休憩所での談話(3)
アンナさんに詰め寄っていた男性のうち一人が笑うだけ笑った後にアンナさんに向き直り頭を下げた。
「あの人の言う通り気が動転していたとはいえあなたを詰問してもしょうがないことだった。申し訳ない。できれば許してもらいたい。」
「あの、私達もごめんなさい。あなたが私達を呼び出したわけじゃないのよね?」
15歳に散々文句を言いまくるという図やら今の自分達の状況というものを考えたらしい。ようやくこの部屋の人達はまともな対応になりだした。
「いえ、私はもう大丈夫ですから。理解していただいただけで嬉しいです。さあ、それよりも食事にしましょう。」
アンナさんは15歳とは思えないほどの対処でみんなを宥めていく。ホントなんてできた子なんだ…
その時、俺は気が付いて武に合図を送る。俺と武は頷きあって静かに入ってきた扉へ近付き、俺が構えて武が扉を一気に開けた。
「うわああああああああああああぁぁぁぁぁ!!」「ひゃああああああぁぁぁぁぁぁ!!」
そんな声を上げながら男の子と女の子が転がり込んでくる。
咄嗟に二人をそれぞれ右腕左腕で抱きとめることに成功した俺は二人に話しかける。
「ぼく?お嬢ちゃん?二人とも怪我はないかな?」
と、できるだけ優しく声を掛けると女の子はこちらを見上げて黙っていたがハッとしつつ返事してきた。
「えっと、大丈夫です!勇者様!」
それを聞いた男の子が俺を睨み付けてくる。
「貴様が勇者か!さっそく我が妹に色目を使うとは何と手の早い!下郎が下がれ!妹に触れるな!」
扉が開く音と男の子の大声でアンナさんとその周辺の人達は二人の入室に気付き、アンナさんが駆け寄ってきた。
「王子様、王女様。お二人ともなぜここへ?今は誰も近付いてはならないと言われいるのでは?」
「私は勇者様にお会いしたかったの。伝承でしか伝わってない勇者様がいるって聞いたら我慢できなくて…」
「我は妹の護衛だ。こんな勇者なんぞに妹を捕られてはいかんからな!」
と、俺を睨み付けながら鼻を鳴らしている。
ん、ちと待てや。
「え~と、王子様?私は別に王女様に色目を使ってはいないと思うのですが?それと王女様、私は勇者ではなくただのおっさんです。この度召喚された者の中に勇者はいなかったのですよ。」
それを聞いた王子様はいきり立ち、王女様は小声で何か言っている。
「何!勇者でもない者が我が妹に色目を使い更に触ったのか!無礼者め!」
「勇者様がいない…?あれ?でもこの方達は…?」
「あの真一様、私のことといい、このお二方のことといい、ご迷惑をお掛けして申し訳ありません。」
「いえいえ、アンナさんが謝罪されるようなことでもないですし、気にしないでください。王女様には色目は使ってないですけどね…」
「いや~、確かに王女様もアンナさんも綺麗だし可愛いけれど、ホントに手出したら犯罪者だしね~。」
「女性に縁がなさ過ぎてとうとう守備範囲が凄い範囲まで広がったのかと思ってたけど違ったか。」
アンナさんと俺との会話に武や公彦まで加わって和やかムードになった。
「あ、そろそろ食事ができたみたいですね。」
アンナさんがそう言うと入り口の扉からメイド服に似たような物を着た人や執事のような人達が料理をカートのようなものに載せて次々と運び入れてくる。
彼らは彼らで王子様と王女様の姿に驚いているが、アンナさんに言われてとりあえず料理を机の上においていった。
「では、遅くなってしまいましたがみなさん、どうぞこの世界の料理を堪能してください。食べられそうにないものは無理に食べようとせず残していただいて構いませんので。」
みんな誰がというわけではないが手を合わせ「いただきます。」と言ったり言わなかったりしながら食事が始まる。俺の座る円卓にはなぜか王女様が同席し、俺と武と公彦を観察している。
王子様は「下郎の隣に座るなど…」と、王女様に説教しつつ隣の王女様の背後に椅子を持ってきて自分の席としていた。
そのまま王子様と王女様は放っておいて俺と武と公彦三人で食事をしつつ会話をする。
「公彦、お前もう大丈夫なのか?」
「うん?何が?」
「しらばっくれるなよ。お前の家庭事情くらい俺達でもわかるぞ?家族の元へ帰れるかどうかを気にしてるんだろ?」
「やっぱり二人にはわかっちゃうか。そうだね。確かに50年かかると聞いたときは頭が真っ白だったけど、どうしようもないからね。今はこれからのこと考えないと…」
俺と公彦が話をしていると王子様がそれを聞いて鼻で笑った。
「『勇者の帰還』か。」
気になった俺は聞いてみた。
「王子様はどんな伝承かご存知で?」
「当たり前だ。我は王族だからな。幼い頃よりご先祖様の事は勉強させられる。」
王子様のこの発言で俺も武も公彦も気付いた。王族は勇者の末裔である、と。
「…なぜお前達がここにいるのか問わねばならないが…。とにかく王子の言うとおりワシら王族はかつての勇者の子孫なのだよ。」
その声を聞いた王子様は硬直し、王女様は喜んでいる。
「ふむ、ジュリウスとの話し合いで決めたことを伝えに来たのだがワシも食事を取りながら話をするとしよう。」
と、いつの間にか現れた王様がドカリと俺の席の隣に椅子を持ってきて着席し、一緒に入って来ていたコートを着た人に食事を持ってくるよう命令した。
「さて、どこから話をするかな。」
や、とりあえず私の隣ってのはやめてください。




