表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
123/246

第五の殺人1

 今、何が起こっている?

 俺はあり得ない状況に、いや、これは今までの行動から一番あり得る行動か? でも、今回は五班だろ。俺たちの班で殺人が起こる筈じゃないのか?

 五日目に行われた殺人が俺達に全く関係ない小川ハーレム内ってどうなってる?

 いや、今までが偶然だっただけか。


 大河内の呪いのせいで変な法則性を自分たちで作ってしまって居たらしい。

 一先ず落ち付け。冷静に考えろ。

 まずは本当に死んでいるのかどうかを……


「中田……これは、どういうことだ?」


 だが、俺が冷静になろうとしても、そんな事関係ないとばかりに部屋へと踏み出す一人の男。

 自身の歯を噛み砕かんばかりに力を込めて歩きだしたのは、小川才人だった。


「ち、違っ、私は……」


「俺に関わるなと言ったのがそれ程許せなかったか!? なぜ美海を殺したッ、お前は……お前はッ」


「待って、違うの私はっ」


「黙れ殺人者。さっさと自殺してしまえッ」


 縋りつこうとした中田の顔面を殴りつけ、それでも止まらない怒りを拳に込めて、小川は踵を返す。


「沢木、さっさと学級裁判開くぞ、犯人は分かり切ってる。さっさと中田を消そう」


 それだけ告げて屋上へと向かって行った。

 倒れた中田が必死に手を伸ばしていたが、小川が振り返ることはなかった。

 去って行く小川の背中を、驚愕の顔で見送る。中田の顔に後悔はなく、ただただ絶望だけがあった。


「で、では放送してきます」


「そうね。賀田さん、井筒さん、護衛を兼ねて十勝さんをお願い。忌引さんはどうする?」


「一緒にいる」


 と、木場に問われた光葉が俺の裾を掴む。

 緊急事態ということもあり、賀田が率先して十勝と走り出す。

 井筒も少し遅れ、彼女達を追って放送室へと向かって行った。


「ええと、私は……」


「日上さんは小川君の様子を見ておいて、多分話しかけるのは止めた方がいいわ」


「え、ええ。分かりましたわ」


 やや戸惑いながらも去って行く日上。


「弘君……何かあった?」


「!? 明奈……沢木、俺達も屋上に行く、問題ないか?」


「ああ。問題は無いよ」


 大門寺が最上が死体を見ないようにさっさと彼女を屋上へと連れて行った。


 残ったのは俺と光葉、木場、中田良子。

 木場が無遠慮に部屋に入り、窓に掛けられていた暗幕を取り去る。光が差し込み普通の教室と化した開かずの間。

 死した川端の姿が克明に明かされる。


「川端さんで間違いないわね」


「ああ。死因は心臓部への一撃。血の量から言ってここが刺殺現場だ」


 俺はうずくまり嗚咽を漏らす中田から包丁を取りあげる。

 血塗れの包丁は間違いなく凶器だろう。

 確かに言い逃れなど出来ない。


「けど、先程の悲鳴は川端のか?」


 顎に手をやり考える俺の側で、木場が死体を調べ始める。


「違う……私じゃ、ない」


 そんな言葉が中田から聞こえた時。


『死体が発見されました。学級裁判が始まりますので屋上へ集合してください繰り返します――』


 十勝のアナウンスが校内に聞こえる。


「時間ね。そろそろ行きましょ」


 木場が立ち上がり開かずの間から出ようとする。

 が、動こうとしない俺に気付いて立ち止まり振り返る。


「どうしたの修。現場に違和感はないわ。死因は心臓部への一撃。犯人も目の前に居る。言い逃れられる状況じゃないわ」


 確かに、今回の犯人は中田だろう。

 そう思う。そうでなければ説明が付かない。

 だが、なぜか素直にソレを認められない。


 なぜか?

 それはそう、一つ前の殺人のせいだ。

 及川が行った殺人は穴だらけなのに推理で犯人を追いつめることが出来なかった。


 証拠が足りなさ過ぎたのだ。

 真実に辿りつけなかった、それが心の片隅で引っ掛かっている。

 本当にそれが真実か? 今の状況を疑いの目で見てしまう。


「聞かせてくれ中田。何が、あった?」


 俺はうずくまる中田の前に片膝付いて視線を合わす。


「……信じて、くれるの?」


「信じるかどうかは話を聞いてからだ。お前の真実を教えてくれ」


 視線を合わせしばし見つめ合う。

 狐目の彼女は普段の強気な視線は欠片も無く、ただただ弱々しくこちらを見つめるだけだ。

 縋りつくような瞳が揺れることしばし。


「殺したいと、思いはしたの。でも、でも違う。私じゃない。私、川端を殺してないっお願い、信じてッ、私じゃないのッ」


 最後の希望だと、中田は俺に縋りつき泣きだした。

 こんな状態の中田が本当に川端を殺した?

 殺した後にこんな状態で無実を証明する意味はなんだ?

 殺人者は本当に中田か? それとも、いや、落ち付け、まずは事実の確認だ。


「落ち付いて、深呼吸して。ゆっくりでいい、自分がここに居るまで何をしたか教えてくれ」


「わ、わかんない。気付いたらここに居て、眠ってて、起きたら手に持ってて、ケータイで照らしたら、川端が目の前に居て、し、死んでて……」


「じゃあ悲鳴を上げたのは?」


「わ、私……」


 木場も様子がおかしいと俺たちの側へとやってくる。


「修、もしかして、中田さんの言葉を信じる気? 自分じゃないと言い訳してるだけにしか聞こえないんだけど」


「確かに、現状を見ればそうとしか思えないよな。でもな木場、中田はさ、中田はここに来る方法を知らない・・・・筈なんだ」


 そうだ。それこそが、俺の疑問に思っている最初の欠片。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ