最初の殺人1
「あと行ってないのは校舎内だけか」
「購買とか職員室とか行ってないわね」
「……校長室」
外は大体見回った。右回りに裏庭から校庭に回り込み、端の方にある鉄棒の群れに背もたれた俺たちは次にどこを見るか話し合っていた。
何処に行くにも狭い校舎内だ。それ程時間はかからないだろう。
なんなら一階から順に見回ってもいいし、逆に上から順に降りて行くのもアリだ。
そもそも適当に回ったせいで行ったり来たりしているのだが、まだ三十分も経ってない。
光葉の言った校長室も行ってないな。一応この学校の長の部屋だしもしかしたら何かあるかも?
期待はしないが行ってみてもいいかもしれない。
時間はあるのだ、ゆっくりと調べて行こう。
折角だし遠回りしてしまおうか。三階に上がって一階に降りて次に四階、そして二階の探索。と面倒な移動をしながら時間を潰すのもありかもしれない。
その後、校長室、職員室を調べたが何かしら変化がある訳もなく、職員室でコーヒーが作れることがわかった位だ。
飲みモノは貴重ではあるが、結局お湯を使う必要がある為嗜好品の一つでしかない。
そもそもジュース類ならば学校内に存在する自動販売機を使えばいいだろう。金を使う必要はないだろうから破壊して中身を手に入れるのが一番ではあるのだが。
一応、給湯室から水やお湯が出るのはわかった。
電気は通っているのかもしれないが、何処から来ているのかは謎だ。
同じ理由で水の出どころも気になる。
調べようとすればおそらくあの虹色の靄の先に辿りつくだろう。
「ジュースは欲しいよね。ピッキングできる奴いないかな?」
「大門寺君に頼めば素手でできるんじゃないかしら? 報酬でごっそり取られそうだけど」
「バールかなにかがあれば剥がせるだろ。バールのようなモノどっかないかな?」
食堂にある自販機の話題を膨らませながら購買部に来る。ここならバールとかあるかも。と部屋に入ると、そこには大河内斈がいた。
入って来た俺達を見付けてやぁと手を上げる。
丁度入って間もなく、周囲を見回しているところだったようだ。
「なんだ。君達も来たんだ」
「校内探索中だよ、大河内は?」
「ん。同じく探索中。さぁてそろそろ行こうかな。伊織と待ち合わせしてるんだ。購買の準備室でね」
「そう言えば体育館で言ってたな。まだ会って無かったのか」
「あ、聞いてた? あの三人に連れてかれたからしばらく時間かかるかと思って待ってたんだよ。そんじゃ、僕はお暇す……」
「い、いやあああああああああああああああああああああああああああああああああ――――っ」
誰かの悲鳴が轟いた。
劈くような悲鳴は隣の部屋からだ。
つまり、彼が今から行こうとしていた購買準備室。という名前の倉庫である。
驚く俺達は互いに顔を見合わせ、何があった? 見に行くか? と瞬時にアイコンタクトを交わす。だがその間に大河内が動いていた。
慌ててドアを飛び出す大河内。俺達も顔を見合わせ走りだす。
嫌な予感しかしない。なぜ普通に探索してるだけで悲鳴が上がる? これがゴキブリ発見程度の事なら笑って許せる。だけど、この状況での悲鳴など、一つしか思い浮かばない。
ありえない。あり得る筈がない。
まさか本当に? ゲームやマンガじゃあるまいし。
殺し合いゲームの始まりとか? 犯罪者が紛れ込んでいたとか? いや、楽観視で考えれば他にも巻き込まれた人がいて、牧場が大河内と会うために部屋に入った瞬間目が合って悲鳴をあげたとかそのくらいのイベントかもしれない。
そうだ。現実あるわけがないのだ。閉鎖空間で殺人連鎖など、そんなこと……起こる訳が……
隣の部屋に入ると、モヒカン男の背中があった。
入り口前を塞ぐように立ち、呆然としている男の肩を大河内が掴む。
邪魔だどけ。と言わないだけマシだろう。
「何してんだ足立っ……え?」
立ち尽くす足立の肩を掴んで押しのけようとして、大河内は動きを止めた。
その後ろから俺達も部屋を覗く。
暗がりの中、差し込んだ光に照らされ、一人の女生徒がいるのが見えた。
へたり込み、全身を振るわせる高坂佐代里がそこに居た。
否。それだけじゃない。高坂の視線の先に、震える手で指し示すその先に、一人の女生徒がいる。
暗がりの中、物置部屋の一室に、彼女は力無く座り込んでいた。
俺達学生と同じセーラー服。間違いなく生徒の服装だ。
涎を流し、目を見開き、首に両手で絞められた跡をくっきりと残し……死んでいた。
信じられないといった想い。死にたくないという感情。助けてくれという願い。その全てを宿した死に顔がそこにあった。
見知った顔が、つい先ほど体育館で動いていた女生徒が……
牧場伊織が……死んでいた――――