第四の真相2
犯人は及川。おそらく、いや、ほぼ確定だ。こいつで間違いないだろう。
当の及川は指を差されて眼を見開く。
単純に指摘されて驚いたのか、それとも言い当てられて驚いたのか。
「あら。私が犯人? 証拠はあるのかしら?」
「そうだな。あんたが犯人だと指し示す証拠は一つもない」
「お、おい沢木?」
「それで犯人告げるってお前正気か!?」
「及川が犯人だったらそれでいいけどよ、真犯人別にいたらお前、無罪の人を犯人に仕立て上げようとしてるってことだぞ」
「全くだ沢木。幾ら探偵役で今まで犯人を見付けて来たと言っても、なんとなくで清音を犯人にしてるわけではあるまいな?」
「別になんとなくって訳じゃない。状況証拠だけだが一応の筋道はできた。後はその仮説を立証して行くだけだ。他に犯人になりそうな奴、あるいは穴があればどんどん指摘してくれればいい」
もともと今回は物証がほとんどない、状況から可能性のある存在を見付けて行くしかないのだ。
「まずは及川、小川か賀田。どちらかに出会わなかった理由を教えてくれ。お前はその時どこに居たんだ?」
「そもそもあなたの前提が間違っているのよ。わざわざ下足場に戻らなくても食堂と校舎は離れているのよ。そこから校舎に戻ることも可能でしょ?」
「確かにそうだな。じゃあ賀田、坂東、お前らはどう移動して校舎内に入った?」
「そりゃ、普通に下足場まで向かったけど……」
「つまり、食堂への道を素通りして下足場のある校庭前を通って校舎に戻った訳だな」
「ああ、そう、だが?」
「その間及川は見掛けたか?」
「い、いえ?」
及川を見かけた訳じゃない。
となるとその時及川がどこに居たか、だ。
「私が校舎内に戻っていたのよ」
「そうか、ならなぜ?」
「トイレに行っていたわ?」
「へートイレに、ねぇ」
「おい沢木、トイレ行ってたんなら問題ないだろ」
「問題大アリだ賀田。及川は三綴捜索後にもトイレに行ってたんだぞ。三綴のスマホが落ちていた通風口のある女子トイレに」
コレが俺の持つ切り札だろう。
正直確証なんてこの程度だ。後は会話で相手の嘘を暴いて行くしかない。
なんて綱渡りな推理だろう。
あるいは名探偵ならばもっと楽に犯人を暴きだせたんだろうか?
「そ、それは……私だって、知らなかったわ」
「そ、そうだぞ沢木。清音が、三綴を殺した根拠もないのに、そんな……」
「根拠はあるさ、そもそも及川が賀田の元へ向ったのは井筒が男子トイレで脅されていたことが発端だ。そして食堂横の角で、賀田と会っている三綴を見付けた。賀田に脅しをかけている彼を見付けて殺意を抱き、放送を聞いて自分の元へやって来た三綴を殺し、そして……」
「待ちなさい沢木君」
ヒートアップしかけた俺の言葉を、木場が止める。
「木場?」
「食堂には壱岐君達が居たわ。放送を聞いた直後なら彼らが移動するはずよ」
「悪いけど、僕らは及川さん見てないよ?」
「ここはどう説明するの?」
あ……そうか、先に三人が校舎内に移動するんだっけ……ああクソ、これじゃ推理にすらならない。
どうすりゃいいんだ。
そもそもの前提がどんどん崩れて行く。
「でも、確かに及川さんが一番犯行を行える可能性があるのは確かよね」
「あら、木場さんも私を疑うの?」
「ええ。特に三綴君のスマホがあったのは女子トイレの天井裏。その女子トイレに二度も向ったと証言している貴女は現時点で一番怪しい。特に二度目に当る三綴君捜索後のトイレ時間。かなり長かったわよね。そしてその間、私達は榊君以外全員が食堂に居た。体育館倉庫の跳び箱内に彼の遺体を隠す時間は充分にあったわ。女子トイレの通風口に遺体を隠しておけば皆はどれだけ捜索しても彼を見付けられないし」
それ、俺が言いたかったこと……
「言ったでしょう、大きい方をしていたの。時間が掛かったのは仕方無いわ」
「そう。なら屋上に集まった際、最後に来たのは? ずいぶん汗だくだったわね。まるで全力疾走したように」
「ええ。全力疾走したわ。道場に確認に行って天使が居なかったから慌てて引き返して屋上に向かったもの」
マズいな。聞いた感じからすると不備が見当たらない。
犯人は及川だと思われるのに証明する術が見当たらない。
これはマズい。皆を納得させられるだけの証拠を持ってない。
「それで、他に私を犯人に仕立てようとする根拠はあるの?」
「……ふむ。一番怪しくはあるけれど、沢木君は何かある?」
木場の言葉に、俺は答えられない。
怪しいのは確定しているのに決め手に掛ける。
何か方法は無いか、相手がボロを出すような何か……
「ふん。自信満々に告げた割には清音のアリバイを崩せんではないか。とんだ迷探偵だな」
「ちょ、ちょっと言い過ぎだよぉ天ちゃん」
くそ、賀田のドヤ顔に返す言葉がない……