休憩所での談話(1)
しばらく黙って最後尾を付いて行っていた俺達だが、俺と武と公彦は三人ほとんど同時に少し後ろから付いてくる気配に気付く。三人全員ではないがそれぞれなんだかの心得があってそれには気付いたがお互い目線を交わすだけで止まることなく他の人達の後に付いて行く。ただし、何があっても対応できるように気は置いておく。特に何をしてくるわけでもなさそうなのでそのまま放っておいているとそのまま行き先に到着したようでみんなで部屋へと入っていく。
入った部屋には何人かで座れるような木の円卓がいくつか並んでいて椅子もある。
ちょっとしたバーのような場所だが、窓のような開ける場所があり外にベランダの部分が付いてあって出られるようだ。
「ここは王族も仕える者達もみんなが休憩する場所として使っているところです。皆様にはここで歓談してもらいつつ食事をとり、待っていただきたいと思います。何か質問などはありますか?」
「質問していいならたくさん質問することがあるんですが、アンナさんこそ大丈夫ですか?」
と、思わず俺が聞くとニッコリと微笑みながらアンナさんが言う。
「私に答えられることでしたらいくらでも質問していただいていいですよ。」
それを聞いて、周りの人達もそれぞれのグループで顔を見合わせている。
「お言葉に甘えてゆっくりさせてもらいながら質問しますね。」
と言って俺は自分から座る。こういうとき、誰かが行動するとみんな真似して行動する。
案の定、みんなもグループごとに次々と着席していった。
「では、まず最初に私から質問です。さきほどジュリウスさんが言っていましたが『イングリード王国』と言っていて、王様は人族・魔族・神族の名前を出していました。私達の住んでいた場所では魔族・神族などは存在していなかったのでその辺りの関係やこの王国の立ち位置、他の国との関係などを教えてもらえたらと思うんですが。」
「いや、真一君ちょっと待った。多分ほとんどの人が違うことが聞きたいからそっちから聞いてもいいかな?」
「あ、うん、いいよ。」
「僕達ってすぐ元の世界に戻してもらえるんですか?」
「あ、なるほど、確かにみんなそう思ってるか。」
俺が公彦の言う言葉に相槌を打っているとアンナさんが答えてくれた。
「伝承通りなら戻れると思います。伝承通りならという言い方で申し訳ございませんが、ここ何百年と召喚されたことがなかったので正確ではないのです。昔に召喚があった時の出来事で記録されたことの中に召喚があり、それによると…といった言い方になってしまいます。」
アンナさんがそういうとみんなが一斉にざわめき出す。
「そんな!困る!」「戻して!」
などと女性陣が言っていたり、
「うお!召喚とかマジゲームの世界じゃん!」「なんで俺が勇者じゃねーかな~!」
と、男子学生が叫んでたりする。さすがにノリいいな…
少し年齢が上の男性になると
「そんなバカな…」「これは夢だ。現実であってたまるもんか…」
…意識が違う場所にいっている。
ちなみに俺達三人の中で一番ダメージを受けてるのは公彦だろう。
なにせ奥さん・娘・息子と養っているのだから。
しかも、娘は16歳。息子も13歳と一番お金のかかる時期なのでなおさらだ。
公彦の顔をみるとやや青ざめているが極めて冷静に追加して質問してる。
「その伝承によると大体でいいんですが、どのくらいで戻れてるのでしょう?」
その質問が聞こえたようで辺りはまた再度静かになった。
そんな中アンナさんも答えてくれた。
「書物通りなら50年後とあります。」
再度ざわめきだし、ヒスを起こし始めていた女性や混乱した男性達みんながアンナさんに詰め寄って文句を言い始めている。気持ちはわからないでもないが…と思っていたら武がニヤニヤとこっちを見ている。どうやら俺の顔に気持ちが表れているらしい。付き合い長いし、仲はいいんだけど、いいんだけど!こういう時ってなんだかな~…。まあ、このままにしておけないししょうがないか…。
「じゃかしぃ!おどれら静かにせんかい!」
声を張り上げた俺に対してその部屋にいる全員が俺を見る。
うん、やっぱり気持ちはあまりよくないわ…。こんなんで注目されたくないなぁ~。のんびりひっそりと引きこもっていたい面倒臭がりな中年なのに…。あ~、もうやだわ~…。




