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最初の殺人3

 そして俺たち四人だけが残される。

 改めて周囲を見回す。

 薄暗い照明に照らされた購買倉庫にはいくつもの資材があるが、全体的に狭い。

 人が数人入ればもう最奥の人が外に出られなくなるほどに狭い倉庫には、人の命を奪うような者は見当たらない。


 鈍器らしいものもないし、外傷なく人を殺せるタイプのものは……いや、文鎮とか結構堅いか。殴ろうと思えば武器になるな。そう考えるとこの購買倉庫は殺害道具の巣窟になるのか?

 ペンでだって喉に突き刺したりすれば殺害に使える訳だし。


 段ボールに入れられているのは大きめの文房具や服の類。小物系統はプラスチックの箱に纏めて入っているらしい。集荷に使ってる箱を使い回しているようだ。

 ん? これはハンドスピナーか。何でこんなもんまで学校で売ってるんだ?


「衝動的、といったところね。鈍器で殴った形跡は無く突き刺された外傷も無し」


 ぼぉっと周辺を見回していた間に、木場が遺体に歩み寄っていた。

 はっと気付いた所沢がおろおろしているが、皆放置だ。

 俺も周囲を見回してみるのはこの位にするか。今回、背景は関係ないようだ。


 おもむろに遺体に歩み寄る俺に、何する気だ!? と驚く所沢。

 しかし、止めようとするのは彼だけで、光葉と木場は俺の隣にやってくる。

 遺体の前にしゃがみ、木場がしていたように身体を見る。

 ちょっと待て光葉、俺は死因を調べてるだけで決してやましい気持ちはないんだよ?


「ぎるてぃ?」


「まだ大丈夫ね。死因調べてるだけよ」


「ちょっと待とうか二人とも。何故俺の股間を見ながら会話してるの?」


 二人は無言で顔を見合わせ、再び俺の股間に集中する。

 いかん、これ、下手に反応すれば俺の人生が終わるかもしれない。

 なるべく無心で遺体を調べる。


 後頭部、打撲傷なし。

 頸部、うなじ側には何もなし、しかし喉に人の手で絞められた跡がくっきりと残っている。

 よほど強く絞められたようで、骨も折れているようだ。


 身体。服の上から刺されたりはしていない。刺殺ではないことは明白だ。

 視線が思わず胸に向く、ぴくりと身体が止まる。


「ぎるてぃ?」


「いえ、まだね」


 あ、危ない。今のは危なかった。

 視線を腹へと向け、徐々に下に太ももが視界に入った瞬間再び止める。

 意思を持って意識しないように気を付ける。


「……どう?」


 流石に服を脱がせる訳にも行かない。

 そんな事をすればこの二人い白い目で見られるばかりか、小川に殴り殺されかねない。

 そしてたぶん、光葉がレイプ事件を皆に告げるだろう。俺はまだ光葉に許されきったわけではないらしい。下手な事をすれば女好きな下衆野郎として全員に秘密の暴露がされることだろう。

 ゆえに、ここでエロスに走る訳にはいかない。

 真剣な目で横から訪ねてきた木場に振り向き自分の感想を告げる。


「死因は首絞めに間違いないな」


「この角度からして真正面からね。ほかに外傷は……あなた、向こう向いてなさい」


「自分の目で確かめたい」


「……えっち」


 光葉の眼が半眼になった。

 慌てて言い繕う。俺が好きなのはお前だけだと必死に言い訳する。

 それに今はそういうことを考えている場合じゃないのだ。うん、ないのだ。


「いや、そういう目的じゃないからな。打ち身とかがあるかもしれないし、別の死因もあるかも。他人に任せて見落としはしたくない」


「あら、それには同感ね。犯人探しするの?」


「ゲームの主人公になったみたいでちょっと……な。不謹慎かもしれないが」


「その気持ちは分かるわ。謎を解くのは好きなの」


 意外なところで気があったことで、木場と打ち解けた気分になる。

 実際にはただ同意されただけなのだが、それでも女性と仲良くなれたと思ってしまうのは男の性なのかもしれない。

 ふふっと微笑む木場の顔、クール美人の微笑は、彼女の胸元が見えた相乗効果により俺にダイレクトアタックでクリティカルを叩き込む。


「ぎるてぃ?」


「の、ノーぎるてぃ!!」


 慌てて股間を隠して告げる。

 木場が自分を見てのことだと気付いたようでくすくすと笑いだした。

 遊ばれているっ!?


「衣類は着崩れた感じはしないわね。誰かに脱がされた感じはしない」


「下半身はどうだ?」


「……えっち」


「だから違うってば。そもそも才人が自己申告してたろ。彼女が汗ばんでるのもそのせいだろうし、少なくとも犯人はレイプ目的じゃなかったってことは確定だ」


「そうね。多分衝動的に殺したのだと思うわ。後は……あら?」


 周囲に視線を向けた木場が何かに気付いて遺体をよける。遺体の尻に敷かれるように何かがあった。しゃがみ込んだ木場がそこにあった何かを拾いあげる。


「これは……ストラップ?」


 それは小型のストラップだった。

 サボテンが絶叫したような顔をしたストラップ。絶叫サボテンだったか? 一時期流行ったテレビアニメのキャラクターだ。確か友情、努力、勝利。といったTシャツを着込んでいる奴で三つ一組で販売されていた筈だ。

 これは友情のストラップだな


「彼女のかしら?」


「いや、待て。牧場さんの携帯には同じストラップがあるぞ。勝利の奴だな」


「あら? じゃあもしかして、これは犯人の?」


 重要な証拠品を見付けた俺たちはニヤリと笑い合うのだった。

 まぁ、これが犯人のかどうかは別として、手がかりにはなりそうな気がする。使うかどうかは別として。

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