腐れ縁の杯(5)
作者本人が熱中症で倒れたり、家族が入院したりで投稿自体が久しぶりとなってしまいました。
読んでいただいている方々には平身低頭で頭を下げるばかりです…
そんな賑やかなやり取りをしていた真一達だが寝起きのナターシャとセシリーに怒られた。
「楽しいのはわかるんだけど、そろそろ寝なさいよ?もう明け方近いのに三人ともまだ一睡もしてないでしょ?三人とも忙しい身になったっていうのに明日の仕事とか大丈夫?」
発言はナターシャだけだが、セシリーはナターシャの腕に抱きつくようにしながら非難の目で真一達を見ながら頷いている。次の瞬間、武と公彦は時間を確認し、ハッとした顔になり青ざめていった。
そして、酒を勧めまくっていた当の本人である真一はそのまま視線を右上へと見やりながら口笛を吹いている。途端に武と公彦は真一に謀られたことに気が付いた。
「…お前、時間に気付いててわざと話長引かせたな?」
武がジト目で見ると真一はしたり顔で首を横へ振った。
「いやいや、真面目な話をしていただけじゃないか。や!もう既にこんな時間か~ 時間が経つのが早い早い。武のやることなんかは伝えたけど、公彦がすることについてはまだ話してないんだよな~」
真一のあからさまな言い方と態度に二人は自然と目が鋭くなっていると真一は二人を見ておどけた。
「冗談だよ。まあ、朝まで引っ張れたらそれはそれで楽しいだろ?」
「楽しくなんかねえよ…」
「寝ずに訓練とか死ぬんだけど…」
「まあまあ!!お前らなら大丈夫だ!それと公彦、お前に頼みたいことはレオナルドに話してあるんだけど人族の軍を掌握してくれ。あと、落ち着いたらだけど二人共また魔術の訓練な。」
「寝てないのって真一君も寝てないんだけど、なんで元気なんだろ…」
「こいつはどこかおかしいからなぁ…」
連れ二人が真一のことをそう話していると二人の服を背中から引っ張る存在がいた。
二人が振り返るとそこにはナターシャから離れていつの間にか自分達の後ろにきていたセシリーだった。
「あのね、旦那様は毎日ほとんど寝てないから慣れてるだけだと思います…」
武と公彦から目を離して向ける先にはタバコを吹かしながらクオの頭を撫でている真一がいる。
そんな真一を見て顔を少し綻ばせたセシリーは武と公彦に向き直ると頭を下げてきた。
「旦那様、いつも忙しそうにしていて必死な顔なんだけど今日はとても楽しそう。二人といるお陰です。ありがとうございました。」
セシリーの言葉に武と公彦は驚き、顔を見合わせるとセシリーへ尋ねた。
「俺達といるときはあいついつも笑ってるけどセシリー達といる時は違うのか?」
頭を上げたセシリーは少し小首を傾げ、少し寂しそうに横に首を振りながら笑った。
「旦那様はとても優しくしてくれますよ。でも、してくれてばかりで自分のことは後回し… 遠慮なのか、嫌われてるのか、避けられてるのか、何を思われてるかわからない… 私達のことはとても大事にしてくれるけど、自分のことには厳しくていつも厳しい顔ばかりなんです。」
いつもおどおどしていてナターシャの陰に隠れ、話も碌にできない子だと思っていたセシリーが自分の思ったことを話してくれている。それだけのことだが、武と公彦には心打つものがあり話しているセシリーの姿に感じ入っていた。
「よし、俺に任せろ!」
セシリーが話し終わると自分の胸をドンと叩いた武が笑った。
「多分、この中で一番あいつと付き合い長いの俺だからな。俺が話すよ。」
その言葉にセシリーがあたふたと手を振った。
「え、え?あの、私別に訴えてたわけじゃないんですけど?」
戸惑っているセシリーの肩をポンと叩きながら横で快活に笑う公彦はそんなセシリーを宥めた。
「まあ、真一君が他の人のために必死なのは前の世界からだけどね。でも、今の君を見てると何かしてあげたくなった。武も僕もただそれだけだよ。」
その言葉にセシリーは我知らず涙を流し、その涙に気付いた真一が飛んできた。
「おい!なんでセシリーが泣いてるんだ!お前ら何やってんだ!!」
掴みかかることはなかったが、目付きはかなり怒らせ武に詰め寄る真一。だが、そんな真一にセシリーが抱きつきそのまま勢いで引き剥がした。抱きつかれた真一は最初抱きとめつつも驚いていたが、数秒の後に笑顔になった。
「…セシリーは黙って我慢して何もかも一人で抱え込んじまうところあるかな。心配してるんだぞ?何があったんだ?」
頭を撫でながら真一が問うと問われたセシリーは真一の胸に顔を埋めながら顔を左右に振り何も言わない。唸りつつも苦笑した真一は目付きだけ鋭く戻ると武と公彦を見た。すると二人は顔を見合わせ苦笑すると真一を見て近寄ってきた。
「…セシリーちゃんな。お前が何を考えているかわからないって俺達に泣きついて来たんだが?ってか、日頃はお前何してんの?フェミニストだと思ってたけど、何年も一緒に暮らしてて機嫌が悪いんだが良いんだかわからないわ、どう思われてるかわからないだとか思われてるようじゃ俺のことバカにできないぜ?」
「…人間誰しも自分が言う立場の時って凄く偉そうだよね… 自分は違うと思ってるせいか凄く強気だし…?」
真一を諭す武に対して公彦は流し目で裕子を見た後、武を見た。それを見た武は咳払いをすると再度話し始めた。
「ま、まああれだ。心配かけるのはよくないぞ~っと…」
そんな二人の目のやり取りを見た真一は白けた目を武に向けたがしばらくして吹き出した。
「ップ!クックック。急に弱気になったな。でもまあ、そういう公彦も色々と家族には思われてるんだぞ?」
「え、何それ。真一君、どういうこと!?」
「娘の加奈子ちゃんに今のセシリーと同じように抱きつかれながら泣かれてどっかのお父さんのことを色々と聞かれたり、愚痴聞かされたりしたことが何度かあるぞ?それこそ小さい頃からな。」
「真一君、君の事は親友だと思ってるけど… 加奈子は嫁にやらないからね?」
「歳の差いくつだと思ってんだ!!」
「レディちゃんはいくつ?」
「ぁ… でもまあ、俺はあっちに戻るつもりもないから過程自体が無駄だな。」
「…そうだね。」
公彦とやり取りしながら次第にお互いしんみりとした空気をかもし出した真一。
そんな二人に対して裕子の肩を抱き寄せながら武が近付いてきた。
「おい、別に今日限りで今生の別れをするってわけじゃねーんだ。何しんみりしてんだよ。俺と公彦はこれからやること聞いたんだし、眠いしさっさと帰ろうぜ。…真一はセシリーちゃん達の話をちゃんと聞いてあげろよ。この子が可哀想だろ。」
「そうだな。お前らがいなくなったら、セシリーとナターシャ、それにクオと家族団欒で話をするとしよう。」
「おう、そうしろそうしろ。おい、公彦帰ろうぜ。」
「だね。こんなに起きてたのって大学生の時に卒業旅行したとき以来だよ。さすがに眠いや… じゃあ、真一君。僕らは帰るけど、君も心配してくれる人達がいるんだし無理はしないようにね?」
「ああ、わかったよ。それよりも… クオ?」
「はい。」
真一が呼びかけると真一達のやり取りを見守っていたクオが両手にそれぞれ何かを持ち、それを一本ずつ武と公彦へと渡した。
「こいつは?」
「俺がこっち着て作った果実酒だよ。あの梅みたいなやつで造ったんだ。作り方覚えて最初の頃に造ったから二年もの?になるのか?とにかく今まで飲んできた中で一番長いやつだ。大事にするなり、即飲みきるなり好きにしな。」
「お、サンキュー!」
「ありがとう!」
真一達が話をしながら部屋の扉を出て行き玄関へと向かうとそこには既に先にナターシャが着ていて、ドアノブへと手を伸ばしそこを開けた。そこから入ってくる光を見つつ、その中に入る武と公彦。そんな二人に続いて真一も足を踏み出してみると家の外へと出るとそこには大勢の民衆がいた。