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召喚されし者達  作者: カール・グラッセ
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夜明け

真一の家の外、そこには多種多様な種族の者達が集まっていて外に出てきた武・公彦・真一の三人へと目が集中された。そして、一緒に帰ろうとしていた裕子や愛子、見送りへと一緒に出てきたナターシャ・セシリー・クオへも視線が注がれる。出てきた全員が全員、外の状況を確認すると間抜けな顔となって辺りを見回した。

そんな状態の中、静寂を破り周囲を囲っていた一人の人族が声を掛けてきた。


「…そこのお若い方、あなたが『人族の魔王』様ですか?」


聞かれたのは先頭にいた真一だった。

そして、その問いに対して頷いた。


「…そうですが、何か?」


多少の気味悪さを感じながらも真一が頷くと周辺に集まっていた民衆達は一斉に声をあげはじめた。

その声は怨嗟の声で、内容は先の反乱に際して死んだ者達のことに対する恨みつらみだった。


「私の息子は人族の軍におった。今回は会議にだけ出席したら何事もなく帰宅すると言っておったんじゃ… ところが、内戦になって死んでしもうた… こんな戦乱になったのはあんたが召喚されてからじゃ!あんたさえ召喚されなければ息子は死ぬことはなかった!!息子を返しておくれよ!」


「ワシの息子もじゃ!」


「私の彼をどうして殺したの!」


「パパを返して!」


真一の家の周りを囲んでいるのは今回の内乱に際して死んだ人族。彼らはその人族の遺族達だった。

約六千人前後の遺族達…

その集まりは集会というレベルを超えており、怨嗟の声を前に家から出た者達はみんな動けなくなった。

そんな中、民衆の怨嗟の声を聞きつつ真一は右手で自分の後頭部をガリガリと掻くと首だけ回し仲間を見て苦笑を浮かべると民衆へと向き直った。

人々の目は涙を浮かべ中には狂気さえ感じ取れそうな目付きな者までいる。

そんな者達を目の前に真一は腕を組み周囲を見回した。


「ここにいる人達のほとんどが身内を亡くした方々か?」


真一が声をあげると怨嗟の声は一度静まり、方々(ほうぼう)で声があがる。


「亡くなった人も多いが今もずっと怪我でうなされてる者もいるんだ!」


「そうよ!片手なくなって仕事ができなくなって、どうやって生きていけっていうのよ!!」


「神族の(はかりごと)だとか俺達には関係なかった!今まで通りの生活ができればよかったんだ!」


様々な叫び声が聞こえる中、最後の声を聞いた真一の額に血管が浮き出し、()いで真一は体ごと武達へと振り返ると満面の笑みを見せる。


「おい、武・公彦・クオ。女の子達を連れて城へ行け。それで公彦、念のために兵士の出動要請もらってくれ。マジで暴動なんぞに発展したらまずい。あと、ジュリウスさんに今日行う予定だったランドルフとの協議なんかも日をずらすように話しておいてくれ。」


「…お前はどうするつもりだ?」


「話を聞くやつが誰一人いなくなったら暴動になるから俺は残るよ。」


「無理するなよ?ってか、普通の一般人相手に攻撃仕掛けるなよ?」


「…俺に聞かないでこいつらに聞いてくれ。じゃ、よろしく。」


真一がそう告げると、仲間達は心配の声を掛けながら家の中へと入って行った。

これはクオが考えた行動で、外側から取り囲んでいる民衆の前を素通りし城へ向かうなど不可能で、民衆を更に刺激してしまいそうなので家の裏口から移動しようというものだった。

自分の後ろから聞こえたドアの音を聞いた真一は武達が家の中に入ったことを悟り息をついた。


(どうやら家の裏から出ようと思ったみたいだな。この民衆の前から抜け出そうとしないか心配だったけど杞憂に終わってよかった… さて、向こうはいいとして問題はこっちか…)


気持ちを落ち着かせた真一は改めて民衆と向き合った。



一方、家の中に入った武達は裏口から出ようとしたが外を覗いてみると裏口の入口まで人が集まっているのがわかったため出るのを控えていた。


「さて、表は真一がいて止めてるからいいとして裏もこんなんみたいだし、どこから出る?何かいい案ないか?」


武が他の仲間達を見渡しているとクオが手を挙げ発言した。


「二階の屋根裏部屋から更に屋根の上へと上がれます。魔術を使いながらナターシャ姉達を抱き抱えて私と武様・公彦様で分担して運べば気付かれずに移動できるのではないでしょうか?」


「ぉ、それならいけそうだな。よし、行こう。」


武が頷き階段を上がり、そこからさらに屋根裏部屋へと入るとそこにはいくつか物が散らかっており、布団が敷きっ放しで放置されていた。


「…何気に誰の部屋かってわかるところが嫌だぜ…」


ケラケラと笑いながら更に屋根の上へと出た武だったが、屋根からあたりを見渡し驚いた。


「なんだこれ!?え、ちょっとこれおかしいだろ!?」


武が驚いたのも無理はない。真一の家を囲んでいた民衆の数は兵士数千人分の家族。つまり、集まり家を囲んでる民衆は万を越えていた。万を越える民衆が一軒を囲むとそれは家の表・裏だけでなく、家の前の通りや周辺の通りのほとんどを埋め尽くし、それが町の繁華街まで続いているのが屋根から見渡せた。

武はそれを確認すると屋根裏部屋へと戻り、町の様子を他のみんなに伝えた。

そんな様子を聞いたクオは激高した。


「真一様のお陰で人族がどれだけ恩恵を受けられてるかわかってないんですかこの愚民共は!?」


「クオ、落ち着いて!」


怒ったクオの両肩をそれぞれ手を置いて愛子が宥めているとそんなクオの様子を見ながらナターシャが話し出した。


「武様、公彦様、抜け道って言える抜け道はうちだとこれくらいしかないんだけど、どうする?」


「どうするって言われても、こんなに囲まれてたら気付かれずに抜け出すのは難しいな…」


武が考える人のように唸りだしていると、隣で公彦が手を打った。


「…あ!そうだ、武。あれやろうよ、あれ。」


「あれ、じゃわかんねーよ。」


「だから、あれだって!えっと、なんだっけ…」


武と公彦があれについて言い合いしているとセシリーが一言呟いた。


「固有名詞を忘れるのは老化現象の一つって旦那様が言ってました…」


「…」


セシリーの悪気が一切無い一言で公彦は思考を停止させられた。

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