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召喚されし者達  作者: カール・グラッセ
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戦争準備(2)

みんなからダメだしを喰らった俺は少し凹みながら館へ戻った。

気を取り直してボッシュに命令を下す。


「ボッシュ。諜報部隊のみんなは?」


「準備中です。出来次第出発の予定ですが?」


「出発する前に教えてくれ。」


「わかりました。」


「それと、ロキシードのレオナルド王へ手紙を書くので誰か退避ついでに届けてもらえる者を探しておいてくれ。」


「はい。」


「レディ達はみんな自分達の荷物をまとめておいてくれ。念のためを考えて、だ。異論は認めんぞ?武と公彦はそれぞれ頼みごとがあるからついてきて。」


不満を言い出しているレディ達はそのままにして武と公彦を連れて自室に入る。


「実はさ、武には騎馬隊率いてもらいたい。」


「お前、遊びに来てる連れまで参戦させるのかよ。」


「立ってる者は親でも使えってのが俺の家の家訓だったぞ?」


「じゃあ、お前は婚約者の子達も参加させるんだな?」


「させるわけがない。させたら俺が心配で気が変になりそうだわ。」


「…ホント、お前婚約者にベタベタになってるな… 以前のお前はどこにいった!」


俺はあたりを見回して武に言った。


「…あんな可愛い子達が戦場とか怖すぎる。怪我でもしたらと考えると… 俺が怪我するほうがよっぽど楽だわ。」


「…わかった。俺が悪かった。ご馳走様でした。だからお前はそろそろ元に戻れ。オーケー?」


「ゴホン、とりあえず武、お前には騎馬隊の隊長任せる。後でクリストフを正式に紹介するから色々教えてやってくれ。」


「お前、俺に何を期待してるからってそんな教え役を俺にさせようとしてるんだ…?」


「元の世界でさんざん警察を翻弄して弄んだと言われるお前の手腕を伝授してやってくれってことだ。」


「…お前、それこそ何十年も前の話じゃん!やめろよな~…」


「とにかく頼むわ。公彦、悪いけど戦争開始までうちの近接部隊の訓練見てくれるか?全く訓練しないよりかはマシだと思うから。それと、クオにも剣道を教えてやって。多分、あの子は真っ直ぐな性格だから剣道が合うと思う。」


「うん、いいよ~。」


その後2人と簡単な打ち合わせをした俺は2人が部屋から出た後、レオナルド王へと手紙を書く。

今回の戦争のきっかけから戦争をすることになったこと。戦争になったらなったでクウェイからオリオーンまでの周辺が戦闘領域になるので迷惑をかけることになるお詫びだとか。いざとなったらレディ達を退避させるのでその時は受け入れてもらうようにお願いなどしたためることはいくらでもあった。

全てを書き留め、封筒にしまい込むのと同時くらいにドアがノックされる。


「真一様、諜報部隊が出撃するようです。」


「わかった。」


すぐさま部屋を出て諜報部隊が待っているところへ行く。


「諜報部隊の方々、この任務を引き受けてくれたことを俺は心から感謝する。出発前にケンタウロス族、狗族、両族の方の中から代表者を1人決めていただきたい。」


そういうとケンタウロス族から進み出て来る人が1人。狗族からは…ロンが出てきた。


「ケンタウロス族のユーシアという。」


「狗族のロンです…って俺はわかりますね。」


「まさかお前が諜報に立候補するとはな…」


「魔王様のお陰で家族は助けられたし、生活も落ち着きました。恩返しをするならこんな時でないとできそうにないですからね。」


みんなを見渡すと狗族だけでなくケンタウロス族も頷いている。


「気にしなくていいのに…。大体どのくらいの日数がかかりそうかな?」


ユーシアとロンが目配せをして小声で話をする。


「おおよそだが、3週間だな。」


「なるほど。こちらはこちらで他に準備できることはしておくから無理しない程度に戻ってきてくれ。」


「わかった。」「わかりました。」


「これはとっておきだ。ほれっ」


俺は小瓶に入った果実酒を投げる。


「俺の特製の酒だ。人数分あるから景気付けに飲んで行け。」


「「「おお!!」」」


こうして俺は諜報部隊を送り出し、さらなる準備に取り掛かる。


「ボッシュ。俺はこれから工房に篭る。諜報部隊が戻ったら教えてくれ。」


「わかりました。」


俺にしかできない準備…

武器工房で赤味掛かった鉄を熱し、叩き、伸ばし、油に漬け、火をつけ…、繰り返す

戦争までできるのは1~2本。それでもないよりは…と思い造り上げる。

俺はこの間、工房から出なかった。寝食を全て工房で摂り鍛冶に取り掛かる。

正直、時間がなくぎりぎりだからだ。

だが、篭ったお陰でなんとか戦争までに鍛冶が間に合い、出来上がった物を武器の形にしてさっそく騎馬隊と訓練をしている武へと持っていく。


「よっ!やってんな。」


「よお、久しぶりだな。大将が外に出ないで工房に篭ってるってどんな軍だよ。」


「お前に武器造ってたのにそんな言い草はねーだろ。ほれっ」


「わっ!バカ!刃物投げんな!!何だこれ?」


「ルーン文字刻んである槍だよ。魔力込めてみな。穂先に火の力が篭って突いた物を燃やせるぞ。」


「お~。なんか格好いいな。サンキュー!」


「で、公彦はどこよ?」


「あいつなら今クオと訓練場じゃねーか?」


「サンキュー。公彦にも造ったから持って行ってくるわ。」


「おう。」


やり取りを終えた俺は訓練場へと歩いて行くと途中でボッシュと出会った。


「真一様、工房から出てたんですね。先ほど諜報部隊が戻ってきましたよ。」


「そっか。先に公彦に武器渡すからすぐ行く。公開食堂に諜報部隊を集めて休んでもらっててくれ。飲食は奮発してあげろよ?」


「わかりました。」


ボッシュに指示を出して再度訓練場へと歩き入っていく。

ちょうど公彦とクオが1試合終わったようでお互いに距離を取ったところだった。

そこで俺は駆け寄り手に持っていた日本刀で公彦に切りかかった。

公彦はすぐ反応して身体を少し下げながら腰に差していた木刀を取り、正眼に構えてくる。

さすがに堂に入った構えだ。高橋よりも落ち着いたその風貌に今は頼もしさを覚えて思わずフッと笑った。


「真一君、いきなり危ないよ。でも、工房から出たんだね。久しぶり。」


「悪い悪い。でも、さすがだな。もう剣聖って呼んでいいんじゃね?」


「やめてよ、恥ずかしい。30年くらいやっててまだこれくらいだから褒められるほどじゃないよ。」


「俺にしてみたら十分だと思うけどな。それより、これ。公彦使って。お前に造った。」


「え!本当!?うわ~。嬉しいな~。ありがとう!前の世界でも本物なんて何度かしか触ったことなかったからね。うわ~。」


「俺も趣味で造り始めたけどこんなに頻繁に鍛冶なんてできてなかったから何度かしか触ったことないよ。」


「え、そうなの?もっと頻繁に造ってるかと思ってたのに。」


「前の世界での日本刀って原材料になる玉鋼が高いし、取れる所が日本で1箇所しかなかったからな。滅多に造れるもんでもなかったんだよ。」


「へ~。そうだったんだ。とにかくありがとう~!」


「クオ。こっちに来い。お前にはこれを造った。」


近寄ってきたクオに赤鉄の脇差を1本渡す。時間がなかったのでできたのがギリギリ3本だったのだ。

クオは嬉しそうに近寄ってきて俺から脇差を受け取り繁々とそれを眺めると俺に言ってきた。


「は、はい!真一様、お久しぶりです!僕はこれをもらって嬉しいですけど、ナターシャやセシリー達はとても怒ってましたよ?」


俺は自分の顔が引きつるのを感じる。

俺が工房に寝泊りすることに対して婚約者達はいい顔しなかった。

それどころかもう少しで婚約者達まで工房に寝泊りしそうな勢いだったのを何とか断ったくらいだ。

第三者のクオが怒っていたということはかなりご立腹なのだろう。

後でどれだけ機嫌を取らなければならないかと考えると顔が引きつるというものだ…


「とにかく、それも戦争に勝てた場合の問題だ。諜報部隊が戻ってきたらしい。2人とも話を聞きにいこう。」


「うん。」「はい!」


こうして俺達は連れ立って公開食堂へと向かった。

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