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死者からのメッセージ

「むぐむぐ。んー。ちょっとすっぱい?」


「井筒、それ昆布おにぎりか。酸っぱいとかヤバくないか?」


「一応食べてるから大丈夫だよ修一君」


 幸せそうにおにぎり食べ終え、自分が食べた物を記入帳に記入し始める。


「あれ? これって……」


 しかし、いざ記入をしようとしたところで手を止め、俺たちに記入帳を見せつける。


「ね、ねぇ、これ、悪戯かな?」


「何が……おい、嘘だろ?」


 そこに記されていたのは冷凍メンチカツを消費した人物名が書かれていた。

 その人物の名は……大河内斈。

 あり得ない筈の人物が、昨夜メンチカツを頂いたことを書き記していた。


「悪趣味にしてもこれは……」


「小川の奴には見せられないわね」


 幸いつまみ食いしようとする者は井筒くらいしか居ないので小川がコレに気付くことはないだろうけどな。


「んじゃ、俺らは保健室戻るわ」


「せいぜい死なないように祈っているわ」


 足立と田淵が去って行く。

 ふと思ったんだが、足立アニキのテクニックを知ったら、井筒は喜んでそっちに向かっていたんじゃなかそうか。

 マズい、アニキのことは井筒には秘密にしよう。バレたら絶対寝取られる。


「ぎるてぃ?」


「のーぎるてぃ! さ、さぁ俺らも戻ろうぜ」


 冷や汗を掻きながらも俺は光葉と井筒を連れて図書室へと戻るのだった。




「やぁ」


 そいつは軽く手を上げた。

 対面した彼は苦々しく顔を歪ませる。


「やっぱり、お前は生きていたか」


「気になるかい? それも含めて、君に伝えようと思ってね。ふふ、君の復讐はまだ終わってないよ」


 そいつと彼は二人きりで話をしていた。

 誰もそれに気付くことはなく、密談は終わる。

 そいつが去った後、彼は力無く膝を着いた。


「そん……な。あいつが、あいつが元凶?」


 暗い教室内で一人、四つん這いになり拳を上げる。


「ふざけんなッ。三綴のせいじゃ無かった。あいつが、あいつが元凶だったってのか! あいつが。あいつが美哉を死なせる元凶だった……なんて」


 拳を振り下ろす。

 床に撃ちつけられた手が痛みを発したが、そんなことなどどうでも良かった。

 彼、山田壮介の復讐はまだ、終わってはいないのだから。


「いや、まだだ。奴が犯人で元凶をあいつだと偽っているだけかもしれない。あいつに悟られずに真相を調べないと。拙者は、まだ終われない。美哉。見ていてくれ。必ず君の無念を晴らしてみせるから。だから……待っていろ元凶。もしもお前がこの異変を起こした元凶だって言うのならその時は誰が止めたとしても……拙者が殺す」




「ふぃー」


 最上明奈は息を吐いて空を見上げた。

 ザンッと地面にスコップを突き刺し、柄を支えに身体を伸ばす。


「そこだけ随分と深く掘ったな明奈」


「うん。頑張ったでしょ?」


 えへへと笑みを浮かべた最上に、眼を丸くした大門寺は照れたように視線を逸らす。


「ところで明奈、この跳び箱の上段三つは何に使うんだ?」


「ん。秘密。とりあえず、これで終わり」


 やることは終わったよ。そう告げる最上に、大門寺も墓を這い出て仁王立ちで見回す。

 全員分の墓がついに完成した。

 出来るならこれが埋まる光景は見たくはないが、大河内の呪いのこともある。

 掘っておいた方が後々掘るよりは埋めるだけで済むので楽になるだろう。


「しかし、今更だがよくもまぁこれだけ掘ったもんだ」

「他にやることがないから、捗るね」

「だが、これでやることがなくなったな。また暇潰しを考えねぇと」

「それなら、木場さんたちが育ててる野菜手伝う?」

「ああ、そりゃあ別に……沢木も一緒だったか」

「沢木君、嫌い?」

「犯罪者だろ。好きになれると思うか?」

「……犯罪者は、嫌い?」

「そりゃ、普通は嫌いだろ?」

「……そっか、そう、だよね?」


 少し気落ちしたように告げる最上。

 何か悪い事を言っただろうかと焦った大門寺は背中を向けて歩きだす。


「そ、そら、戻るぞ」


 その背中に、小さな声が聞こえた気がした。

 私が犯罪者になったら、やっぱり嫌われる? そんな言葉が最上から放たれる筈がある訳ない。大門寺は聞こえた筈の声を無視することにした。

 そんな大門寺が去って行くのを静かに見つめ、スコップを残して最上が歩きだす。


「ごめんね、弘君」


 その呟きは何を思ってか。

 彼女は決意を持って歩き出す。

 ついに用意は整った。下準備も終えた。

 後は、そう……死にたいと告げた人物に、安らかな死を与えるだけである。


「待っててね壱岐君。私が、誰にも気付かれることなく、誰にも煩わされることのない死に場所を用意してあげる。優しく、殺してあげるね」


 狂気を孕んだ瞳が揺れる。

 彼女が立ち去った後、墓場の群れに一つだけ、スコップが新たな墓標のように突き立っていた。

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