第五の殺人8
「ちょ、ちょっと待てよ沢木、木場。お前らだけで納得すんなって」
「あ、悪い」
そう言えば二人で納得してたこと皆に伝えてないな。
「十勝。あの証言もう一度頼む」
「あの証言、というと、襲われたことですか?」
「ああ、丁度小川がシャワーを浴びてる時間帯、俺が刺された。そして十勝が保健室に絆創膏を取りに行き誰に襲われたか、顔は見たか?」
「そこまで正確には見てませんが、美海さんだった気がします」
「ん? 美海って川端さんよね? 小川がシャワー浴びてた時に川端さんに襲われたってこと?」
「ふざけんなッ。美海がなぜ十勝を襲うんだよ田淵!?」
「でもシャワー終わンの待ってても来なかったンだろ? だったらシャワー浴びるように見せかけて校内で十勝を襲っても不可能じゃねーだろ」
「それだと川端さんが十勝さん襲う理由が必要だよ足立君」
「んー。だったら理由さえ有れば十勝さんの証言に現実味が出てくるのよね井筒さん」
「あ、そっか。原さん頭いい」
「いや、頭いいって言うかね。ちょっと考えれば分かるでしょ」
「ま、待ってくれよ。美海が十勝を襲う理由がないじゃないか。なんでそんなことを……」
俺たちの誘導もあって川端が怪しい動きをしていたことにされそうだったので、慌てて否定に掛かる小川。しかし、木場はそれを許さない。
「例えば。川端さんが今回の殺人を企てた本人だとしたら?」
それは予想外の言葉だった。
小川だけじゃなく皆が驚き、木場に視線を向ける。
「ふ、ふざけんな木場ッ! 美海は被害者なんだぞ!?」
「例えばよ。例えば。もしもの話、十勝さんの証言が正しかった場合」
一度前置きをして、木場が眼を細める。
「小川君とシャワーを浴びる筈だった川端さんはふと思い至った。ここでシャワーを浴びずに十勝さんか日上さんを拉致できれば……中田さんを殺せると思ったら?」
「バカなこと言うんじゃねぇ!」
「だから例えばと言っているでしょ。続き、いいかしら?」
「ぐ、うぅ……」
「ま、まぁまぁたとえ話みたいだし、聞こうよ小川君。聞いた後で否定すればいいんだし」
「そ、そうだな。いいだろう。さっさと言えよ木場。全部否定してやる」
「では告げるわね」
「お、おう、さっさとしろ」
「シャワーを浴びる振りをして小川君と別れた彼女は校内に戻ると十勝さんを見かけた。これは丁度良いと彼女の意識を刈り取る。そして宿直室に連れ去り、中田さんもついでに連れ去った」
「私ついで!?」
「貴女も意識を奪われたと証言しているのなら可能性は高いでしょ。それで、中田さんを殺し、包丁を十勝さんに持たせて冤罪を作りあげようとして、イレギュラーが発生した」
「イレギュラーって?」
「さて? 私が言ってるのは持論だから。とにかくイレギュラーとしておいて」
「突っ込み所が多数あるが、いいぜ、さっさと結論を言えよ」
「中田さんを殺そうとした川端さんは逆に犯人により殺され、十勝さんはそのまま宿直室に、中田さんは犯罪を被って貰うために川端さんの遺体と共に開かずの間に放置された。そして気が付いた中田さんは手元にあった包丁を掴み、なんだこれ? と光を灯して包丁と刺し殺された川端さんを発見して悲鳴を上げた」
確かに、一見可能性のありそうな話だ。でも木場の考えは穴があり過ぎる。
「あのなぁ木場、流石にそれはどうかと思うぞ。偶然が重なり過ぎてるし」
「あら、前回の及川さんはその偶然に助けられたわ。偶然発見されなかった訳だし、今回もそうなっててもおかしくはないでしょ?」
「それでもだよ。まず十勝と出会うかどうかはわからんだろ」
「会わなければ日上さんを犯人にすればいいわ。宿直室にいたのだろうし」
「その日上だよ宿直室に戻ったら鉢合わせだろ? そもそも美海は開かずの間のことなんて知らない……」
「知ってたよ」
「……は?」
小川の否定の言葉を、別の声が否定する。
驚く小川がそちらを見れば、大門寺と最上がやってきたところだった。
「最上?」
「シャワー浴びてる時、川端さん来たから」
「明奈がシャワーを浴びてる時? あいつに開かずの間のこと伝えたのか?」
「それ、いつだよ!? もしかしたら木場の推理全否定できるんじゃ!?」
「朝食の後、壱岐君用の穴を掘り終えてシャワー浴びてたら来たよ?」
「朝……食? 昼食じゃ、なくて?」
「え? うん」
朝食時間中に既にシャワーを浴びていた?
そしてその時すでに川端が開かずの間の存在に付いて知っていた?
「あれ? そのストラップ? 川端さんの?」
「は? も、最上さん、あれが、美海の?」
「うん、シャワーの時畳まれた制服の上に置いてあったよ?」
衝撃的事実の出現に、小川が魂抜けたような顔になっていた。
どうやら木場の予想が濃厚になり始めたようだ。
俺もそっち方面で考えを巡らせてみるか。