見つかった十勝
「あ? だいぶ前に戻ってったぞ?」
保健室に直行した俺達は、面倒臭そうに室内からやって来た足立にそんな言葉を返されていた。
「戻って行った?」
「ああ、絆創膏欲しいっつーから箱ごと渡して、どれぐらい前だっけか?」
「多分一時間以上前じゃない?」
カーテンのかかったベッドの方から田淵の声がフォローする。
と言うことは、だ。俺が刺されてすぐに絆創膏を手に入れた十勝は図書室へと戻ろうとしていたことになる。
俺は後に居た木場に振り向く。
「じゃあ、用は済んだな」
足立が保健室のドアを閉じて施錠する。
俺たちはお邪魔虫らしい。
まぁ、カップルの邪魔をする気もないので一先ず保健室から遠ざかる。
「どう、思う?」
「分からないわ。探してみるしかないけれど……」
「保健室には来ていて、そこから図書室まで戻るのに、どこに消えるっつー話なんだが……」
「戻りながら十勝さんの痕跡を探してみましょう。ダメなら全ての教室を調べるしかないわね」
三綴の件もあるから通気口とかも調べないとな。
「またそこの女子トイレなんてことはないだろうな?」
「先に調べてみましょうか」
全員で女子トイレに向かって通気口を俺が調べる。
今回は購買からライトを持って来たので通気口内も見回せたのだが、残念ながら誰もいるわけもなく、証拠品も落ちてはいなかった。
二階ヘ上がる。図書室から誰かが出て来た。
また俺を殺しに来た暗殺者かと思いきや、血相変えた小川だった。
「小川?」
「あ、どこ行ってたんだよお前らッ! 大変なんだ! 来てくれッ」
あまりにも焦った様子の小川のせいで、俺たちは逆に冷静になる。
小川が急かすのでとりあえず急ぎ足で小川に案内されながら四階の宿直室へ。
そう言えば小川が占拠してたんだっけか。
「何かあったの?」
「あ、ああ。そのシャワー浴びて戻ってきたら、部屋に十勝が!」
「え? なんで十勝が宿直室に?」
「た、倒れてて、動かないんだ。どうしたら……」
小川を押しのけドアを開く。
「十勝ッ」
開かれたドア、畳み張りの床、設置されたちゃぶ台。
宿直室の室内は、俺達が追い出された当時のままで、襖が開かれ押入れが半分露出して見える以外、内装の変化はなかった。
ただ、畳みの一部にうつ伏せに倒れている十勝眞果が一人。
「お、俺、どうしたらいいか分からなくて、とりあえずお前達を呼ぼうと……」
「つまり、触ってないのね。生死は確かめた?」
「こ、恐くて確かめられないよっ。ど、どうなってる?」
戸惑う小川を放置して、駆け寄った俺は十勝を助け起こす。
「十勝ッ」
しかし冷たくなった十勝から返事などあり得るはずも……
「うーん……」
いや、全然冷たくないわ。普通に人肌温度だわ。というか、華奢な美少女を抱きしめるとなんというか……
「ぎるてぃ」
「のぉっ!?」
背後からぼそっと聞こえた声に俺は思わず十勝を取り下とす。
ごちっと頭を畳みにぶつけた十勝が衝撃で起き上がった。
「ん……あれ? 私、寝てた?」
「お、おはよう十勝」
「あら、修一様? もしかして夜這いですか?」
そう言いながら周囲を見回し、はて? と小首を傾げる。
「気のせいでしょうか、ここは宿直室?」
「ああ。宿直室だよ。で、何でこんな場所に?」
「そう言われましても、私どうして……気のせいかお腹とうなじと側頭部が痛い気がします」
お腹とうなじについては知らないが、側頭部は多分さっきの畳のせいだ。
「良かった。また知り合いが死んだのかと焦ったぞ十勝さん」
「いえ、なんだかよくわかりませんがご迷惑おかけしました小川さん」
一先ず部屋から十勝を連れ出す。
部屋の前で彼女が落ち着くまで待って、小川に別れを告げて図書室に戻ることにした。
「じゃあ。俺らは戻るよ」
「ああ。その、何も無くて良かったよ。それ……」
それじゃ。と宿直室のドアを開いて中に戻ろうとした小川。真正面に居た日上佳子と正面衝突しかけて棒立ちになる。
日上が室内から出て来ようとして鉢合わせたようだ。
「ひ、日上!? 居たのか」
「え? は、はい。トイレ行ってましたけど、何かありましたの?」
どうやら十勝が斃れていたことには気付いてない様子でずっとトイレに居たらしい日上。
全く理解していない顔で小首を傾げる。
「あー、いや。うん。知らないなら知らないでいいんだ。じゃあ、夕食時にな、沢木」
そう告げて、日上と共に室内へと小川が戻って行った。
俺達も図書室へと引き上げる。
「何があったの十勝さん?」
「分かりません、ただ、小川さんが居たので言いませんでしたが、意識を失う前、一瞬ですけど……美海さんを見た気がします」
「美海って、川端を?」
「はい。川端美海さんに腹を蹴られ、多分うなじの辺りに衝撃を与えられたと思うんです。意識を失ったので確実ではありませんが」
「何で川端さんが? いや、でも宿直室まで運んだのなら彼女だっていう理由も分かるのかしら? でも川端さんはいなかったわよね? 何のために宿直室まで運んだのかしら?」
理由は分からず本人も居ないので俺たちは疑問を疑問のまま残すしか出来なかった。