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初恋は親友でした~side storys~

初恋は親友でした~side story~ Ⅰ『女の娘の俺は男の娘と永遠の愛を誓う。』

作者: みやじい

初恋のみの追っかけの方は久方ぶりです!

君恋を読んでいる方はちょっとぶり(とか言いつつまあまあ空いてる)です!

Twitter見てる方、また会いましたね!


そしてはじめましての方、はじめまして!

これから末永いお付き合い期待いたします。



 少しだけ森を通るつもりが、行けども行けども緑、緑、緑である。人の手が入っている山とは言え、標識の無い道でない道はお世辞にも歩きやすいとは言えない。そんなところをかれこれ数十分もさ迷っている。





弘人(ひろと)と、その幼馴染みの咲哉(さくや)は今、宿泊学習に来ている。

 




 宿泊学習というのは、俺が入学した榊原(さかきばら)中学校の一年生が五月に体験する最初の宿泊行事、並びに校外学習だ。


 咲哉いわく、「宿泊学習は集団行動の基礎を身に付けるための実践学習らしいけど、入学して一ヶ月でそれをやるのはどうだろう? 僕みたいに親友が同じクラスにいればいいけど、友達がまだできていない人にとっては地獄だろうな~」とのこと。


 確かに弘人もその『友達がまだできていない人』に当てはまるわけで、そんな人達がこの機会を通して友達を作ったりするのだが、自分もそうかと言われればそういうわけではなく、人付き合いは苦手なタイプだ。まあ咲哉と同じクラスになれただけで十分なのである。


 そんなわけで宿泊学習に来ており、今日はその二日目、今はメイン行事であるオリエンテーリングで登山の最中だ。


 一応何時に帰ってこい、というのが決まっているため、少し遅れていたうちの班はルート外の近道を見つけ、突き進み、挙げ句の果てに迷子になっているのである。


 体が小さいせいで体力が少なく、すでにクタクタな咲哉が、班長の赤木(あかき) 駿太(しゅんた)君に皆が思っている事を訊く。


「あ、赤木くん。この道で本当にあってるの? なんだかお化けが出そうなんだけど…………」

「うーん…………方角的にはこっちであってるはずなんだけど………………でもまあお化けなんて出ないって」

「そうだといいんだけど……………」


 咲哉は重度の『オバケ恐怖症』である。空はどんよりと曇ってきて、もとより木々が遮って僅かしか届かない光はさらに少なくなり、不気味なほど暗い。暗い所が格段苦手なわけではない俺が少し不気味に思うくらいだから、『オバケ恐怖症』+『超怖がり』の咲哉が怖がるのは無理もないだろう。木が風に揺れる音にすら敏感に反応している。


 さらに言うと咲哉は高所恐怖症でもある。高いところは昔から苦手で、一緒に行く遊園地のアトラクションの半分は、咲哉のせいで乗らずじまいに終わる事が多い。


 俺達は今、恐ろしく切り立った斜面の側を歩いている。地図には危険地帯と明記されていたが、知らぬうちにこんなところまで来てしまったようだ。崖とまではいかなくともとても急で、咲哉は覗きこんでは「ヒィッ」と言ってしがみついてくる。


 ガザッ


「キャッ」


 ゴソッ


「うわっ…………てなんだ、リスか。ヒロぉ怖いよー」

「いいから歩け」

「だってぇ………………」

「ああっ、もう。ほらっ」


 お化け屋敷にデートに来ている訳ではない。雲行きも怪しくなってきていて、ぐずぐずしている暇は無いのだ。


 だから『仕方なく』咲哉に手を差し伸べる。仕方なく、だ。仕方なくだけど、咲哉が嬉しそうに笑ってそれを小さな手でギュッと握るものだから、男なのに可愛いと思ってしまった。


「ありがとっ! なんだかんだ言って優しいな~ヒロは」


 なんだかんだというのが気になるところだが、優しいと言われると照れてしまう。


「………………ほらっ、さっさと行くぞっ!」

「あれ? 弘人、なんで顔紅いんだ?」

「あ、ほんとだ~。ヒロ紅くなってる~。なんで?」


 最後の一人の班員、後浜(こうはま)君にもバレてしまった。お調子者だから茶化されるのが目に見えている。それに『超絶』鈍感な咲哉にまでバレているとは。


「後浜君。あんまり茶化して怒らせるなよ」

「はいはい。りょーかい、駿太。悪かったな、弘人」

「え、ああ、うん」


 なんでだろう?咲哉とは長い付き合いで、「ありがとう」や「優しい」なんて言われたことは数え切れないくらいあるのに。


  何故かさっき言われた「優しい」がとても嬉しい。


 それにしても後浜君はちょいワル的なキャラだけど、優しい素直な人だな。モテるのも頷ける。


「ん? ちょっと待て駿太、なんで俺だけ怒られるんだよ。咲哉もだろーが」


 そう言えば後浜君の茶化しに咲哉も乗っかっていた。小さな不平等に気付いた彼が不服を申し立てると


「そりゃあねぇ、無理だよ。彼を怒ることなんてできない」

「いや、まあわからんでもないが…………」


 2人ともチラチラと咲哉を見ながら話すものだから、本人が反応する。


「え、なに? 呼んだ?」

「いや、何もないよ」

「そっか」


 咲哉は小さくて、可愛らしい顔で、とても子供っぽい性格をしているため、誰も彼を面と向かって怒れない。腹が立っても、一目見てしまうとスッとおさまっていくから不思議だ。咲哉はそういう力を持っている。


「そういえば集合時間って何時だっけ?」

「「「「あ………………………………」」」」


 赤木君が慌てながら確認する。


「た、確か15時30分だったはず…………………」

「今は?」

「15時20分………………」

「あと十分じゃん!! 急ごっ!」

「うん。とりあえず下に向かって進もう!」





 赤木君、後浜君、俺、咲哉と1列になって不安定な斜面を走る。


 だが五分ほど走ったところでパラパラと雨が降りだした。だんだんと強くなってザーザー降りになってゆく。そして遠くの方から微かに雷の音が聞こえてきた。


「ひひひヒロっ雷だよ! どうしよう!?」

「大丈夫だから、とにかく走れ!」


 雷は見えなくとも音が聞こえれば射程範囲内である。さらには木の側にいては、『側撃雷』という、木に落ちた雷に横から撃たれかねない。木の下で雨宿りするなと言われるのはこのためだ。


 俺達は今、木に囲まれている。詳しい現在地も分からない状況だけれど、とにかく安全なところまで急がねばならない。だから咲哉の手を強く握り、笑顔を作って励ます。


 木の根っこなんかでぼこぼこな道が泥々になって滑りやすくなる。こんなところで転べばひとたまりもない。注意をはらいつつもそれでいて全力で駆ける。


 ピカッ

 ゴロゴロゴロゴロゴロ!!!


「うわぁっっっ!!!」


 咲哉の叫びに慌てて皆ブレーキをかけて振り返る。さっきの雷に驚いて足を滑らせたようだ。雨で握っていた手が滑る。



 咲哉が行ってはいけない方へ傾いていく


 とっさに、手を伸ばす


 ギリギリの所で届いた手で咲哉を引き戻す


なんとか届いて良かった。



 安心している時ほど油断するな、という言葉の意味が今分かった、そんな気がした。


 咲哉を引いた反動でふらついて今度は俺の体が宙へ浮く。


「くっ!」

「ヒロ!!!」


 咲哉が手を伸ばすのが見えた。でもその細く華奢な手は短すぎた。


 地面に落ちている木の枝をへし折り、泥と落ち葉にまみれながら、ものすごいスピードで落下する。目が回っているおかげか痛みはまだ感じない。


 ドカッ!!


 う、…………


 木か何かにぶつかったみたいだ。背中がとてつもなく痛いがなんとか頭は守れ………………


「ヒロ!! ヒロ!!!」


 咲哉の声を聞きながら、意識が何処かへと吸い込まれていく。


「ヒロぉ…」


 消えそうなくらい小さな声が聞こえた。それとともに完全に意識を手放した。






 目を開けると、眩い光と共に見知らぬ天井が目に入った。


「知らない天井だ…………」


 何故だろう?勝手に口から溢れた。


「ふにゃあ? …………ん? ひろぉ? え、ヒロ!? 起きたの!?」

「え、あ、うん」

「ヒロぉ!!! 心配したよぉ!!」


 ドゴッ!


 咲哉の頭突きがクリティカルヒットした。


「痛い…………」

「あ、ごめん!」

「良くは無いけど、まあ良い。それよりもここは?」

「あ、ヒロね、先生に救助された後すぐに病院に運ばれてね」


 俺の胸辺りに頭を擦りつけながら咲哉が答える。何故だろう? くすぐったいというか気持ちいい?


「あれ? ヒロってこんなに柔らかかったっけ?」


 んんんん???


コンコンコン


 丁度良いのか悪いのか、そんなタイミングでドアがノックされた。


「あ、はい」

「失礼します。山中(やまなか) 弘人さんの主治医の斉藤(さいとう) (たかし)です」

「はぁ……」

「おっと、付き添いの方もいらっしゃいましたか。すみませんが少し席を外していただいても……」


 医者は深刻な顔だった。

 純粋に一人で聞くのが怖くなった。咲哉と離れたくなかった。


「あの…………先生。一緒に居てもらっても、良いですか?」

「本人承諾のもとなら結構です。では、山中さんの病状について説明させていただきます」


 ニヤニヤしている咲哉を無視して姿勢を正した。


「えっと、病気……ですか? もしかして肺炎とか………?」

「いえ。簡単に言いますと、

  あなた、山中さんの体は男性のものから女性のものへ変化しました」


 …………………………………………はぁ?


「ど、どういう、ことですか? 確か、崖から落ちただけじゃ…………?」


 到底信じられる話じゃない。


「…………原因は、残念ながら全くもって不明です。とりあえず現状分かることは、体が女性へと変化したことだけです」

「……………………前例とかって……?」

「一件だけあります。世間を騒がせかねないとして公表されませんでしたが、日本の13歳の少女が高熱をだし、病院に運ばれると体が男性のものとなったというものです」

「元には………?」

「戻らないままだったそうです。ですが85歳まで生きてらっしゃったそうなので命に関わることはありません。ちなみにその患者さんは結婚し、子供もできました。なので生物学的には全く問題はありません」


 女の子になった。俺が?そういうのは普通咲哉だろ。


 だめだ、混乱し過ぎて思考が逸れる。


 元には戻らない。一生女として過ごす。12、3年の人生今まで男として生きてきたのに?


 改めて自分の体を確認する。よくよく見ると、腕や首が細く感じるし、指もすらりと長くなっているように思う。もともと大きい方だった身長にはあまり変化は見られないが、この時期は男子より女子の方が成長するんだっけ?だからそのままなのか?


「……戸籍やら学校やらってどうなるんですか…………?」


 黙りこくっていた咲哉が、戸惑って何も言えない俺の代わりに気になっていたことを聞いてくれた。


「診断書を書きます。それを学校や役所に提出してください。そうすれば変更などはできます。退院はいつでもできる状態です。本人が立ち直り次第、といった感じです。以上で質問などは……?」

「と、とりあえずのところは大丈夫です」

「では失礼します」

「あ、はい……ありがとう………ございました」


 医者は会釈だけして、静かに部屋を出ていった。







 主治医、という表現が正しいのか分からないけど、医者は出ていった。


 質問は?

 無いわけがない。


 でも、彼にも分からないのだから、聞いても仕方がない。なにせ世界で2例目だ。1番が良かったとか暢気にも思ってしまった。


 人は案外、理解不能な状況に陥ると冷静になるようだ。冷静、というよりは脳が思考を放棄しているように感じるけど。


「ひ、ヒロ、女の子になっちゃったの?」

「そう、らしいぞ」

「そっかぁ…………女の子か…………胸、揉んで良い?」

「死ね」


 セクハラ発言されて怒る女の子の気持ちが少し分かった気がする。うん、なんか分からないけど腹立つ。


 でも、ちょっと気分が紛れたかもしれない。


「女の子かー、こういうのは咲哉の方が適任だと思うんだけどなぁ…………」

「適任てひどくない!? …………そういえば声も高くなってるね」


 ソプラノ……というよりはアルトか。声変わりが始まっていたから、大分高さが違うだろう。自分でも違和感がある。気持ち悪い。


「すっごい気持ち悪い」

「そう? 透き通って綺麗だと思うけど」


 微笑みながら言った咲哉の言葉が、胸に染み渡る。自分の嫌な部分を肯定されると、人は嬉しいようだ。


「女の子なら、『俺』も変えなきゃな……咲哉なんかは女の子になっても『僕』でいけるんじゃね?」

「『僕っ子』とかあるもんね」


 男の娘が僕っ子について語っている。


「それを言うなら咲哉みたいなキャラを『男の娘』って言うらしいぞ」

「男の子? 僕は男の子だけど?」

「『男』の『娘』と書いて『男の娘』。かわいい男子を指すんだ」

「それじゃあヒロもかわいいから男の娘じゃない?」


 う、…………


 しまった、不覚にも『かわいい』にときめいてしまった。思ったよりも乙女化が進んでいるようだ。


「男の娘は、男子。俺…………私は、一応女子だから」

「じゃあ『女の娘』?」

「いや、女子は『女の子』でしょ」

「なんで?」


 なんでって聞かれても…………


「とにかく、どうしよう。学校とか……親にも何て説明しよう…………」

「まあなんくるないさー」


 ちょっとイラっとした。だからパンチ。


ポカっ


 軽い音がした。


「ヒロ、力も弱くなったんじゃない?」

「うっさい」

「でもまあなんくるないって」

「他人事かよ。どうすんだよ、彼女も作れないじゃん」


 いや、そこかよ。突っ込んだやつ、表出ろや。結構大事だぞ。


「じゃあ僕がヒロの彼女になるよ」

「はぁ? 咲哉は男の子じゃん」

「だから? 男子と女子とが付き合うんだからおかしくないでしょ?」


 咲哉と付き合う?お……私が?ありえない。


 咲哉はかわいい。でも男だ。付き合うなんてそもそも無理だ




 …………と思ったら自分は女の子になっているので無理じゃありませんでした。


「いやいやいやいや、ないない。私が咲哉とキスとかするの? ないって」

「でも僕、ヒロのこと好きだよ? ヒロは僕のこと嫌い?」

「嫌いって…………」


 それは、友達の好き嫌いじゃないのか?


「僕は、ヒロのこと大好き。友達として……と何が違うか分からないけど、でもすき。すきだよ」


 いっぺんに何回も『すき』と言われて頭が混乱する。咲哉が私のこと?


「僕はヒロとずっと居たい。いつまでもどこまでも。付き合って何するとか分からないけど、でも、ヒロが誰かの所にいっちゃうのは嫌!」


 ちっちゃい頃から一緒で、私の中の咲哉は親友で、だから付き合うとか考えられない。何回か、てか結構ドキッとすることはあったけれど、異性としては見れない。


「私も好きだよ。大好き。咲哉のためならなんだってするし、咲哉のことは絶対守る。でも、異性として付き合うとか考えれない。私の中の私は男で、咲哉も男。ずっと同性だったから今さら異性として意識するとか…………」

「好き同士だったら付き合って良いんじゃない? 性別も問題なくなったし、何がダメなの?」

「いや、私が咲哉のこと恋人に思えないとか…………」

「一緒にいれればいいんじゃない?それで」

「いや、いいの?」

「うん。

    僕はヒロと一緒に居られたらそれだけで幸せだから」


 咲哉の笑顔と言葉に、胸がときめいた。


「だから、僕はヒロと付き合ってヒロの隣にずっと居たい」

「………………付き合うの、良いよ。ずっと隣にいてくれて」

「やたっ! ヒロ大好き!」


 今までの何回もの『大好き』と今の『大好き』は少し違う響きに感じた。


「じゃあヒロ、結婚しよ!」


 そして全くの予想外のお言葉。


「はぁ!? 何言ってんのバカじゃねーの?」

「もー、照れちゃって」

「いやいやいやいや、まだ中学生ですけど?」

「まあなんくるないさー」


 笑いながら無責任に咲哉が言う。咲哉の笑顔を見ていると、案外なんでもなんとかなりそうな気になる。


「いや、なんくるなくないって!」


 日が沈みかけて、ブラインドからオレンジの光が差す病室に、明るい笑い声が満たされる。





    女の娘の俺は男の娘と永遠の愛を誓ったのだった。

いかがでしたでしょうか?

初恋本編を読んでいる方は楽しんでいただけたでしょうか……

ヒロ視点の話はKさんの担当ですので、めちゃくちゃ大変でした

ヒロならどんなことを言うだろう?思うだろう?などなど

楽しんで頂けたら幸いです!

ではまたいつか!



Twitterもやっておりますので覗きに来てみて下さいまし

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