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FILE№864 ラウンド・スライス

連載に切り替えました。進みは遅いと思います。

ニグワルド・レポート


 『要警戒対象 通称“ニグワルド”(命名者エビド)観察及び職務報告』


・観察報告

 ニグワルドは滞りなく職務を遂行している。修復されたとはいえ、かつて無数の世界を滅ぼした怪物が暴走することなく指示に従っている光景はあまりにも疑わしいが、現状重大な危機に発展する様子は見られない。現状、不用心に刺激しないことを推奨する。


・職務報告

 識別番号F618246533321 個別世界名『ファジュド』における報告

 識別番号E3347127449877 個別世界名『地球(通常系列微発展型)』より偶発的転生の行われた転生者・笹塚レンジの暴走行為及び他世界侵略の動向検出、他世界干渉規程違反による処罰を敢行、是を抹殺。


違反抵触項目

  ・無断による世界移動の試み(一部例外あり)

・生命の虐殺及び侵略等を目的とした悪意ある世界移動の試み


笹塚レンジの暴走行為一覧

 ・転生時に付与された特殊技能を用い、各種犯罪行為に及ぶ

 ・特殊技能を用いた恐怖統括により組織を創立、犯罪行為の規模を拡大

 ・総数325の人里を焼き払う(これに大規模都市は含まない)

 ・当人及び組織による殺害人数 7543821人(当人による組織人員の殺害人数含む。これにより組織は崩壊。以後個人による侵略行為を行う)

 ・ファジュド世界内における全国家の転覆及び侵略・支配


笹塚レンジ 所有技能

 ・能力学習

  ・炎系魔法全習得

  ・水系魔法全習得

  ・雷系魔法全習得

  ・風系魔法全習得

・土系魔法全習得

  ・光系魔法全習得

  ・闇系魔法全習得

  ・特殊魔法習得

  ・魔法複合

  ・戦闘術全習得

  ・守護術全習得

  ・支配契約

  ・全能力強化

  ・能力吸収


 下記、当該事項の内容を記す。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ―――――――ファジュドは平和な世界だった。

 多国間での争いはあるものの、それほど大きな被害にはならず、大抵の国家は善き君主に恵まれ、国家間の友好関係が形成されつつあった。


 ―――――――笹塚レンジが現れるまでは。


 笹塚レンジが姿を現したのは、大陸内五大国家と呼ばれる諸国の名君達による友好条約の締結を大々的に公表する式典の真っ只中だった。奴は式典に姿を現すと瞬く間に各国君主たちを殺害し、自身が世界を支配することを宣言した。

 君主を失った兵達は怒りに燃え、奴を取り押さえ断罪しようとしたが、奴は各種魔法を利用してその場を離脱。その際に高位風系魔法で兵達を惨殺した。生き残った兵は70人中一人。兵として復帰できないほどの重傷を負った。

 その後様々な情報提供の下、奴の生まれ育った村を特定。潜伏している可能性を考慮し戦力を整え突入するも奴の姿はなく、村人たちの無残な死体が散乱していた。奴の生家と思わしき住居を訪れたところ、夫婦と思わしき男女とその子供等とみられる遺体を発見。この4体の死体は特に残酷な仕打ちを受けた痕跡がみられた。

 村の調査を行った同時期、奴は自らの配下達と共に無作為に人里を襲撃し始めた。僅かに残った生存者たちの証言によると配下達は首輪を嵌められた者もおり、目が虚ろだった者もいたらしい。また幾つかの人里が焼き払われた後、奴は自らの配下も子供が虫を弄るように殺したことが目撃されている。

 奴に対抗するべく別大陸から派遣された有志を含めた討伐隊が編成されたものの、奴は全て一蹴。やがて各国は疲弊していき、順々に落とされ世界は奴の手に落ちた。



 笹塚レンジは退屈していた。世界を支配し終え、反抗勢力の駆逐をする毎日にも飽きていた。支配した人間達に休ませず作らせた城で、何となく容姿が気に入った女達を侍らせていたが、そう何度も繰り返していては新鮮味が無くなるというものだ。

「そろそろ新しい遊びでも考えるか……」

 各属性の魔法は全て習得した。だが特殊魔法という項目は全習得とはなっていない。しかし習得した魔法もある。時間を最大5分間止めて動くことができる時間停止魔法だ。これを使い暗殺を企てたものを全て退けてきた。とても便利な魔法だ。時間に干渉できる魔法があるのだ。もしかしたら他の世界に移動する魔法があるかもしれない。

「異世界侵略っていうのもありだな……。試してみる価値はあるな」

 レンジは着々と異世界侵略への構想を練り始めていた。

「まずはそのための魔法の習得だな……。そして移動に成功したらいきなり行動を起こさずにその世界の力を確認して習得、期をみて少しずつ落としていく。これでいい。今度は少し慎重に攻め落とそう」

「いや困るな、そうそうぽんぽんと異世界飛ぼうとか、世界観移動とかにも規則はあるんだよ。我が儘な神連中だってちゃ――――――んと守ってるってのにそこん所考えてくれないかねぇ?」

 レンジはゆっくりと視線を前へ向けた。そこには全く見覚えのない男がめんどくさそうに立っていた。

「テメエ……、どこの誰だ?」

 レンジが疑問に思うのも無理はない。男の銀髪はこの世界に転生してから様々な髪色を見てきたから気にならなかったが、男の服装は明らかにこの世界の物ではなく、スーツ等といったレンジ自身が元いた世界の服装に他ならないからだ。

「何?気になる?といっても、こっちには答える義理とかはないんだがな?まあ、ちゃんと異世界から来ているってことは分かっていることはよしとしよう。その程度が分からない馬鹿に付き合いたくはないからな」

 男は軽い挑発を混ぜながら嘗めた態度を取った。笹塚レンジは転生してからここまでなめられた態度は取られたことはなかったが、あくまでも冷静に対応を続ける。

「この城には何人か隷属させた兵を配置して罠も大量に仕掛けたんだが?」

「直接ここに来たから知ったこっちゃねえな。俺が用があるのはお前ただ一人だ、笹塚レンジ」

「俺の名前ぐらいは知ってるか」

「無駄話とかかったるいから率直に言わせてもらうぞ、いいか?」

「別にいいさ、言え」

「お前を処刑する、以上」

「……………………………………」

 場を、沈黙が包んだ。

「クハ、ハハハハハハハハハハハ!!こいつはとんだジョークだ!!テメエが、この世界の支配者たる俺を処刑?笑わせやがる!!」

「おうおう好きなだけ笑え。そんぐらいの自由はくれてやる」

 男の発言に、レンジは声をあげて笑う。男は飄々とした態度でそれを許容する。

「笑わせてくれた礼だ。最高に惨めに殺してやるよ!!」

 レンジは玉座から立ち上がり戦闘態勢を取る。一方男はそんなことを全く気にしないように……否、

「おういいぜ、せいぜい楽しませてくれよ」

 多少期待を交えた言葉を、レンジに放った。






















――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「うぁっ………ぅぅ……」

「おいおいもう少し粘れよ?最高に惨めに殺すんじゃなかったのか?」

 その状況が生まれたのは僅か1分のことだった。レンジは初っ端から最高位の魔法を男に放つものの、男は何事もなかったかのように迫り、シャープペンの芯を折るようにレンジの両腕をへし折った。そして片手でレンジの首を絞め、残った拳でサンドバッグのように殴り続けた。

(何だこいつ……、何で俺の魔法を受けてピンピンしてやがる!?)

「聞こえてるか?もぉしも~し」

 わざとらしく聞く男の声に、レンジの胸中には怒りが込み上げてきていた。光系回復魔法で折れた両腕を修復し、今も自分の首を絞めている男の顔に両腕を向けた。

「喰らいやがれ!!」

 レンジは男に向けてそれぞれの最高位魔法を複合させた複合魔法を放つ。レンジの放った七属性複合魔法は、単一発動時に比べ100倍以上の威力を誇る。それは以前、レンジがファジュド一の山脈に放った時に確認済みだった。

 魔法が放たれたと同時に爆風が発生し、レンジの首を絞めていた手が緩み爆風によって自身が後方に吹き飛ばされた。

「はぁ……、はぁ……、やったか!?」

「いやそれやってないフラグだろ?お約束をやるのは別にいいが、この状況だと自分の首を絞めるだけだぞ?まっ、首を絞められてたのはさっきもだったがな」

 爆風による煙が立ち込める中、耳に届いた言葉にレンジはゾッとした。自身の誇る最高火力をゼロ距離でぶつけたのだ。あの男はレンジを完全に敵として見ていなかった。嘗めきっていたのだ。防御する仕草も警戒する動きも何かに気付いた雰囲気もなかった。山脈ごと消し飛ばす威力を何も対処せずに耐えられるわけがない。

「今のは中々良かったぞ?最高位の魔法同士を複合させて圧倒的な破壊力を生み出すとは大したものだ、関心関心。しかし、屋内で放つものじゃあないな。さて、次はどんなものを見せてくれるのか……」

徐々に晴れていく煙の中、やがて男の姿ははっきり見えるようになった。着用していたスーツは今の魔法で敗れたが、男自身の身体には傷一つなかった。

「馬鹿な!?俺の最強の魔法だぞ!?耐えられるわけがない!!」

「今のが全力?しょっぺえ威力だなおい?俺が今まで受けた攻撃の中で、下から数えた方がいい位しょぼいぞ?」

 自身の最強の魔法が、何の防御策もとらずに耐えられ、侮辱とも取れる評価を受けた。レンジの内では怒りと恐怖が混ざった感情が渦巻き、目の前にいる男をただ殺すことのみを最優先とした。

「テメエぶっ殺す!!」

 各魔法を用い切っ先の鋭い剣を即座に生成、それを手に取り目の前の男に向かい感情のままに前進する。

「いやいや今更即席で作った剣とかで俺に一矢報いることができるとでも思って」

「止まれ!!」

 瞬間、レンジ以外の世界の全てがその動きを止める。先の爆風を逃れた女達も、爆風によって発生した煙も、崩れ落ちていた城の一部も何もかも。男が口を開いた瞬間を狙って時を止めたと同時に、レンジは自身が生成した剣を男の口の中に突き刺す。幾ら体が丈夫な相手でも、体内は脆いというのは当然のことだ。体内まで丈夫な生物等存在しようもない。しかし、レンジの突き刺した剣が何かにあたる感触を得た。

ガンッ。

 同時に、剣に別方向から何かが当たった音がする。

「いひなひへんほふひほなはにふっほふはあな。はは、ひほおひはあわなはっはな」

 何を言ってるのかは分からないが、この男は時間を停止されている中動いた。レンジは未だ時間停止を解除していないにもかかわらず。

 バキンッ!!

男の口の中に突っ込んだ剣が折られた。即席とはいえ、それなりに頑丈に作っていたのにだ。

「ペッ。流石に金属を食うつもりはないな。そういうのはバルの小僧の領分だっての」

 口の中に残っていた剣の破片を吐き出しながら男は文句を呟いた。しかしレンジはそんなことを気にしてはいられなかった。

「テメエ何で時間停止の中動ける!?なんで喉に剣を刺されて生きてられる!?」

「刺さってねえよ、ちょっとオエってなったけどな。よく子供が口の中に指を突っ込むことがあるだろ?あれと同じだ。時間停止に関しては効かねえものだから知ったことじゃねえ」

 唖然とするレンジにゆっくりと男は近付く。レンジにはそれが死神が近付いてくるようにしか思えなかった。

「さて、恐らくとっておきを見せてくれたんだ。なら少しはサービスしないとな」

「な」

 レンジが疑問を口に出すより先に、男の握っていた拳が視認できないスピードでレンジを殴った。瞬間、レンジの視界は無数の線しか映らなくなった。遅れてやってきた痛みに、漸く自分が殴られたことに気付く。しかし同時に発生した熱の熱さに感覚を支配された。

 既に何が起こっているのか分からなくなっていたとき、今度は後頭部の方から衝撃が伝わってきた。そして再び痛みと熱に襲われる。

(痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い!!)

思考までもが痛みと熱さに占拠される中、今度は何かにぶつかるように止められた。

「お帰り~。世界一周……いや二周か?まあいい、どうだった?楽しめたか?」

 既に満身創痍になっているレンジに対し、男は感想を求めるように問い掛けた。当然レンジにそんなことに言葉を返す余力はない。

「おいおいどうした?大量虐殺してきた奴が、たかがパンチと空力加熱でまいるのか?情けねえなあおい?今のでも随分加減したつもりなんだがな」

 レンジにその言葉は届いていなかったが、自身の最強の魔法も時間停止という奥の手も効かず、内部への攻撃も通用しない。この男は何をしても殺せないという絶望を思い知らされる。

「……ぁ………………ぁぁ…………」

「念のため言っておくが、俺はお前みたいなのが出てくるのを予測して転生者とか異世界召喚された奴に対して絶対的な力を持ってる。ゲームとか分かるだろ?あれの特攻特防みたいなもん。だが別にそれがなくてもお前みたいのじゃ一切傷つかねえからな?」

 男が意味の無い説明をしている間、レンジは自身を魔法で回復させていた。どのような手段を用いようと殺す術がない男を前に絶望するが、そこで一つの手段を思い付く。

 レンジの保有する隷属契約は、基本相手の同意を必要とし今まで脅迫等で結ばせてきたが、実は確率ではあるが一方的に結ぶことができる。現状、この男を殺すことはできないが、従えさせれば最強の手駒とすることができる。レンジに他の手段は残っておらず、最早この一手に賭けるしかなかった。

「どうした?何ならあと十周位行ってみるか?まだ反省の色が見えてないからまだ続けるようか」

 既に選択の余地はない。レンジは遂に最後の手段を実行に移した。

「俺に従え!!」

 レンジがそう叫んだ瞬間、男が大きく仰け反った。しかしすぐさま男は体制を持ち直した。

「失敗したか……!」

 失敗したが既に他の手段はなく、即座に繰り返そうとした。だが、

「なぁ……、今、お前……何をしようとした?」

 男が殺意を込めた眼差しに、身動きが取れなくなった。先程までこの男はレンジを虫けらとすら思っていなかったが、今確かにこの男はレンジに対して初めて、明確な殺意を示したのだ。

「俺はなぁ……、洗脳とか隷属とか、そういうのがかなりムカつくんだ。テメエが元いた世界の作品とかで進行上入れた方がいいというのはまだいいさ。だが実際自分に向けられるとどうだ?俺は無性に腹が立つ。怒りはしないが殺意は湧く。何が言いたいのかというと、つまりお前は|より苦しむ選択を選んだ《・・・・・・・・・・・》ってことだ」

確かな殺意を向けたまま、男はゆっくりとレンジに近付く。レンジは蛇に睨まれた蛙のようにその場に立ち尽くしていた。そしてレンジの目の前に立つと、男はレンジの首を左手で絞めるように持ち上げた。

「っぁっぁあぁ……」

「ところでさっきから疑問に思わなかったか?お前はかなり死ぬようなことを既に何度も喰らっているのに、何故まだ生きているのかってなぁ」

 思えばその通りである。始めの方から既に軽く人を殺せるような拳を喰らい続け、真偽が疑わしいが文字通り世界を周回させられその飛行中に発生した超高熱は人など優に焼き殺せるほどだった。これまで守護術を発動する余裕など微塵もなかった。当然のことながらレンジはそんな耐久力など持ち合わせていない。にもかかわらず、ここまで生きていたのは理解できない。

「俺は最初に、お前に対し不死特性を付与した。そうでもしないとお前最後まで持ちそうになかったからな」

「なっ……」

 このとき、レンジは自分が生きていたのではなく生かされていたということを知る。

「まぁそれは兎も角だ、遊びは終わりだ。削り取ってやるよ・・・・・・・・」

「えっ……?」

 レンジが男の発言の意味を理解する前に、男はレンジの身体に右手を突き刺した。

「なっ……」

 身体に手を突き刺されたというのに何故かレンジに痛みはなかった。だが次の瞬間、身体ではない何か・・・・・・・・から、これまでの痛み全てを忘れさせるほどの激痛がレンジを襲った。

「い゛ぎあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」

 身体の何かが壊されたようには思えない。しかしまるで、神経をバイオリンの弦に見立て刃が粗くなった鋸のようなものでこれ以上なく乱暴に弾かれているような感じだった。その痛みは、男がレンジの身体から手を引き抜いた瞬間まで続いた。

「う゛グあ゛ア゛あ゛ぁ゛あ゛・・・・・・」

「第一段階はこれで終了と。おいおいどうした?こんなもんで音をあげんなよ」

「でめ゛え゛…………一体何を……」

「大したことじゃねえよ。単にお前の魂に干渉して、それに触れてお前の持ってた能力を根付いていた部分ごと・・・・・・・・・・削り取っただけだ。まあ神経を引っぺがすみたいな痛みらしいがな。転生者連中はその程度耐えて当然らしいぞ?」

 えげつないことをさらっといいのける男に、レンジは絶句する。

「そんなこと…………、あってたまるかぁ!!」

 先程までと同じように魔法を放とうとするが、魔法が出る気配は微塵もない。

「無駄だ。根だけを引き抜いた場合は残滓が残る場合があるが、その可能性も残さず削り取った。雑草と同じように使い道はないからあとで消し去るがな。俺は失敗などしない。抗う余地なんて残す訳ないだろ」

 頼りにしていたものすら失い、レンジに残ったのは未だに残る痛みとこれから訪れるであろう死への恐怖だけだった。

「ああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

「逃がす訳ないだろ」

すかさず逃げ出そうとしたが、即座に頭を地面に叩きつけられる。

「いやだ!!死にたくない!!やめてくれ!!殺さないでくれ!!頼む!!俺の持ってるもの全部渡すから!!お願いだ!!許してくれええええええ!!!」

 地面に押さえつけられながらもどうにか逃れようと足掻くレンジに、男は一切の感情を乗せることなく告げる。

「お前は、今まで同じように希ってきた奴らを聞く耳持たずに殺してきただろ?自分だけ助かろうなど都合のいい理屈が通るとでも思ったか?」

「今までやってきたことは全部反省する!!二度とこんな真似はしない!!全ての罪も償う!!だから!!」

「不要だ。お前を潰した後、お前がこの世界に転生したという分岐ごと剪定する。この世界にお前がいた痕跡は全て消え失せる。お前が行ってきた全ては無に還る」

「なっ……」

「ではそろそろ終わりにしようか。折角だから、地球系列世界にあったゲームのもので終わらせてやる」

 男がそういい指を鳴らすと、レンジの後方にねじの溝の間にある出っ張った部分を鋭くしたような二つの巨大な柱が、刃をすり合わせるように回転している。その隙間から鎖のようなものが飛び出し、レンジの脚に絡み付いた。

「な、一体何を……!!」

「より苦しめるように不死属性は残してやった。ついでに再生能力も付けたしてな。もしもそれから脱出できるようなら、今回のことは全て水に流してやる。まぁ、その鎖は低級の神連中でも自力じゃ外せないから、無理だと思うが」

 男がそう告げると、足に絡み付いた鎖がレンジをゆっくりと引きずり出す。

「くそっ、外れろ!外れろ!!外れろ!!!外れろ!!!!」

 レンジは必死で足に絡み付く鎖を緩めようとするが、そんな気配は微塵もない。引っ張られる途中で少し前に折られた剣の破片を拾い鎖を千切ろうとしても傷一つ付かない。

「死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない! 死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!」

 最後は引っ張られる方向の逆に全力で這う行為に出たが、引っ張る力の方が強く、速度は全く落ちなかった。

「ああああああああああああああああああ!!!!」

 遂に足が柱に飲み込まれそうになったとき、身体が急に止まった。否、止められた。あの男がレンジの身体を手前で止めていた。

「助けてくれ、頼む!!」

「それじゃあラストチャンスだ、次の質問に答えられたら、特別に助けてやらなくもない」

「何でも答える!!だから早く……!!」

「お前が転生する前、お前が主犯で虐めを行っていた辻悠矢が、飛び降り自殺する前に頭の中で思っていたことを答えろ」

「…………はっ?」

 絶句した。この男はレンジの転生前のことすら把握していた。しかし、レンジにとってさして印象に残っていない相手のこと等、答えられるはずはない。この男はそれを分かった上で質問してきたのだ。

「答えられないな?当然か。それじゃあラストチャンスは終了だ。時間が経ったら不死も再生も自然消滅するから、それまで精々もがけ。……あぁそうだ」

 そう言って男は顔を近付けた。

「多分お前は閻魔の管轄になるだろうから、伝えて置いてくれ。……『ニグワルドがよろしく言ってた』って」

 レンジに向けられた言葉はそれが最後だった。男は手を離し、レンジは柱の間に吸い込まれていった。最初の数秒はレンジの絶叫が響き渡ったが、声帯が潰されたのかすぐに静かになった。

「それじゃ後は神連中にでも任せて退散するか。本日の仕事、終了っと」

 その言葉を最後に、男の姿はその世界から消えた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――      


 ファジュド世界の剪定作業は終了。ニグワルドは他監視・観察対象の確認を行っている。

なお、ニグワルドが業務外に個別世界に移動していることが判明しているが、これといった行動は起こしていない。なお警戒を続ける。

次回 FILE№971 イレイザー・ボンバー


作中内道具(言及なし)

神々のガラクタ箱

各次元の神々が廃棄した道具が投棄されたアイテム。偶に文房具とかが入ってる。


ハイフィックス

高さを固定する道具。元々は異世界に旅行していたとある神が自撮り棒がないから作った道具。後に自撮り棒を買って廃棄された。


練想鉄

金属を連想し生成する道具。具体的なイメージを持つ必要あり。自動で動かせる。金属を自在に操る道具が欲しくて作ったが、そんな道具がなくても金属を操れる能力者が色んな時空にいて、「あれ、これ意味なくね?」と製作者が恥ずかしくなり、自虐心に駆られ廃棄された。



ガラクタ箱内のアイテムは募集してます。投稿していただける方は、感想欄に名称と効果と廃棄理由(適当でもOK)をよろしくお願いします。

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