第五の殺人6
はぁ。と十勝がため息を吐いた。
面倒臭いという思いなのだろう。
俺もそう思う。
現状、中田が一番怪しいが、開かずの間で見つかった小川のストラップがソレを持っていた筈の十勝の関与を匂わせているらしい。
確かに、それを十勝が持っていたままだったのなら一気に犯人説に王手がかかるのだが、残念ながら十勝の気持ちは既に小川になく、ストラップは投げ捨てたらしい。
もしもそれが誰かに拾われ開かずの間に有ったとしても、十勝が怪しいと言う根拠には繋がらない。
しかし、その事実を知らない小川からすればストラップが開かずの間にあったという事実が十勝の犯人説を急浮上させたことになり、中田が犯人という怒りのベクトルが全て十勝に向かってしまったようだ。
御蔭で容疑者のまま難を逃れた中田が思わず安堵の息を吐いている。
いや、お前、十勝を売るなよ。
「最初に前提を崩しておきますが小川さん。私、ストラップは捨てましたよ」
「嘘を言うな。そんな分かりやすい言い逃れを……」
「宿直室を出てすぐに窓から投げ捨ててやりました。もともと高圧的だった川端さんへの意趣返しに貰ったモノですし、あの人堪えてもなかったので不要になりまして。証人もいますよ。ねぇ、原さん」
まさかの大暴投。
話に強制的に参加させられた原が驚いた顔で自分を指差す。
少し考え、ああ。と納得した。
「もしかしてトイレ行った時のこと? 確かに宿直室から出て来た十勝さんが何か投げ捨ててるのは見たけど。何を捨てたかは知らないわよ」
「まぁ小さい物でしたしね。つまりそこでストラップは外に落下していたことになります。ですから開かずの間に有ったとしても必ずしも私の物である可能性はありません。誰かが拾って開かずの間に捨てたんじゃないですかね」
「そ、そんなこと……」
「一応ついでの情報を伝えておくけれど、十勝さんが捨てたのは私達に報告されているわ。貴方に接近禁止令が出たすぐ後に捨てて来たと。もしも貴方の推理が正しいのならば、そこで私達全員に十勝さんが嘘をついたことになる訳だけど、わざわざ自分を犯人と指し示す証拠を捨てたなんて嘘を付いた後開かずの間に置くかしら」
「そ、それは、でも……」
もはや言い返せなくなった小川。そこは食い下がるもんじゃないのか? 木場に言いくるめられそうだな。
「そもそも、私が貴方に惚れたままという前提で話してますけど、自意識過剰過ぎませんか小川さん。確かに顔は良いですけど、牧場さんと付き合ってた時と比べると今の小川さんに魅力を感じないんですよ。なので申し訳ないですが、私と付き合いたいと言われても了承しかねます。私、今は修一様の方が好ましく思っておりますので」
「なん……っ」
「おお、寝取られ!?」
「NTRだな。やべぇ、初めて見た」
「ざまぁ案件だな。リア充は滅べばいいんだ。ついでに沢木も」
「おい、さらっと俺を混ぜんな」
「煩いリア充刺されて氏ね」
「ふふ、既に刺されてるわよね修」
「え!? マジで、ざまぁフラグ立った!?」
「所沢に刺されたよ。雑誌が役立った」
「雑誌って。え、マンガみたいに腹に入れてて助かったのか? 運がいいな。普通に貫通するぞ大抵の雑誌」
「え? マジで!?」
まさかの事実が榊から齎された。
どうやら俺は文字通り紙装甲で身を守り、ぎりぎり運良く助かったようだ。
多分反射的に後ろに下がったことで多少所沢からの威力を削げたのかもしれない。
確かに刃先が地肌に触れた訳だし、角度によっては無意味な盾になっていたかもしれない訳か。
思わずゾッとした。
下手したら俺は既にこの世におらず、川端同様死者に列席されていたかもしれない。
そう思うと全身がぶるりと震えるのだった。
「と、言う訳で、私が貴方に抱かれたいなどとおこがましい考えは捨て去ってください。迷惑ですし」
と、締めくくる十勝に、小川は口を開くばかりで言葉を返す事が出来なかった。
予想外過ぎたのだろう。
おそらくだが、小川自身が接近禁止令を告げた為に意趣返しに十勝は俺とイチャイチャしていただけ、小川の嫉妬を待っていたのだろうと誤解していた小川は三行半を突きつけられて怒りが吹き飛んでしまったようだ。
何が起こっているのか理解できないと言った顔で呆然としている。
「さて、修一様。私の犯人説が否定され、中田さんが再び容疑者に返り咲いた訳ですが?」
「え? あ、ああ。そうだな」
「ちょっと!? 私を助けてくれるんじゃないの!?」
「真実を明らかにするんだよ。お前が犯人じゃないなら安心してろ中田」
とは言ったモノの、さて、何処から話を聞いて行くべきか。
状況的には確かに、十勝が連れ去られてから川端は見かけられてないんだよな。
十勝の話じゃ十勝を気絶させたのが川端だったみたいだし、中田も記憶がないってことは気絶させられている可能性はある訳だ。
「じゃあ、まず開かずの間に付いて話をしよう」
コレが一番だろうな。開かずの間への入り方を知っていたのが誰なのか。まずはそこからはっきりとしようか。