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第五の殺人4

「出た!」


 跳び箱の上部はすぐに現れた。

 そのまま外側を掘り進める。

 本当に埋まってるとは思わなかった。否、思いたくなかった。

 しかし、埋まっている以上、ここに壱岐が居る可能性は高い。


「おい、見てねェで手伝え!」


 大門寺の叫びに足立が参戦。流石に人数的余裕から参加できるのは後一人くらいだ。

 貝塚が慌てて参加する。

 皆で掘り進めること数分。ようやく三段の内一番上の段が暴きだされた。


 大門寺がコレを抱えて引き上げる。

 気合いの声と共に持ち上げられた跳び箱。その中に、ぐったりとした壱岐が座っていた。

 やっぱりここに埋められていたらしい。


 危ない所だった。

 酸欠になりかけていたのか、壱岐は死にかけた顔で空を見上げる。

 暗闇から一転、差し込んだ光に涙が溢れる。


「たす……かった?」


「もう大丈夫だ壱岐」


 大門寺が跳び箱の上段を地面に投げ飛ばす。

 空いた跳び箱内に飛び降り、俺は壱岐に手を差し出す。

 のろのろと俺の手を掴んだ壱岐は、止まらなくなった涙と鼻水で顔をグシャグシャにしながら立ち上がる。


「死ぬ……って、思っだ。僕、もう、死んだっでぇ」


「お、おいっ」


 よろめきながら俺に向かって倒れ込んで来た壱岐。ぎゅっと制服を抱き寄せ泣きだした。

 まぁ、気持ちは分かる。

 こんな狭い場所に閉じ込められたら死んだと思うよな。

 俺達も気付かなかったら壱岐は人知れず死んでたところだ。


 あ、こら、俺の制服で鼻かむなっ。

 遠慮なく鼻水付けやがったこいつをどうしてくれようかと思ったが、なんか皆が泣くまで面倒みてやれみたいな顔して来るので仕方なく優しく抱きしめ頭を撫でておく。

 何で俺がこんなことしないといけないんだ。


「とりあえず、無事でよかったわ。じゃあ、他の皆は屋上に戻りましょ」


 木場に促されるように他のクラスメイト達が去って行く。

 所沢の奴も一応来てたのか。のろのろ帰る後ろ姿がなんだかゾンビみたいだ。

 どういう思考回路でどういう決断をするのか、気を付けておかないとな。


「明奈……なんでこんなことをした」


 跳び箱の棺桶から出ようと思うのだが、壱岐をどうすればいいものか、とりあえずさっさと出て来たかったのでお姫様抱っこして脱出することにした。

 棺桶から脱出すると、爆発しそうな感情を押し殺し、務めて冷静に尋ねる大門寺がいた。

 聞かれた最上は壱岐を見つめて残念そうな顔をする。


「だって……死にたいって、誰もいない静かな場所に居たいって言ってたから、手伝ってあげようって、思って……」


 最上さぁん。いくらなんでも暴走し過ぎだろ。

 壱岐には良い迷惑だ。


「真面目に取るなバカ明奈っ。嫌な事があった時に死にてぇって呟いたからって本当に死ぬバカはいねぇんだよっ」


「で、でも……」


「でもじゃねぇッ! 頼むからッ、頼むからもう……いや、頼む明奈。俺の側に居てくれ。犯罪を無理に犯す必要はないんだ。沢木の言葉がお前を追い詰めたのなら紹介しちまった俺が謝る。頼む明奈っ」


 縋りつくような大門寺は必死に思いを言葉にする。

 語呂が少ないのか思いの丈を上手く説明できなかったようで、最上の前で土下座に移行する。

 突然の大門寺の土下座に、最上は流石にたじろいだ。


 って、こら壱岐、首に手を回すな。抱きつくなっ。

 光葉さん、これ「ぎるてぃ」じゃないから。そんなこと言ってる暇あったらなんとかしてくれ。

 戸惑った俺と最上。その視線が交錯する。


 ああクソ。こいつも俺の蒔いた種なんだよなきっと。

 だから俺がなんとか釘刺しとかないと最上はまた何かやらかしかねない。

 でも、どう告げるのが正解だ?


 そもそもの問題は香中を刺したことに対する罪の意識をなんとかしようと思い、死にたがっていたと仮定して、最上が刺したのは救いになったと告げたことから曲解したと思うんだが。


「最上」


「あ、沢木君、何?」


「壱岐は君に殺してくれと頼んだか?」


「……それは、頼んでない」


 少し戸惑い、小さな声で告げる。


「なのに殺そうとしたのか」


「それは……だって、壱岐君死にたいって……」


「最上はどうだった? 高坂や田淵にイジメを受けて、死にたいって思った事はなかったか?」


「それは……」


「あったんだろ。少しくらいは、死んでしまいたいって。でも今も死んでない。死にたいと思うよりも生きていたいと思う方が強いからだ。呟いたことを鵜呑みにして相手に強要するのは殺人だ。香中の時とは違う」


「……ぁ」


 香中というキーワードでようやく自分の思考の原点を思い出す。


「救いじゃ……ない?」


「救いじゃない。相手の意思を勝手に汲み取って自殺を補助するのは立派な犯罪だ」


「で、でも、そんな、だったら、香中君も? 分かんない、分かんないよ」


 頭を抱えうずくまる最上に、土下座していた大門寺が顔を上げて抱きしめる。


「沢木ッ、明奈を追い詰めンじゃねぇッ!!」


「追い詰めてる訳じゃないんだが……最上さん。自分から自殺志願者を探す必要はないんだ。わざわざ相手を殺してあげようとしなくていいんだよ。壱岐みたいに死にたいっていいながらもまだ生きたがってる奴もいるんだから。無理に探す必要はないんだ」


 流石に、この位しか言えなさそうな雰囲気だな。

 俺は壱岐を抱き上げたまま仕方なく大門寺達を残して屋上に向かうしかなかった。

 もう少し諭してやりたかったが、どうなっても……知らないぞ大門寺。

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