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第四の真相4

「私のことで、争わないでっ」


 井筒玲菜が悲痛な声で叫ぶ。

 驚いて彼女を見たのは、俺を睨みつけていた及川清音と賀田天使。


「玲菜。でも……」


「わ、私が襲ったの。私が、沢木君を襲ったんだよ。だから、沢木君は悪くないのっ」


 あ、バカっ。

 木場が額に手を当て天を見上げる。

 光葉と十勝が呆れた顔をし、俺は一瞬にして全身から脂汗が噴き出した。


「玲菜……それはつまり、お前としたのは木場ではなく……」


「やはり、沢木……修一」


 ちょ、ちょっと井筒さん、それ、逆効果。こいつ等にその真実告げちゃったら……


「さぁわぁきぃぃッ!!」


 誰かが反応するより早く、賀田が突撃。

 慌てて逃げようとした俺を蹴り倒し、馬乗りになる。


「やはりか、やはり貴様がッ」


「やめてっ!? 天ちゃん、やめてっ」


 泣きそうな顔で駆け寄ってきた井筒が必死に賀田を止めようとするが、賀田は拳を硬く握りしめ振り上げる。

 その腕にしがみつき必死に止めようとする井筒。


「やめてっ、私が悪いの。私がえっちな娘だったから、ごめんなさいっ、天ちゃん怒らないでっ」


「止めるな玲菜。こいつは、こいつだけは今ここでっ」


 当事者以外意味が理解できない展開に、大門寺すらも驚きの顔で見守ってしまう。

 俺を助けてくれる者は皆無、このまま賀田に殴られるだけで済めばいいが、下手したら殺され……


「っ!!」


 賀田を止めることが不可能だと察した井筒は、決死の顔で賀田から離れ、走り出す。

 屋上の縁に走り寄ったことに気付いた賀田が思わず振り下ろそうとした手を止め、井筒を見る。

 振り返った井筒は賀田、そして及川を見て哀しげに微笑んだ。


「私が、悪いんだよね?」


「玲菜?」


「私が悪いの。皆に止められても食欲止められないし、性欲も止められないし、皆に迷惑掛けてばっかり。私がえっちを我慢してれば三綴君に脅されることもなかったし、沢木君を襲うこともなかった」


「違うわ玲菜。あの男は欲望に忠実に動こうとしていたわ。これ以上放置していれば誰かを襲った。だから殺したのよっ」


 あ、ちょ、今普通に殺したって言ったぞ及川。

 言質、今言質取れ……クソ、指摘できる空気じゃない。


「やっぱり、やっぱり清ちゃん私の為に三綴君殺しちゃったんだね。やっぱり私悪い子だ。ごめんね清ちゃん、天ちゃん。私、居なくなるから。だから、皆と仲良くして? 沢木君のこと許してあげて。沢木君が襲ったんじゃないの。私が、沢木君を襲ったんだよ? だから、さよなら……」


 何を決意したのか知らないが、井筒は自身を屋上から中空へと後退さる。


「玲菜ッ」


 半ば予想出来ていたのだろう。井筒が屋上から消えるその瞬間、及川と賀田が走る。

 賀田に倒されていたせいで少し遅れたが俺も走り出していた。

 及川が一瞬早く追い付く。


 落下しきる井筒の腕を引っ張り屋上に投げ上げる。

 だが、その勢いを殺しきれず彼女の身体が屋上から飛び出していた。

 驚く井筒と入れ替わるように及川の落下が始まる。

 井筒を投げ飛ばした腕を、遅れてやって来た賀田がギリギリで掴む。


 既に屋上よりも下へと落下してしまっていた及川を掴んだせいで、彼女の体重をモロに受ける賀田。その半身以上が屋上の先へと出てしまっていた。

 及川と共に落下しそうになった賀田を俺が、いや、俺と同時に追い付いた大門寺が片足づつ掴み取る。


「絶対離すな沢木ッ」


「あたりまえだッ」


「足立手伝え!!」


 叫ぶ大門寺に慌てて走り寄る足立。


「男子急いで、全員で一気に引き上げるッ」


 ハッと気付いた木場が叫び、そこでようやく皆が動き出す。

 男子だけじゃ無く女子も一緒になって大門寺と俺が引きとめた賀田の身体を必死に屋上へと戻した。

 次は賀田が引っ張ったままの及川だ。

 だが、完全に賀田の腕だけで耐えている及川は、溜息を吐いて賀田の腕を引っ張ろうとする俺達を見る。


「正直、貴方に暴かれた時は驚いたわ。一応、ネタばらししてあげる」


「清音?」


「そう、三綴を殺したのは私。食堂の三人は別に私に気付かず校舎に向かっただけよ。少し隠れれば簡単にやり過ごせたわ」


 現実って酷い。

 実際その場に居たけど運良く見つからなかっただけとか。

 そんなのってありかよ。


「三綴は私と鉢合わせすることはなかったわ。彼が私の居た場所を通り過ぎた瞬間を狙って背後からグキッとね。ふふ、後は女子トイレまで引きずったわ。幸い誰にも会わなかったのは運が良かったわね。壱岐君達、背後に私が居ること気付きもしないんだもの」


「清音。そんな事はどうでもいい、早く……」


「三綴を隠した後は三綴捜索後に体育館倉庫に隠したわ。ミスは別段なかったし、私だとバレたとしても証拠がなければ犯人には出来ないと考えたんだけど……ふふ、悪いことはするべきじゃないわね。結局こうなっちゃった」


「頼むっ、もう喋るな。もっとこっちを握り返してっ、清音ッ!!」


「天使、玲菜をお願い。あの子、手綱握ってないとすぐ人に迷惑掛けちゃうから。沢木、悔しいけれど、玲菜を幸せにしなさい。泣かせたら化けて出てやる」


 それは、自身の末路を知ったからこその強がりか? 及川清音は泣きそうな顔で自分を見つめる井筒と賀田に最高の笑みを浮かべる。


「玲菜、天使。私達、友達、だよね……?」 


 するり、手にしたはずの感覚が、賀田の手から滑り落ちる。

 「あ」小さな声が賀田から漏れた。

 徐々に遠く離れる及川へと手を伸ばす。

 けれど、その手が彼女を掴むことはもう、二度となかった……

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