戦闘態勢
王城の入り口は既に多くの兵士達がごった返しになっていた。
王城のテラスにはレオナルド様、ジャック王子、レディ王女と三人が並んでいて、レオナルド様が少し前に出る。
「みな、夜も更けたが敵が襲ってきた。突然のことで情報収集を行っているが未だ敵の規模はわかっていない。わかっているのは敵が今現在南の山から真っ直ぐ北上し、サンリーク平原を移動中ということだ。少なくともあと2~3日でこの王都まで到着する。みなの生活を守るため、そなたらの力をワシに貸して欲しい!」
「「「「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」」
レオナルド様の呼びかけに雄雄しく応える兵士達。そんな兵士達の真っ只中で俺はいまだに周辺の地図の詳細までは覚えていないのですぐさま地図を広げ、アンナさんに教えてもらう。
どうやら敵の部隊は既に近くまでいて兵士でもない一般民からも募兵しないと敵の部隊と戦うには兵士が足りないらしい。
武と公彦も地図を一緒に見ながらつぶやいた。
「ふ~ん。状況としてはよくねーな。」
「相手の数や強さにもよるよね。」
そんなことを話していたら辺りの兵士達の話し声も聞こえてくる。
「おい、どうやら今回の敵の部隊って魔王がいるらしいぞ…」「いや、なんでも…」「いや、俺が聞いた話によると…」
みんなどうやら帰宅するようで住宅外へとみんな移動している。
「情報が飛び交ってるな…。こんなんじゃどれが正しい情報だかわかりゃしないぞ。アンナさん、こういうときはみんなどうしてるのかな?」
「私は情報を集めたり正しいかどうか確認したり準備などを行いつつジュリウス様と行動してますね。一般の兵士の方達は戦闘に参加する人だけ城の衛兵に伝えて自分達の準備をそれぞれ進めていきます。次に鐘の音が鳴るのが3時間後で次に鳴ったとき、参加する方は街の敵のいる方角の門付近で集まります。そこから出陣ですね。」
「なるほど、これから忙しくなるのにご丁寧にありがとうございました。」
「いえいえ、それでは私はこれから私自身の支度など整えないといけないので…。あの、また戻ってこれたら…。いえ、何でもありません…。では、失礼します。」
「…おい、公彦。俺達お邪魔じゃねーか?」「どこからともなく馬が現れて蹴られそうな気がするよ。」
「お前らな~…」
「まあ、冗談はともかくとして…。真一、俺達はどうするよ。俺は参加するけどとりあえず王様んとこ行ってみるわ。」
「僕もそうしようかな。」
「お前らしがない中年なのに頑張るな~。俺は戦争には参加しないぞ。」
「え、お前クオ達に準備までさせといてそれかよ~。」
「不参加なの?真一君のことだからアンナさんが心配で心配で自分で守ろうとするんじゃないかと思ってたんだけど…」
「この年齢で一般兵として参加なんぞしてたらマジで死ぬぞ…。ただ、勝手に動きはするだろうからレオナルド様にはそう伝えておいてくれ。」
「参加するならわざわざばらけなくても一緒に行動すりゃいいのに…」
「実は試したいことが色々あってな。」
「…。こっち来て一番喜んでるのって実はお前なんじゃねーの…?」
呆れたような目でこっちを見てくるけどそんなことは知らない。
さて、クオ達の準備は済んでるだろうか…
家に戻る時の道を辿りつつ俺は左手を閉じたり開いたりと繰り返す。
自分でもわかるくらい気分が高揚している。
血気に逸ると失敗をしやすくなる、なので落ち着かないと…
顔は平静、心は熱く…
この一ヶ月、色々と準備をしたり訓練もした。その成果が見えるときがきた。
それだけで嬉しい。
研いだ武器を振るう機会、この機会をくれた召喚者に感謝を。
磨いた多様な技術。これを使用する機会をくれた召喚者に感謝を。
俺は家に入る直前で別れる武と公彦に向かって笑いながら言う。
「あ、忘れてた。お前ら、死ぬなよ?梅酒だとか果実酒造ってあっから、あとで飲むぞ~。」
「マジかよ!?そりゃあ飲むまで死ねねーわな。」
「マジで!?真一君、楽しみにしてるよ!」
「おう。だから、また後で…だ。」
「おう、またな~。」
「またね~。」
このやり取りは以前の世界で一度だけやったことがある。
大学卒業後に一度3人で集まり、騒ぎ、それぞれの道を歩くために踏み出した分かれ道の分岐点。
大丈夫。今度は分かれ道になってない。
目的は同じ。ならやれるだけやってみるさ…!
押さえ切れてない感情を胸に抱きつつ俺は家の中に入った。
「クオ、ナターシャ、セシリー。戻った。すぐ出るぞ!」