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召喚されし者達  作者: カール・グラッセ
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追撃戦

落石により甚大な被害を与えられた魔族軍はパニックに陥った。

両側の山沿いから魔族軍は中央へ集まるように移動するがそこへ矢の雨が降る。死傷者はたちどころに増えていった。


「何をしている!こんな岩が人族に落とせるわけがない!騙されるな、偶然に決まっている!ひるまず進め!!」


ここに於いてスウェイは後方の方から叫び命令を下す。


「よし、他の奴らが戦っている隙に俺達は逃げるのだ!ゴホン、いや後ろへ下がって態勢を整えるのだ!」


前線は戦わせ、自分自身は安全なところへ…

これが既に主流となっているこの時代の戦争のありきたりな形だった。

スウェイの命令を聞いた魔族軍の兵士達は舌打ちする者、唾を吐く者。さまざまな形でスウェイを見下す。そして思いを馳せる。こんなはずじゃなかった。自分の人生はこうありたかったのに、なぜこんなことに…と。そして、唐突に現実に引き戻される。それは『人族の魔王』軍からの歓声によってだ。

魔族軍の後方部隊はここに奇妙なものを見た。

2、3000の歩兵が2万5000の歩兵と1万の騎馬隊、そして5000の空族を追いかけるという奇妙な光景。


(数は圧倒的だったはずなのになぜ立場が逆になっているのだろうか…)


そう思っていると前線の兵達が凄い勢いと形相で逃げてきている。

と、同時に『人族の魔王』軍から声が聞こえてくる。


「魔族軍の諸君、君達はよく戦った!降伏する者は討たない。武器を捨てて投降しろ!投降の意思のある者は猫又族の背伸びのように地面へ伏し、両腕を伸ばし、両手の手の平を天へと向けてそのままでいろ。」


その声を聞いた魔族軍は少しずつだが降伏していく。未知の魔王と戦うストレスや恐怖、そして味方の指揮官に対する憎悪とやる気の喪失。彼らは心身ともに疲れてしまったのだった。だが、それも一部の話。大部分の者達はまだ諦めていなかった。


(降伏したら何をされるかわからない。)


そう思った彼らは一目散に逃げることを念頭において脇目も振らずに森の中へと撤退していく。

対して『人族の魔王』軍は悠然と追いかけた。

走ることなく、慌てることなく、降伏する者に対してぞんざいな扱いをせず対応しつつ森へ迫る。

実はこの頃既に魔族の大将たるスウェイは真一当人に捕まっていた。


「真一様、こいつは間違いなくスウェイ・ルシールです。」


「え、本物?」


「はい。」


「…なんで総大将が一人でノコノコ走って逃げてるんだ?」


「わかりませんが、これでこの戦争は私達の勝利は揺ぎ無いものとなりました。おめでとうございます!」


「気になることはまだ色々ある。油断するな。」


「はい、すいません!」


「よし、みんな。敵の総大将は捕まえたが… まだ敵の部隊の大部分はこの森を通過して逃げ出そうとしている状態だ。教えた通り動いて、奴らに教えてやれ。俺達に戦争を仕掛けた末路を、そして恐怖を植えつけてやれ!二度とこの地へ来る気がないくらい記憶に刻み込むんだ!」


「「「はっ!!!」」」


「よし、いけ!!」


そういうと猫又族は次々と出発していく。そこは本来暗く静かで何も見えない場所。だが、イース達からすると…絶好の狩場だった。撤退のため必死に逃げる魔族軍、だが視界の悪い状態で罠が発動し被害が増える。その罠も真一が以前の世界で知っている軍隊式の罠とイースの知っている罠を併せた完成度の高い物が用意され戦わずして魔族軍の被害は加速度的に増えていった。

この時、無事に脱出し魔族領へと逃げ延びた者の一人はこう言ったという。


「罠だけでそこまで被害受けないだろうってよく知らない奴は言うけどな。昼間は油を撒いた森に火を付けられ、夜に走って逃げようとすると突然音も無く隣の奴の首が飛んだり、音も無く姿が消えてたり、枝の周辺を通過しようとしたら木の杭が胸に刺さったりする。そんな光景を見て同じことを言ってみろって言いたいね。少なくとも俺はもう二度とあんな光景は見たくない。というよりもう一度同じ状況になって次も生き残るなんて俺は自信がない。死にたくない。だから俺は『人族の魔王』軍とは戦わない。絶対にだ。」


大森林南側で降伏した者、討ち死にした者、そして森の中での死傷者や捕虜。

そういった魔族の者達を数えると1万2000人ほどであった。

そして、森を北側へと抜けていった魔族軍の者達は…


「よし、魔族軍の者達が撤退してるな。全騎突撃!ケンタウロス隊はユーシアの指示を仰げ!」


武が率いる騎馬隊と


「我が隊は主に玉を投げつけ火を付ける。接近しすぎないように、そして味方を巻き込まないよう気を付けろ。いくぞ!」


ケンタウロス隊のユーシアに追撃を受けていた。

ただし、両部隊とも真一からくどいほど言われていることがある。


「絶対、ぜ~~~~~~ったい、敵部隊の退路を完全には遮断するな!」


ということである。


「いくら頑張って甚大な被害を与え、相手が逃げているからと言ってもお前達より圧倒的に多い人数だ。それが逃げる道塞がれて窮鼠猫を噛むってことになってみろ、お前ら壊滅するぞ?」


(ホント、あいつってなんでこんな変なところで役に立つ知識知ってるかね。)


ただし、追撃するには特に何も注意してこなかったので武は追いに追おうと思っている。


「しかし…」


ぽつりと口から出た言葉に対してユーシアが反応した。


「武様、どうかされましたか?」


「いや、なんでもない。気にしないでくれ。」


「はあ、わかりました。」


(…あいつ、ホントこれからどうすんだか… こっちの世界で成り上がって尚且つ成功収めてるぞ。)


「えっと、クリストフだっけか?矢、撃つだけ撃ったら一回突撃するぞ。」


「わかりました!」


「…これぜってー 俺の役でもねーし、キャラじゃねーよ… 酒1本じゃ割りにあわねー 最悪だわ…」


武はうなだれた。



-----三日後-----


『人族の魔王』軍と魔族軍の衝突の結果

『人族の魔王』軍の被害:死者0。重軽傷者800人。

魔族軍の被害:死者6000人。重軽傷者1万人。降伏者1万5000人。総大将スウェイ・ルシール捕縛。


世界の誰が見ても『人族の魔王』軍の圧倒的勝利であった。


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