今後の予定
リーゼロッテを愛称で呼び捨てにした真一に対して、わざと聞こえるようにぼやいた者がいる。
「あ~あ。このヘタレをどう思うよ?」
「親友としてはここで強い意志を発揮して断って欲しかったところだね。」
ニヤニヤと笑う武と公彦だった。そんな二人を真一が睨め付けると二人は真一の左右の肩をそれぞれが叩きながら大笑いし始めた。
「まあ、遅れてきたモテ期だ。楽しめよ。」
「真一君なら大丈夫だよ。…多分。」
対して真一は二人をそれぞれ見遣りぼそりと呟いた。
「せいぜい今のうちに笑っておけ。そのうち笑う余裕もなくなるだろうからな。」
「え、それってどういうこと…?」
公彦が気になり聞いてみたが真一はロキとリーゼロッテを手招きして呼び、魔族領の地図を指差しながら二人と話し始めると公彦の方へは見向きもせずに自分の顔の前で手を左右に振り答えることはなかった。そんな真一の様子を気にしつつ答える気がないとわかった武と公彦は嫌な予感を覚えた。長年の付き合いから真一がこんな態度を取るときに限って自分達は碌な目に遭ったためしがないからだ。
真一の態度のこともあり何を話しているのか一緒に聞こうと武と公彦が近付こうとしたが、真一にあっちへ行けとばかりに手の平で追い返された上に話し声が聞こえない場所まで真一達は遠ざかった。辺りを見回すとどうやら自分達だけでなくレオナルドやジュリウス、それに婚約者達までもが話が聞こえていないようで真一達を気にしている。その様子から公彦は武に話しかけた。
「…武。もしかしてさ、僕らやりすぎたかな?」
「ちょっとだけ怒らせたかもな… 献上物でも何か用意して機嫌取るか?」
「…上手くいけばいいね。真一君のことどうしよう…」
真一が考えることというのが二人には思いつかない。武達だけでなくレディ達も真一へと近付いていき事情を聞こうとしたのだが…
「今は少し真面目な話をしてるところだからあとでいいかな?ちゃんと説明するから。」
いつもよりも当社比二倍程凛々しく見える(気がする)ような笑顔をレディ達へと向けて彼女達を下がらせた。そして真一はロキが指差している地図に書き込みを始めた。それは魔族の町の一つ一つに対してどの種族が治めている町かということを書き込み始め、それにともない自分の懐からメモ帳を取り出し、自分が聞いた情報をまとめ書き始めた。そしてさらに特産品などをロキとリーゼロッテから聞きながら次々と書いていく。周りの者達が書いているのを見守る中でその作業は延々と続けられ、そんな様子を見ていたジュリウスは苦笑しながら溜息を吐いた。
「一応、ここは休憩所であって仕事をする場所ではないんですけどね…」
その一言でようやく周りの者達も雑談や飲み物を飲んだりといった普段の休憩所の様子を取り戻していったのだが、しばらくして真一は書いていたメモ帳を一枚剥ぎ取るとそれを武へと押し付けながら話し始めた。
「おら、勇者様旅に行って来い。ってか、お前新婚になるんだから新婚旅行になるのかな?いや~、おめでたい。とてもおめでたい。おめでたすぎてお祝いの品が思いつかないわ。…というわけで、お祝いの品として魔族領の渡り歩きと交渉。こいつをお前に任せる。そのメモ大切にしろよ?俺の手書きの地図や情報だ。この世界にゃコピー機もスキャナーもないんだからな。」
有無を言わせず真一が言い切ると聞き終わった武が慌てた。
「ちょっと待て。なんで俺やねん。」
「冗談っぽく言ってるけど、今回はお前が適任なんだよ。地図もそうだが確かに色々と情報はもらってる。だが、魔族領を徒歩で歩くとどのくらいの日数が掛かるなんて実際にあるかないとわからないだろ?だから、今回はお前がいいんだよ。」
「いや、公彦でも十分だろ。」
真一は顔を横に振った。
「や、公彦だと誰から見ても『僕は偵察してます』って言いながら歩いてるようなものだから警戒されちまう。偵察するにも得手不得手がある。こういうのはお前が俺達の中だと一番上手いんだよ。」
「お前が行けばいいじゃねーか!」
「なら、お前がオリオーンとクウェイの開拓並びに住民の移住の手続き、それに魔族との同盟にともなって行き来する種族達の管理やらこちらの領地での法についての説明やなんかもそうだが住処の提供やらその他諸々の環境整備。それから…」
尚も続けて自らが行うはずの職務の内容を言おうとしていると武が両手を挙げて降参のポーズを取った。
「わかったよ。俺が行くよ。はぁ~…」
「そうぼやくなよ。さっき俺が言いかけてのってまだまだ作業多いんだぞ?公彦だってかなり面倒な仕事をやらなきゃいけないんだからな?」
「わかったって。とりあえず、今後の予定ってのを教えてもらおうか?」
「僕もかなり面倒っていうのが凄く気になるから聞きたいな…」
「レオナルド達にも説明しなくちゃいけないが今日はもう遅い。話の続きはまた明日にしよう。」
真一が隣のテーブルで様子を気にしていたレオナルドやロキに呼びかけると二人共頷き、この日は解散となった。




