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消えた十勝

「修、生きてる?」


「な、なんとか……」


 あ、危なかった。雑誌入れてなければ確実に今ので死んでた。

 本当に必要になるとは思ってなかったぞ。

 命が助かったことに安堵しつつ、本気で俺を殺しに来た相手を見る。


「あはは、殺した、僕が殺してやったんだ。忌引さん、僕、僕が僕は……」


「光葉、引導、渡してやってくれないか」


「ん」


 俺が生きていて怪我も大したことないと確認した光葉が歩きだす。

 嬉しそうに顔をほころばせる所沢。その前に立つと、座り込んだ所沢に視線を合わす。


「み、見ましたか忌引さん、僕、君を助けるために沢木を……」


 パシン。

 所沢の頬を張った音が一度だけ響く。

 何が行われたのか理解できず、所沢は呆然としていた。

 予想外の人物から予想外の攻撃を受けたことを理解できなかったようだ。


「な……なん、で?」


「修君を殺さないで」


 短く、簡潔に。所沢の所業を否定する。


「な、なんでっ、僕は、君の為にッ」


「私は、修君に生きてて欲しい。だから、もう止めて」


 自身のやりたかったことを否定され、所沢は押し黙る。

 えーっと、俺、起き上がらない方がいいかな?

 あ、ちょっとお腹にチクッと来た。先に包丁抜いとこう。

 うわ、ちょっと血が出てる。


「あら、軽傷」


「こんなの舐めとけば治りますよ。舐めて上げましょうか修一様」


「ご、ご心配なく。ぎるてぃ案件はやめときます。絆創膏ないかな」


 傷と言っても先端が触れた程度のものだった。


「でしたら、保健室に取りに行って来ますね」


 と、まるで俺の好感度をちまちま上げようとしているかのように率先して保健室へと駆け去る十勝。

 止める暇すらなかった。

 うぅ、ちくちくとお腹が痛い。


「どうして、どうしてなんだよ忌引さんっ、あいつはレイプ犯だ。忌引さんを無理矢理犯したんだよっ!? なんでそんな奴庇うんだよっ」


「知ってる。でも、初めて、私を好きって言ってくれたの」


「僕だって好きだ。僕の方が好きだッ。僕の方があんな奴より忌引さんを好きなんだッ!!」


「でも、告白はしてくれなかった」


 はっと、激昂しそうになっていた所沢は冷や水を浴びせられたような顔になる。


「もっと早く、告白してくれてたら、付き合えてたかもしれない。でも、私を好きって言ってくれたのは、レイプした修君だった。だから私は修君が好き。私をレイプするくらい好きだって言ってくれた彼が好き。だから、奪わないで」


「あ、ああ……うああああああああああああああああああああああっ」


 所沢はもう、何も考えられなくなったらしい、光葉を突き飛ばし、入口に居た俺を蹴りつけ飛び出した。図書室から一目散に逃げ去って行く。


「逃げた、わね」


「良いのか。放置していればまた殺しに来るかもしれんぞ?」


「とりあえず。しばらく様子見だな。腹刺されたせいか追い掛ける気にもならん。ちょっと寝ときたいです」


「あは、じゃあ看病したげるねー」


「ぎるてぃ」


「なんでさっ!?」


 木場と井筒に肩を貸された俺は適当な場所に寝転がされる。


「とりあえずティッシュペーパー見付けたからコレで拭いて抑えときましょう」


「いやー、本当に殺されかけたね修一君」


「笑いごとじゃねぇよ井筒。あー、なんかちくちくと痛い」


「それでも生きているなら問題あるまい。死んでくれた方が私としては安心だが」


 賀田の言葉に呻く。

 この人は本当に俺のこと嫌いだな。

 まぁ、好かれるようなことはしてないし、仕方ないと言えば仕方無いのだが。


 それからしばらく、木場が普通に本を見始め、賀田が瞑想を始める。

 皆二人の邪魔をしないように押し黙り、俺の側に座る光葉と隣で俺より先に夢の世界に旅立った井筒。既に涎垂らして腹掻きながら「うまうま」と謎の寝言をほざいている。


 血は既に止まっていた。

 時間ももう一時間は立つだろうか。昼二時位、保健室に向かった筈の十勝がまだ帰って来ない。


「遅いわね、十勝さん」


 ふいに、木場が顔を上げる。

 彼女もおかしいと気付いたようだ。

 探しに、行くか。




 沢木が刺されて少しまで時間は遡る。

 保健室に向かった十勝を、そいつは隠れて見つめていた。

 ニヤリ、笑みを浮かべる。


 保健室にやって来た十勝は声の響き続ける保健室のドアを叩き、中に居る足立がやってくるのを待つ。

 めんどくさそうにズボン穿いてやって来た足立に来た理由を告げて絆創膏を貰う。

 お礼を告げて鼻歌交じりに来た道を戻る十勝。

 角を曲がって階段に向かおうとした刹那の出来事、間横に誰かが居た。


「え、川ば……」


 次の瞬間蹴り上げられた膝が腹へと入り呻く。くの字に折れた彼女の首過ぎに手刀が落とされ、十勝眞果の意識を刈り取った。

 薄れゆく意識の中、川端美海が醜悪な笑みを浮かべるのが見えた、気がした……

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