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不穏な接触

 小川が去って行き、日上が追って行ったので、一人残された川端がどうしたものかとこちらに視線を向けている。

 十勝がこちらに来ていることが想定外なのだろう。

 だが、彼女にとっては邪魔者が一人居なくなってくれてむしろ僥倖。なので無理に責める気にもなれないのだ。


 なんやかやで食事を終えて、皆が去って行く。

 最後まで俺を睨んでいた坂東も音楽室へと引っ込むようで、殆どの人が居なくなった食堂で、そいつは行動を起こす。


 中田がふらりと立ち上がる。

 それに気付いた川端がにやりと悪意の笑みを浮かべてゆっくりと彼女に付いて行った。

 なんだか雲行きが怪しい気がする。

 十勝もそう思ったようで、俺と視線を合わせると立ち上がった。


「少し様子を見てきます」


「なら私も行くわ。修は忌引さんと井筒さんの相手をよろしく」


 席を立つ十勝に木場が付いて行く。

 俺は光葉と顔を見合わせ、立ちかけた身体を再び椅子に座らせる。


「なんだろうな?」


「ん」


 二人して小首を傾げ、隣に居る井筒を見る。

 何やら決意した顔をしていた。


「どうした井筒……って、まさか」


 おもむろに立ち上がった井筒は食事を終えて立ち上がろうとした賀田の元へと向かう。

 気付いた賀田が立ち止まり、井筒もまた、直前まで来て立ち止まる。

 無言で見つめ合う二人、なんだか空気が緊張し始めた気がする。


 躊躇うような顔をする井筒は、しかし、意を決したように視線を合わせ、賀田に告げる。

 それは、賀田も覚悟していたようで、苦々しい顔でその言葉を受け止めていた。

 簡単に言えば、これからどうするの? というだけのはずなんだけど、躊躇いがちにどもりがちにとつっかえつっかえ話すせいで分かりづらくなっている。

 それでも賀田は紳士にその話を聞いていた。


「今しばらくは、一人にしておいてくれないか? まだ、この手に残ってるんだ。清音の手の感触が。私は……自分で答えを見つけなければならないから……」


「う。うん……その、落ち付いたらその、図書室で待ってる」


「図書室、か。なぜ奴なんだ?」


「それは、その……」


「沢木はレイプ犯だ。そんな奴に抱かれる意味が、分からない。なぜ、奴の元へ向った玲菜?」


「忌引さんが、幸せそうだったから、だよ。沢木君なら、女性を満足させてくれるんじゃないかなって、思って……」


 なんだ、凄く、むず痒い。

 光葉、無言で太もも抓らないでくれない? とっても痛いんだけど?

 あと大門寺、そんなゴミを見る目を向けないで。

 って、待て、大門寺、後ろ。後ろ見ろ。お前の最愛の人が別の男に声掛けてるぞ。

 最上が壱岐に話しかけているのに気付いたが、今の俺にはそれを指摘できる余裕はない。


 なんか、不穏な状況がいくつかある気がするが、うん、ちょっと、所沢どこ行った?

 気付いた時には奴が居ない。なんかこう、アイツだけは別種の危険を醸し出してるんだよな。

 なんというか、強迫観念に蝕まれているというか、絶対に行わなければならないことに気付いてどうやってそれを遂行しようかを迷っているような。


 不穏な空気だけを残し、彼らもまた去って行く。

 結局居残ったのは俺と光葉、井筒と足立、そして田淵の五人だった。

 どうやら珍しく見かねた田淵と足立が食器洗い手伝ってくれるらしい。

 俺も強制参加で皿洗いをさせられた。


 自分のだけなら良いんだが、他人の食器まで洗うとなると、なんかこう、気が滅入るな。及川や井筒は毎日コレをやっていたのかと思うと尊敬すらしてしまう。

 あと井筒、このご飯かぱかぱになってるよぉ。とかいいながら梅干し入りおにぎり食べんな。

 なんで食事終えた後に小腹空いたとか言ってつまみ食いしてんだよ。


 確かにそのおにぎりはもう賞味期限も過ぎて危険物に片足突っ込んでるから早めに食べないとだけどさ、それでも三つは食べ過ぎだと思う。

 残りは梅干しおにぎり四つだけか。

 明日までは持たないだろうな。とか言いながらまだ食うのかお前は。


 サンドイッチとおにぎりは全部無くなった。食事にも何個かは出されていたが、殆どが井筒の腹に消えてしまった。

 残った食材は殆ど冷凍品だ。冷蔵品は今日までに使い切った。

 そしてここからは食事を殆ど作ることの無い面子による冷凍食品解凍レシピ軍の登場である。

 及川の死がこんな所に影響を及ぼすとは……


「なぁ沢木」


「ん、どうした?」


 無心で食器を洗っていると、隣に居たモヒカンヘッドが食器を洗いながら告げる。

 そう言えば足立の髪、再びモヒカンになってるな。整髪剤はどうしたんだろう。どうやって髪固めたんだ?


「次はお前らの番だろ。何か対策はしてんのか?」


「対策っつってもなぁ。腹に雑誌入れてるくらいだぞ? 他にどうしろっていうんだ?」


「まぁ、そりゃそうなんだが……」


「俺のところで被害者になりそうなのは俺。そして俺を殺しそうなのは所沢、嫉妬に駆られた光葉、あとは及川の仇とか言って賀田に斬られる可能性もあるか」


「お前、随分と恨み買ってるんだな」


「割りと買ってるみたいなんだよ。なので出来れば助けてください、命があるうちに」


「まぁ、なんだ。お前が死んだら俺が真犯人見付けてやるよ」


 それ、俺が死んだ後じゃん。

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