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ハーレム崩壊1

 宿直室に、小川才人、川端美海、中田良子、日上佳子、十勝眞果の五人がやって来た。

 十勝はちゃぶ台に茶菓子を置いてお茶を用意しに行く。が、小川に止められしぶしぶちゃぶ台を前にして座った。


 小川から川端、日上、中田、十勝の順に円状に座る。

 小川が座る位置を決めたのだが、これは自身の近くに彼女と唯一夜這いに参加してなかった十勝を置きたかったからであり、夜這いを行った中田と手伝った日上を離している配置になっている。


「さて、なんでここに呼んだか、分かるか?」


「才人、流石に分かるでしょ。理解できてなかったらヤバい奴よ、まぁ夜這いする時点でヤバい人だけど」


 くすり、勝ち誇った顔で告げる川端に中田が睨む。


「ま、まぁまぁ才人様、中田さんたちの暴走も元をただせば才人様への恋慕故のことですし、寛大な処置を……」


「ダメだ」


 十勝の苦笑いにぴしゃりと告げて、小川は中田を睨む。


「正直、三綴の死体があそこで見つかってくれて良かったと思ったよ。女性に無理矢理襲われるのがあんなに怖いものだとは思わなかった」


「こ、恐いって、わ、私は……」


「ゲームや漫画じゃあのシュチュエーションはご褒美みたいに見せてるけど、実際は気持ち悪いだけだったよ」


「き、気持ち悪い……わ、わた……」


「もう、二度と近づかないでくれ中田」


 憧れの小川から直接接近禁止令を宣言された中田がこの世の終わりのように青い顔になる。

 彼女は失敗してしまったのだ。

 あるいは、死体を発見しようとも夜這いを強行していれば、小川とて何かしらの情が湧いたかもしれない。でも、中途半端過ぎた。


 夜這いという恐怖を抱かせただけで止めてしまったからこそ、小川にとって中田は気味の悪いストーカーとしか映らなくなってしまったのである。

 咄嗟に中田は日上に視線を向ける。助けて。そんな視線を受けた日上だが、彼女の顔も青かった。


「才人さん、わ、わたくしは、どうなりますか……」


 絞るような声で、震えながら尋ねる。

 小川は腕を組んで唸る。

 正直、日上についてはそこまで嫌悪を抱いてはいない。というよりも、中田に脅されるかなんかして無理矢理付き合わされた上に、死体を発見したがために全裸で校内を走りまわった可哀想な娘としか映らなかったのだ。


「あー。そう言えば佳子、貴女って才人が好き過ぎてその姿になったんだっけ~」


 この機会にライバルは極力減らそう。そう思ったのだろう川端がニヤリと微笑みながら尋ねる。


「そ、それは……」


「どういうことだ? 日上。俺が好き過ぎてその姿? 俺は別にその姿を強要した覚えは無いんだが……」


 少し驚いたせいか小川から険が取れる。

 日上は迷ったモノの、言い逃れは得策じゃないとぽつりぽつり、告白を始めた。


「一年前位でしょうか、大河内さんと乙女ゲーの話をしていたことを覚えていらっしゃいますか?」


「大河内と……か。ああ、伊織が当時ハマってて、俺も一緒にやらされたって話しか?」


「はい、その時大河内さんは主人公押しだったのですが、才人さんは悪役令嬢の姿が好みだとおっしゃってましたでしょう」


 そこまで聞いて、小川は気付いた。

 日上が金髪ドリルヘアのお嬢様ルックになった時期、そしてお嬢様口調で接し始めて来た時期。


「まさか、君は……」


「少しでも、才人さんに好かれたかったのですわ……」


 落ち込んだ顔で告げる。

 相手の望む自分になる。そうすれば、きっと自分を見てくれる。

 だが、実際にはイタいコスプレでしかなく、小川からは少し変わった人だ。としか思われていなかった。


 だが、真実を知った今、日上が今まで行っていた行為がフラッシュバックする。

 決して過度な自己主張はすることなく、必死に小川の記憶に残ろうと彼の近くに常に居た。

 いじらしくも一途な彼女に、ぐらり、良心が傾く。


「お、お願いします才人さん。わ、私は罪をいかようにも償います。ですから、ですから側に居る事だけは、貴方の側にいることだけはお許しくださいませ」


 少し後ろに下がり土下座姿勢を始めた日上。その姿はまさしく追い詰められ、婚約破棄を突き付けられた悪役令嬢のようだった。

 外聞も恥も捨て去った女が涙と鼻水塗れの顔で必死に懇願する。

 その姿に、川端は思わず噴き出す。


「見苦しいわよ佳子。まるで本当に悪役令嬢の末路みたい」


 くふふと笑いながら告げる川端。

 苦々しい顔で見つめる十勝。彼女の場合は見苦しいという思いより自分のことのように辛いと思っているようだ。

 何とかならないのかと小川に視線を向ける。

 その小川は、困ったような顔をしていた。


「日上……」


「は、はい……」


「今回は見逃す。以後夜這いして来ることの無いように、お前が言った通り、俺の側にいるのはいい、過度な干渉の禁止。守れるな?」


「き、肝に銘じますわ」


 ははぁーっと土下座からさらに身体を沈める日上。

 どうやら彼女のいじましいまでの努力がこの危機から彼女を救えたらしい。


「そんな、本気なの才人!?」


「今回だけだよ。だから、最後の信頼を裏切らないでくれ日上。だけど……」


 慈愛の顔で日上を立たせ、小川は中田を見る。その顔は嫌悪しかなかった。


「お前は無理だ中田。悪いが二度と俺に近づかないでくれ」


「え……?」


 あまりの衝撃に、中田はぽかんと大口開けて小川を見つめ返すのだった。

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