始まり
「え?」「は?」
あ、後ろにいた武と公彦が止まった。
「「俺(僕)もですか!?」」
「うむ。実はレディは先見力が優れておってな。レディが3人が勇者だと言っておったのが気になっておったのだ。」
俺は唖然としている2人の後ろに回り込み、2人の間から肩を抱くように叩いた。
「勇者認定乙おめ!」
王様には真面目な顔を向け、
「王女様の先見力は素晴らしいですね!武は人を率いるのに優れていますし、公彦は王者の剣筋の達人です。2人を師とすればジャック様が今よりも立派になるでしょう。」
「おぃ、俺っていつの間に人を率いるのが上手くなったんだよ…」
「真一君、僕って王者の剣筋なんて知らないよ…?」
「武、お前は普段通りの行動してたらそれだけで良将の心得を実行してるから普通に過ごしてたらいい。公彦。お前の場合は剣道だ。」
「マジかよ…」「えぇぇぇぇ…。僕ってそんなに剣道上手でもないんだけどなぁ…」
2人ともそんなつもりはなかったようで唸ってるが知ったこっちゃあない。
「そなたが得意なことは何になるのだ?」
「それは…、申し訳ございませんが私は人に教えられるようなものは身に着けておりません。」
俺はNOと言える男だからここでははっきりと断る!武と公彦が「自分だけずるい!」などと言っているが聞こえない。断じて聞こえない!
「そうか…。何かあれば真一殿にも頼みたいものだ。」
「何かあれば…ですけどね。それに勇者争いのこともあるので色々とそっちの準備を済ませますね。ジュリウスさん、お手数ですがその辺り手伝ってくれる方を一人紹介してください。」
「アンナが戻ったらそのまま彼女に手伝わせましょう。」
「あ、いえ。アンナさんではなく別の方でいいですよ。」
「む、アンナが何か失礼なことでもしましたか?」
「いえ、そういうわけじゃないんですが…」
「素直にアンナさんだと恥ずかしいからと言えばいいのに…」
「公彦何か言った?」
「いや、気のせいじゃないかな?」
「そうだよね。それで別の方にお願いしたいのですが…」
「真一様、私ではいけないのですか?」
ギク!と擬音語が聞こえてきそうなほど自分の動きが止まったのが自覚できた。
親子ほどの年齢が離れているが緊張してるのがわかる。
自分の額から汗が滴ってるようなそんな感覚に襲われ辺りを見ると…
他の勇者希望者達や王女様以外はみんな笑っている。
笑ってる連中に何か言ってやりたいが目の前のアンナさんがジッと見てきているので目を逸らせず、返事に困る。
「私の何がいけないのでしょう?」
「い、いけなくはないです…」
「では、お手伝いさせていただきますね。」
ニッコリと微笑まれ思わず言葉が零れた。
「あ、はい。よろしくお願いします。」
「それで何から準備するのですか?」
その言葉を聞いて落ち着きを取り戻す。
「まず最初に聞いてみたいのですが、レオナルド様。例の換金ですがいくらくらいになるか先に計算してもらいたいのですが。」
「ふむ、そっちからか。ジュリウス。お前に委細任せる。真一殿に金額を提示せよ。」
「わかりました。と言っても金額を提示する前にこちらの貨幣価値を知らないといけないと思うのでそこからにしましょうか。」
「よろしくお願いします。」
「低い価値のものから言っていきますね。まず、銅貨。銅貨100枚で銀貨1枚。銀貨100枚で金貨1枚。金貨100枚で白金貨1枚。それ以上の価値のある貨幣は…あぁ、国王貨というものがありますが、貨幣ではなく記念貨で価値は人によるものですね。」
「では、一般民の1年分の平均的な収入の額。これくらいで換金というのは?」
ジュリウスは苦笑しながら否定してきた。
「真一殿、さすがに『第二勇者が使っていたのと同じ貨幣』となるものなのにそこまで価値は低くないですよ。ただ、そこまで余裕がないのも確かなので3年分でお願いできないでしょうか?少し多目で金貨3枚ですが…」
「気を使ってもらって申し訳ない。それでお願いします。あとのことはアンナさんに街を案内してもらいながら買い物などを済ませるのでそれでとりあえずやっていきますよ。」
「では、アンナにお金を持たせるようにして同行させましょう。アンナ、聞いての通り金貨3枚を国庫から出して真一殿に同行するように。また別の者達も準備させて武殿と公彦殿にも同行させましょう。」
自分が動くことばかり考えて2人を考えていなかったのでありがたかった。
素直に好意を受け入れるとしよう。
「武、公彦、ここれは一緒に換金してそれぞれの当面の軍資金を得たほうがいいと思うけど?」
「だな。サンキュー」「僕もそうしておくよ。」
さて、行動するか、と思っていたら武が提案してきた。
「あ、真一、公彦、昔旅行先でお揃いの腕時計買ったろ。太陽電池で動くやつ。あれの時間で夕方18時にこの王城入り口で待ち合わせってのはどうだ?」
「どうしたの武。武にしてはまともな意見じゃん?」
公彦もだんだんと落ち着いてきたのだろう。武といつもの軽いやり取りが行われる。
そう、このわけのわからない事態に巻き込まれてようやく俺達は動き出すことが出来始めた。
まだまだこれからすることは数多く、時間もまだまだ必要だ。
でも大丈夫。なぜか?それは…認めたくはないけれど、俺の前には長年の仲間がいるから。
やれるだけやってみるさ!