休憩所にて(1)
真一達が休憩所に入るとそこには兵士や文官、メイド達が何組も椅子に座り談笑していたのだが、そんな彼らは入ってきたレオナルド達を見るや否や全員立ち上がり敬礼してきた。レオナルドが軽く手を挙げ、
「そのままでよい。」
一言掛けると彼らはレオナルド達が着席するのを待って座りだした。
だが、座ったもののさすがに自分達が仕える王やその片腕、そして魔皇帝がいるので一様に黙りこくった。
そんな様子にロキは溜息をつく。
「…なあ、逆に落ち着かねーんだけど、どうなのこれ…」
「同感。レオナルド、ここって休憩所じゃなかったっけ…?迂闊に俺達きたら不味いんじゃないか?」
「堅苦しくテーブルの席につくよりこちらの方がそれぞれのスタイルでのんびりできると思うんじゃが…」
「そう言われてもこんなに見られるんじゃあ…」
真一、ロキ、レオナルド、リーゼロッテがそれぞれ話をしだすと部屋の中にいた者達は真一やロキ、リーゼロッテを見てヒソヒソと話をしだした。そんな彼らに対して真一は後頭部をガリガリと掻きながら辺りを見回した。
「どうした真一。何か気になることでも?」
レオナルドに聞かれた真一は頷きながらテーブルについたレオナルド達を見た。
「じゃあ、これだけの人数だけど… 今後の話をさせてもらおうか。魔術を教えると言ってたことや鍛冶についてのことなんかだけど、教えるとなると場所が必要となるだろ?とりあえず教える場所はクウェイで行いたい。」
みんな黙って相槌を打ったり頷き、真一はそのまま言い続ける。
「ちなみにクウェイに大きな建物を作り、その建物の中に部屋をいくつか作り、実践して見せたり、座学を含め口や文字での説明をしたりする。ただ、建物を建てる日数やら教える期間などもそれなりにかかる。」
「まあ、確かに…」
「うんうん。」
「なので、今日広場に集められた奴隷達にはこれからクウェイとオリオーンの二箇所に行って貰い二年の間、クウェイでの建設作業。そしてオリオーンの復旧作業に取り掛かってもらう。」
見渡すとみんな飲み物を手に取りリラックスした状態で頷く。
「二年の間にクウェイの住人を少しずつ移住させてオリオーンへ移し、二年終わる頃にはクウェイは完全に魔術と鍛冶を教える街として変わらせる。」
「そんな大掛かりなことを考えていたんですか…」
ジュリウスが驚きの声をあげた。それに対し真一は少し頷いたが少し渋い顔をして続きを話し出した。
「ただし… すまん。そこまで大掛かりになると時間だけじゃなく、金も多大に必要になる。なので、人族だけじゃなく、同盟を組ませてもらった魔族の都市への商売のやり取りをやらせてもらって儲けさせてもらいたい。」
「…それは意図的に儲けさせろってこと?それとも自力で商売するつもりなの?」
リーゼロッテが無表情で聞いてきたので真一は苦笑した。
「商売するのに意図的に儲けさせろってのは酷い詐欺だな。そんなの自力で儲けを出すに決まってるだろ。」
答えを聞いてようやくリーゼロッテは顔を綻ばせた。
「人族と魔族をまたにかけた商人かぁ~ 真一さん、そんな人物って今までの歴史上いないですよ。」
「まあ、持ち上げてもらって申し訳ないんだが、商売するのは俺じゃなくて武の方なんだ。」
「え、そうなの?俺も真一がするんだとばかり思ってた。」
ロキもリーゼロッテと同じく真一が商売をするのだと思っていたようで驚きを表しているとその表情を見てレオナルドとジュリウスが笑った。
「あはは。お二人もどうやら武殿が商売というのに首を捻られてますね。実は私達も最初ロキシードで武殿が商売をなさると聞いて驚きました。ですが、あの方やり手なんですよ。」
ジュリウスがそう言うと、ロキとリーゼロッテは再度驚きの声をあげた。
「人は見かけによらないもんだな。」
「そうだろ?」
そう返事をする真一の後ろからさらに声が掛かる。
「…何がどうなって俺の話になったんだ?っつーか、俺が驚かれるような話をお前がするってのはどういうことだ?」
その声を聞いた真一は顔をニヤリとさせ後ろを振り向いた。
「何がどうなってって言っても、ただお前のために商売できる幅を広げてやろうとしてるだけだぞ。」
「バカ野郎。ロキシードとクウェイ、それに他の人族の町のやり取りだけでも結構な利益上げてるだろうが。これ以上忙しくさせんなよ。」
「大丈夫だよ。忙しくなるのはお前で俺じゃないし、まだ広がるかどうかも確実じゃない。それはロキやリーゼロッテ達の判断待ちだ。安心しろ。」
「お前やレオナルドがここいるって聞いたから着てみたらひでえ話聞いちまった。まあ、しょうがねえ… ロキ、リーゼロッテさん、レオナルド、ジュリウスさん、こんちゃっす。」
昨日の反乱時、真一がレオナルドに対して呼び捨てをした際、レオナルドが大層喜び武と公彦にも同様に接して欲しいと言われ、武と公彦もレオナルドに対してお互い呼び捨てにしあう仲となっていた。
挨拶をする武に対し、各々が挨拶を返すと武は真一の隣に座った。
「それで?俺やレオナルドがここにいるって聞いて来たっていうには何か理由があるんだろ?どうしたんだよ。」
「ああ、そうだ。いきなり変な話してるから話そうと思ってたこと忘れてたわ。俺、お前が婚約式?結婚式?まあ、どっちでもいいけど同じ日に結婚しようと思ったからいつにするのか聞きたかったんだ。」
「え、お前、ホントに結婚すんの!?」
「マジ。で、あとお前こっちの世界に残るつもりだろ?俺も残るからって伝えておこうと思ってな。」
「…そっか。お前も残るのか。ってことは戻るのは公彦だけか。」
「そうなるな。」
「公彦には言ったのか?」
「おお、言ったよ。祝いの言葉をくれた。あとご祝儀も。」
「ご祝儀代わりに若い女の子を紹介しようか?二人ほど目の前に紹介できそうな子がいるんだが?」
「バカ。彼女泣くからやめろ。」
ケラケラと笑いながら真一は武の肩を叩いた。
「悪い悪い。冗談だ。ロキやリーゼロッテさんも男を選ぶ権利があるからな。お前を紹介したら二人が可哀想だ。」
「お前なぁ… まあ、いいけどあと一つお前に頼みがあるんだわ。」
「おお、俺にできることならいいぞ。言ってみろよ。」
「実は俺、これから彼女にプロポーズするんだよ。」
「ふむふむ?」
「で、お前アンナさんに告ったやん?どういう言い方で告ったか参考に教えて欲しいんだ。」
武の口から出てきた台詞を頭の中で理解するのに真一は軽く三十秒は掛かった。




