嵐の前にひとときを
朝食。
及川が居なくなったために食事当番は俺達がやることにした。
といっても俺が食堂で食事を用意する訳ではなく、木場と光葉、そして十勝がメインで食事を作っている。
何故か十勝が張り切って手料理作りますね。とぐいぐい自己主張し始めたので光葉が対抗心を燃やしたのだ。
俺と井筒が隣合い、ご飯が出来るのを待つ。
井筒が空元気を出すように「ごっはんはまっだか」と繰り返しているがそれは食事作ってくれてる人に迷惑だからやめような?
少し離れた場所に山田と壱岐。二人は一緒に図書室に居たのでついでにここまで付いて来たのである。
食事後は音楽室で暇を潰すそうだ。
男子は体育館より音楽室で寝泊まりしそうだな。
とにかく、この朝食で部屋割りを再確認することになるだろう。
朝食時間が近づき、二度寝していた大門寺と最上がやってくる。
遅れ、足立と田淵。二人はハッスルしようとして力尽き、先程まで寝ていたそうだ。
足立が欠伸混じりに報告してくれたが二人の性事情など知りたくもないので報告はいりません。
次にやって来たのは貝塚と原。出来たてカップルは本当にアツアツだ。
手を繋いでやって来て隣り合って座り、無言でキャッキャウフフのオンパレード。互いをつっつきあって恥ずかしそうにしながら楽しんでいた。
そして所沢と中田が幽鬼のようにふらふらと現れる。
所沢は今のところ一番ヤバそうなんだよな。
俺を殺しに来るとしたらこいつが一番……いや、こいつだけじゃないか。
精気の抜けた顔でやって来た賀田が席に付く。
最後に小川、川端、日上の三人がやって来て、木場たちによって食事が運ばれる。
ところで、何で俺の場所だけ豪華なんですかね?
光葉と十勝が腕に縒りを掛けて作ったせいで無駄に豪華に……ああ、これが、最後の晩餐、か。
妙に納得してしまった俺だった。
こうなったら死ぬ前に好きなだけ女性関係爛れさせちまうべきか?
いや、そんな事をすれば確実なデッドエンド。しかも光葉様による私刑執行である。
自重しよう。むしろ光葉に井筒と良い思いをさせて貰えたのだ。
俺の人生にとっては幸運過ぎたと言えるだろう。
二人に食事を口に運ばれ、無心でぱくつく俺はそんな事を思った。
隣の井筒を押しのけて食事を口に運んでくる十勝と、それに対抗する光葉。
これを見た小川達が驚いた顔をしていたが、もはや俺にはどうでも良かった。
あ、坂東今来たのか。
坂東が榊を伴いやって来たのだが、俺の現状を見るなりわなわなと怒りに震える。
リア充やってる俺が気に入らないようだ。
井筒がそれに気付いて苦笑いしていた。
「沢木、いくらなんでもそれはないだろっ」
「俺に言わないでくれ。不可抗力だ」
「ふざけんなテメェ! 井筒さんとヤッただけじゃ飽き足らず小川から十勝を寝取ったのかよ!?」
「ちょっと、変なこと言わないでくださいます。私小川さんに抱かれたことはありませんから寝取りではないですよ」
「そういう意味じゃねぇよ!?」
「ど、どうなってるの。ね、ねぇ佳子、眞果が沢木の所にいるんだけど?」
「わ、わたくしに聞かれても……」
驚いた川端が日上に尋ねるが、十勝の行動など知らない彼女が答えられる訳がなかった。
小川が唖然とした顔で、しかしなぜか悔しげに俺を睨む。
なんだ、また新たなフラグが立ったような……あ、これ新しい死亡フラグだ。
小川が席を立つ。
無言でこちらに向かって来る。
硬く結んだ唇が白くなっている。
なんだか殴られそうな雰囲気でやって来た小川は、押し殺した声で十勝に声を掛けた。
「君は……何をしてるんだ?」
「何を? と言われましても……」
「当てつけのつもりか!?」
激昂した小川に、小首を傾げる十勝。
「当てつけも何も、牧場さんと死に別れた小川さんからは魅力が無くなってしまいまして、私、今は沢木さんを忌引さんから寝取るのに夢中なのです」
あ、それ寝取り属性設定自分で受け入れちゃったの!?
にやにやと微笑む十勝に光葉がむぅっと膨れる。
頬を膨らませる光葉が無駄に可愛い。
あの頬を両方から掌で押してやりたい。ぷふぅーっと息が吐き出されて行く姿がさらに可愛いはずだ。
「な、何を……」
自分に気があると思っていた女が他の男に靡いていた。その事実に小川が打ちひしがれている。
リア充崩壊乙。自分から遠ざけたと思っていた相手が実は相手が自分を振っていたと気付かされた気分を味わっているのだろう。光葉にやられたら俺も地獄だが、これはこれで優越感があるような……
結局、何も言えなかった小川は肩を震わせながら食堂を出ていった。
慌てて日上が追って行く。
あいつら殆ど朝食食べてないぞ。大丈夫か?
なんかまたややこしい事が起こりそうな気がしてくるのが、多分気のせいじゃないんだろうな。
はぁ、早く明日よ無事に過ぎてくれ。俺はまだ死にたくないぞ。