ボルボット大森林(3)
しばらくして、真一が作った陣の北側出口付近にて両軍の巨人族が戦闘を繰り広げる。
だが、そこでもまた『人族の魔王』軍は魔王軍の予想を覆し粘りに粘っていた。
「相手は少数なのだ!あの程度の人数をなぜ倒しきらんのだ!!いけ!いくのだ!!罠なんぞ落ちた奴の上から他の奴が移動すれば上の者は行けるだろう!なぜ行かん!」
軍後方から叫び、味方をなじり、平気で味方に犠牲を強いるスウェイは敵よりも味方から敵視されていた。
にも関わらずそういうことに気付かないで血走った目を『人族の魔王』軍へ向け、叫び続ける。
対して、『人族の魔王』軍の方はかなり余裕があった。
真一が前線の矢が届く辺りまで出てきて指揮を取っていることもあったが、真一は声を違う方へ出していた。
「おら、お前らこんなところで寝るなよ~?死ぬぞ~?」
「魔王様、なんでこんな最前線に!危ないから下がってください!」
「お前ら最前線いるのになんで俺はダメなわけ?大丈夫だよ。伊達にこの年まで生きてきたわけじゃねーから。それより、怪我してるんなら交代しろ。無理してこんなところで死んだらどうなると思ってんだ?家族や恋人が泣くぞ?ほれ、下がれ下がれ。」
怪我した兵士は問答無用の力ずくで下がらせる。
前線を維持できる可能な限り少なめの兵力で前線を支え、さらに時間毎に交代して交代した者達は矢や魔法が飛んでこない場所で休み傷を癒す。いわゆる、ローテーションをここで組ませていた。
そのため両軍の兵士の数は差があれども士気の差は激しく、『人族の魔王』側が優勢だった。
「が、さすがにこう戦争が長引いてくるとそろそろ疲労も蓄積されてきてるしなぁ… そろそろ頃合か。」
真一が部下の一人を呼んで伝言を伝える。
部下はすぐ様走り去り、真一自身も行動を開始した。
-----魔王軍中央テント内-----
「何?『人族の魔王』軍が後退しているだと?罠ではないのか?」
「いえ、それが森の反対側から煙が上がっていて相手の軍内から『裏切り者』などという言葉が聞こえてきてたので我が軍との戦争が嫌になり向こう側の軍が瓦解し始めてるのかと思いまして…。判断を仰ごうかと思い報告に参りました。」
「ふむ… 敵軍の様子を見ながら少しずつ前線を押してみるのだ。罠があれば我々を引き込もうとしてくるはずだ。」
「わかりました!」
こうして魔族軍は『人族の魔王』軍を森の北側から森の中へと追いやるように動き始めた。
------戦争最前線付近-------
「真一様、魔族軍が徐々にこちらを押し込めてきます。どうなさいますか?」
「ふむ、カーネルに伝言。弱めに前線を押し返し、異変と思うことが起こったらじりじりと前線を下げ、味方の撤退が森の中へと進んでいたら前線を放棄し巨人族も引け、と。」
「わかりました!」
「さて… 異変ってどんなことにしようかな… 考えてもなかったわ… う~~~~ん…」
そこからしばらく考えていると魔族軍から矢が飛んできて真一の顔の横を通って地面に突き刺さった。
「あ、これにしよう。ワー、ヤガコンナトコロマデトンデクルナンテナンテオソロシイ。ニゲロー。」
大声で台詞を棒読みし、周辺の兵士達に声を掛けて撤退を指示した真一は真っ先に森の入口へと撤退していく。そして、魔族の前線から見えない位置に来るとしゃがみ込み最前線の方を向いて様子見を始めた。
「こんな適当な演技に引っかかってくれたら嬉しいんだけどなぁ~… ダメかな?」
そう周りで同じように潜んで様子見している兵士に声を掛ける。
声を掛けられた兵士達は思わず苦笑した。とても、戦争中にやるようなやり取りじゃない。
一方その頃…
「スウェイ様、『人族の魔王』なる者が最前線にて矢に驚き怖がり、叫びながら森の中へと撤退したそうです!」
「…相手の前線兵士は?」
「押し込めようとしていたこちらの前線を押し返し一進一退の状態だったらしいですが、魔王の撤退により最初は維持していた前線も放棄して急いで森の中へと撤退した模様。いかがなさいますか?」
「よし!『人族の魔王』とやらは少数で多数を相手にする知恵は持ち合わせていたが勇気はなかったのだろう。瓦解したとみなす!この機会に奴らの軍を追い散らし、できれば魔王を捕まえろ!できなければ全軍相手の本拠地であるクウェイを目指せ!勝ち戦だ!!」
そう判断したスウェイは部下達に命令を下してすぐさま追い討ちのため準備を始めた。
「…フフフ、リリィ様お待ちください。今こそ手柄をこの手にしてあなたを我が妻へ迎えてみせます!!その後は… ククク…」
部下にも自分の家族にも誰にも見せたことが無い欲望にまみれた顔をそこに表し、一瞬下卑た笑いをするとすぐさま命令を下す。
「誰か!誰か俺の馬を持って来い!俺も出るぞ!!」
こうして魔族軍は森の中へと撤退した『人族の魔王』軍を全軍で追いかけ始めた。
次くらいで大森林戦を書き終える予定であります。




