一つの決着(1)
最前線だというにも関わらず各軍の指揮官達が勢揃いし雌雄を決し始めた。
それは人族の魔王軍と神族の激突のみならず他の軍でもそうだった。
---------神族vs魔族----------
真一が見かけた一番戦闘が激しい場所。
そこではヘラとロキが戦闘を繰り広げていた。
戦闘前には草むらが一面に広がり見渡す限り周辺の地形が見渡すことができて、風が吹くとサワサワと爽やかな気持ちになれるようなそんな気持ちのいい場所だったのだが、そんな場所は… 激しい爆発と旋風に吹き飛ばされた。
「おい、いつまでちんたら逃げ回るつもりだ?そろそろ決着つけねーか?」
「フン。その余裕いつまで続くか見物じゃな!」
ロキが炎や氷の魔法を左右の手に握りしめ凄まじい速度でヘラへと迫り殴ろうとし、ヘラは召喚により数多の金属を併せた盾を使いそれを凌ぎ同時に剣をも造り出し反撃する。
戦闘開始直後はそれぞれの部下達も参戦していたのだが、あまりにもヘラとロキが強すぎて部下達は逆に守られるだけで足を引っ張ってしまうことからこの頃には部下達はそれぞれヘラとロキを遠巻きに囲み、大将同士の一騎討ちを見守る形となっていた。
一見するとロキの猛攻が続いているように見えるのだが、ヘラはそれをいなしながらあるはずの援軍を待っていた。
(どういうことじゃ?既に召喚隊が古代勇者の仲間を召喚しているはずなのにいっこうにこちらへその者が来ぬ… いかによっても遅すぎる…)
そう戦闘中にも関わらず冷静にヘラはハデスを待っていたのだ。
しかし、ここでヘラの耳にとんでもない発言が聞こえてくる。
「神族が召喚した冥府の王・ハデスは既に我が主たる魔王・真一様に敗れ去った!貴様ら神族こそ頼るべき者がいないということを思い知った上でかかってこい!!」
少し遠くの方から聞こえた声。
この一言でヘラは動揺してしまった。
(バカな!古代勇者の仲間じゃぞ!?召喚隊5000人分の強さはもっていたはず… そんな者を倒せる者がいあるなぞ聞いたことがない!!)
その動揺が隙を生み、顔の強張りはロキに見透かされる。
ロキはニヤっと笑い話しかける。
「おいおい、俺と戦闘中だってのに何をそんなに気をとられてるんだよ。まあ、どうせ古代勇者の仲間っていうのと一緒になって俺を倒そうとしてたのが予定が狂って焦ってます… そんなところか?」
動揺を悟られたことが悔しいのか、自分の計画が読まれたことが悔しいのか自分でもわからないが自然と眉間に皺を寄せるようなしかめ面になりながらヘラは反論した。
「別に… そんな者などいなくてもそなたくらい妾一人で十分じゃ!」
「へえ?言ってくれるじゃないか。じゃあ、その力を俺に見せてくれよ!!」
ロキは左右の炎と氷を一団と大きくするとヘラの左側から回り込むように、円を描くように走りだした。
その速度は部下達には見えないほどの速度でヘラでもなんとか見えるかという速度だ。
「クッ!そんな単純なやり方など妾には通用せんぞ!」
「じゃあ、ちゃんと受けろよ?」
円を描きながらヘラの隙を伺っていたロキがその隙へ向かって走り込み…ヘラを襲う。
「クッ… この怪力バカ!妾みたいな、か弱い淑女に向かってなんという蛮行を…!」
口では苦しそうにしつつ、ヘラは召喚した盾でロキの力を受け流し、態勢を崩したロキへ向かって剣を振り上げた。
「そういう猪口才なことをやりながら命を狙うような奴はか弱いなんて言わねえんじゃねえか!?」
対するロキは崩された態勢から前転宙返りしつつ、振り下ろされてきた剣の腹を蹴り飛ばし避けた。
そんな対応をされたヘラは、蹴られた剣をなんとか構え直しながらとても悔しそうに顔を歪ませる。
「まったく!いつもいつもなんですの!?その尋常ではありえない反応は!?いい加減妾に討たれるがよい!」
剣を蹴り飛ばしつつ一回転したロキは荒れた土の上に着地し、改めてヘラへと向き直った。
「今回の戦闘といい、今までの戦闘といい… お前はやっぱり俺の天敵だな!でも… 嬉しいどころか腹が立つ!」
「その意見だけは妾も同意じゃな!!」
「そこで意見が合うなら逆に気が合うっていう意見もあるんだが、それについては?」
ヘラもロキも神族・魔族のNo.1やNo.2であり二人ともそれ相応の実力を有している。
そんな二人が声を掛けられるまでその存在に気が付かなかった。
だが、即座に二人はその声に反論した。
「「冗談じゃねえ(ではない)!」」
「…ほれ、息ぴったりだぞ?」
声を掛けたのは戦闘を一番激しく繰り広げている者達を倒そうと駆けつけた真一だった。
「真一!お前は俺の味方だろ!?なんでそんなに意地悪言うんだよ!」
ヘラと対峙し、構えを解かないまま顔だけ真一の方へ向け頬を膨らませるロキと真一を見て顔を蒼ざめさせるヘラ。次の瞬間、ロキの気が緩んだのを見て取ったヘラは瞬時に味方の軍へと駆け出した。
「ロキ!決着はまた次へ持ち越しじゃ!」
「あっ!!てめえ、待ちやがれ!」
ロキが追いかけようとする中、真一が次いで声を掛けた。
「そうか。一番戦闘が激しいと思ったらロキだったんだな。さすが魔皇帝。」
うんうんと頷く真一に対して、ロキが照れて顔を赤くして俯き、体の後ろで両手を組んでモジモジとしていたが次の瞬間ロキは正気に戻った。
「あっ!違う!今はヘラ追わないと!!」
そう思いヘラが駆けた方を向いたが既にヘラは天使族と人族の魔王軍の激突している地点へと走り去っていた。
「ああああ… うぅ~… 真一!ヘラ逃がしちゃったじゃないか!」
駄々をこねる様に頬を膨らませ真一に向き直るロキは子供のようだ。
そんなロキに真一は笑いかける。
「うちの軍の方へ行ったから放っておいたんだよ。まあ、あっちはもう少しで総仕上げのはずだから大丈夫だよ。ほら、ロキも一度軍へ戻って率いてあっち行こうぜ。行くところはいっしょだからここでしばらく待ってるからさ。」
それを聞いてロキは明るい顔をして喜んだ。
「そ、そっか。いっしょにいてくれるのか!ヘラが率いてた神族は他のやつに任せて俺は真一とヘラを追うことにするよ!ちょっと待ってて!」
凄い速さで自軍へと走り去ったロキを見送りながら真一は一人ごちる。
「まだあんなに元気が残ってるのか… わっか~… おっさんにはあんな元気ないわ…」
その若いロキに好意を持たれてるとは露知らず、真一はその場に立ち尽くしながら天へ顔を向けて嘆息した。




