ。

 日上がボロを出すのがツボに入ったようだ。


「だ、ダウトって……」

「ええ。おかしいでしょう。川端さんが開いた隠し通路、その扉が開いている筈なのにまた開かれるなんて」

「そ、それは……」

「襖もよ。開いているのに誰がまた開くのかしら?」

「ま、間違いだったわ。え、えと、その……ほ、ほら、まず隠し扉を閉める音が聞こえたのよ。それで、開いた音が聞こえたの。襖の音ではなかったわ」

「あら、つまり上がってくる時に閉めて、また開けたの川端さんは?」

「ち、違……そうではなくて、あ、え、その……」

「それとも、何か話声でも聞こえたのかしら?」

「そ、それは……そ、そう。そうよ。川端さんが言っていたわ。中田さん許してって、それで悲鳴を上げて、そうよ、中田さんが刺し殺したんだわ!」

「あらあら。どこから聞こえて来たのかしら? まさか階下の開かずの間からとか言わないわよね」

「そ、それは……えっと、えっと……」

「もう、嘘を並べるのは止めなさい、見苦しいわ悪役令嬢」

「くっ……」


 いい加減にしろと木場は言う。でもそうなるように仕向けたのは木場だよな?


「貴女が川端さんを殺した。それはもう隠せないわ」


「そ、そんなことないわっ! わたくしが川端を殺した事実が分かる訳が……」


「あらあら、自白とは潔いわね」


「……え? あ。ち、違う、違いますのよ!? わたくしが言いたかったのは仮定の話でそんな事実は無いと言いたかったのであって……」


 慌てて否定する日上。既に木場のペースで自白を強要されているのに気付いていない。

 十勝も小川も日上の狼狽ぶりに眼を見開いて驚いており、口出しすることすら忘れたように立ちつくしている。

 日上の狼狽を見れば流石に小川も何かおかしいと気付いてしまったようだ。


「貴女は中田さんを拉致し、川端さんを殺した」


「違うっ、違う違う違うッ、私じゃないッ」


 わたくしという悪役令嬢役が抜け落ち自分の地が出始めている。

 焦燥する日上は必死に顔を振り否定の言葉を吐き続ける。


「川端さんを後ろから襲った? それとも油断した川端さんを裏切った?」


「違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違うッ! 裏切ったのは私じゃな……ぁ」


 だから、木場の目論見通り、致命的な台詞を吐き出してしまう。

 それは、何かの罪を犯したからこそ追い詰められる犯人のように。

 否、そのまま彼女が犯人だからこそ、隠そうとしていた事実の切れ端を告げてしまう。


 自分から墓穴を掘ったことに気付いた日上は、一気に血の気が引いた顔で恐る恐る木場を見た。

 罠に掛かった小動物を見付けた狩人の笑みがそこにあった。

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