腐れ縁の杯(2)
それから部屋にいた真一達を初めとして、ナターシャ、セシリー、クオ、裕子、愛子で真一が作った酒をコップに入れ手に持った。
「3族会議、及び反乱と戦闘が続いたけどみんな無事に生き残ってここで一緒に騒げることに… 乾杯!」
「「「「乾杯!!」」」」
乾杯と共にそれぞれが杯を傾け酒を胃の中に押し込むことを皮切りに部屋は完全にパーティーとなった。
みな思い思いの会話を繰り広げ語り合い笑いあう。生きていたら『普通』に行えるけれど、生きているからこそできる『普通』。その『普通』を笑顔で共有できる者達とここにいること自体が幸せだった。しかし、どんな楽しい一時も過ぎ去るもの。乾杯から四時間が経つ頃には真一・武・公彦の三人が起きているだけで他の者たちは酔い潰れてしまっていた。
ナターシャとセシリーは魔族と神族でありながら実の姉妹のように抱き合いながら眠り、その二人に救いを求めるかのように片手を伸ばしつつも腰の辺りに愛子に抱きつかれたまま寝ているクオ。少し離れたところで行儀良く眠っている裕子。そんな五人を一度見た真一達は笑いあいながら顔を突き合わせ、改めて杯を自分達の顔の高さまで上げると無言でコップを当てた。
チン
静かに三人で酒を咽に通すと誰からともなく互いに肩を叩きあった。
「お互い、歳を取ったもんだ。」
「まったくね。でも、僕は二人にびっくりだよ。まさか二人共向こうの世界だとしてなかった結婚をこっちですることになるとはね。」
「勇者二人に魔王一人か。ロープレだとどんな設定なんだろうな?」
「勇者二人で魔王フルボッコっていう内容だろ。」
「なんだそのクソゲー。武、お前酔って調子乗ってんじゃねーか?この野郎~。」
「ほらほら、二人共、子供達が寝てるのに喧嘩したらダメだよ?」
「ところで真一よ。今回の戦闘でお前さ、古代勇者とやりあったって聞いたけどどうだったんだ?」
更に胃の中へと酒を入れながら真一は脳裏へ冥府の王と名乗ったハデスやジャックの中に入っている佐藤のことを思い浮かべ、ことの経緯なども含めながら武と公彦へ説明を始めた。
ハデスが古代勇者の一人で永遠を生きることができる存在だったことから、他にも仲間が何人もいて自分だったらその一人になれるといわれたこと。会話はしてみたが結局話が合うことがなかったので異次元に消し飛ばしたこと。次にジャックの中に入っていた佐藤はハデスと違って会話が成立し、ジャックの身体を解放することに対して特に嫌な反応も見せずに同調してくれたことなどを話した。
真一が話す話を相槌を打ちながら杯を傾け酒を飲み続ける武と公彦。
真一が話し終わると二人は黙って考え、そして口を開き始めた。
「古代勇者の全員が不老不死なのかどうなのかもわからないけど、何人かはなってる… か…」
「でも、王子の中に入ってる… 佐藤さん?は身体がないわけでしょ?生きてるって言えるの?」
「それを俺に聞かれてもな~ なんにせよ、古代勇者についての伝承ってのが種族によっても違うし、現れた自称古代勇者どもが本物かもわからん。が、名乗る奴らが友好的かどうかってのは人によって違うってことだわな。」
「みてーだな。にしても…」
言葉を切った武がコップに酒を入れながらニヤッと意地悪そうに笑うと真一を見た。
「お前、異次元って何よ?どんだけ魔王様?」
「確かに、真一君。この世界にきてからどんどん普通の人っぽくなくなってるよね。」
「…お前らホントに勇者二人で魔王フルボッコにしやがるな… あ~ でも、お前らに魔術について一言教えておいてやるんだけどさ。魔術ってさ、多分信じ込むことも発動する条件の一つになってるんだよ。」
「…信じ込むこと?」
公彦が鸚鵡返しに繰り返す一言に頷き返しながら真一は続けた話始める。
「ルーン文字一つ一つに意味が込められてて、韻を踏むことで魔力が込められ発動する。ルーン文字を組み合わせることによって現われる効果を多様化して、俺なんかは戦闘でいろんな効果の魔術を発動させてるわけだが…」
「最近、やることがホントに魔王じみてるぞ?」
「うっせー。」
「天使族を壊滅させたトルネード?あれなんてよく魔術で起こしたね。」
「ああ。あれは自然現象を意図的に再現したんだよ。」
「「再現?」」
武と公彦が二人して聞くと真一は頷いた。
「こうやって… 何もない所から火を出したりする小規模な魔術なら無声でもできるくらい魔術はできるようになった。」
そういいつつ、指先にライターから出すような微かな火を出しすぐに消す。
「だけど、大規模な魔術になると消費する魔力が半端なくでかくて負担でけーのよ。それこそ何度か俺がぶっ倒れてるし、それで寝込んだこともあったろ?」
「確かに…」
「だから、トルネードが発生するのに必要な上空と地表近くの気温差や横から吹き込む風。そういったものを順番に全部用意してやることによって無理のないように再現したんだ。」
「言ってる意味はわかるけれど、じゃあ、あの魔法陣とかって?」
「言ったろ?魔力を効率的に使うためだって。この世界に来て魔力操作の練習やなんかしてるときもそうだけど、大規模な魔術を使った時もそうだ。魔力を駄々漏れで使いすぎてたんだ。」
「「駄々漏れ?」」
「お前ら綺麗にハモりやがるな… でも、言葉のまんまだよ。そうだなぁ… 蛇口に付けたホースの先から出る水で物を押し流してやろうとするだろ?ホースの出口を指で押して出口を潰して水を出すのと、指で潰さず水を出す。どちらが物を押し出す力が強い?」
「そりゃあ、ホースの出口を指で潰したほうが出る水は勢い強いけどさ…」
「お前、それって効率的っていうのか?」
「二人揃って疑問に思うところも仲良く一緒かよ!わかりにくくて悪かったな!でもまあ、なんとなくはわかるだろ?」
「なんとなくはね…」
「確かにな~」
「そういやあ、城の休憩所じゃ話途中だったけどお前らには先に簡単に今後の予定を説明しとくぞ。」
既に夜が更けていたが、他の五人が寝ているので真一は武と公彦に自分が脳裏に思い浮かべている未来図を説明し始めた。




