手を、
「わ、慎さん、やっぱり手が大きい!」
「百合野は、ちょっと強く握っちゃったら簡単に指が折れちゃいそうだ」
「そこまでやわじゃありません」
アトリエでの休憩中、テーブルに置かれた慎さんの手を何気なく見たら目が離せなくなってしまった。――だって、洋服を作り出すあの手は、私を夢中にさせる。色々と。
付き合うまでの私が、知らなかったこと。
不埒な想像はアトリエにはふさわしくないから、頭をぶんぶん振って頭の中から霧散させた。それを見ていた慎さんに笑われてしまったけど。
「どうしたの、百合野」
慎さんの手の施すあれこれを思い出していました、とは言えず、ただ「……手の大きさ、私とどれくらい違うんだろうって」と、最初に頭に浮かんでいた健全なことを口にした。すると。
「ああ、けっこう違うもんだね」
「!」
慎さんが、私の手を取ってぴったりと合わせた。
合わせた指の先が悠々とはみ出す慎さんの手。身長もきっとこのくらいの比率だろう。
ドキドキしながら、思わず驚嘆してしまった。
長いこと、彼を見ていた。けれどまじまじと顔を見つめるのはいけない気がしていて、だから、今まで私が一番視線を注いでいたのは慎さんの手。この手を見ただけで、きっと私は持ち主が誰だかすぐに分かる。たとえ、それ以外のパーツをすべて隠されていたとしても。
互いにぴったりと手を合わせてあんなにはしゃいでいたのに、気付けばしんとしてしまっていた。
一日中布に触れているせいか、乾いている指先をそっと撫でおろす。手のひらに到達する前に、悪さを働いた私の手は慎さんの手に捕えられてしまった。
「慎さん」
名を呼んだら、口付けてくれた。一度だけではなく、小鳥が木の実を啄むように何度も、何度も。
次に呼んだら、もう我慢できないと分かったのでそっと離れた。熱の余韻が、指先にも唇にも宿っていて、じんじんと訴え掛けているのが分かる。
慎さんは「帰ろう」と囁いた。
「帰って、続きを」
元々仕事終わりの一休みだったから、片付けや支度にそう時間はかからない。
お茶に使った道具とカップを手早く洗った。濡れた手を拭くやいなや自分より一回り大きな彼の手に包まれて、家路を急ぐ。
熱は消えぬまま、道を照らす灯りのように私の中に小さく燃え続けていた。
玄関のドアを閉めるともう待ちきれずに、やっと再開の呪文を唱える。
「慎さん、」
17/05/23 一部修正しました。