平和な日常(1)
王子の反乱が鎮圧され数日が経った。
ロキとレオナルドと真一は王城にて未だ同盟の内容を協議しあいながらロキシードにて日々を過ごしていた。
とは言っても、レオナルドも反乱の後処理などもあり協議自体がなかなか進められず、そのせいもあってレディとアンナの婚約式も遅れに遅れていた。当の本人である花婿の真一はまだまだ処理に日数がかかりそうなので一度クウェイに戻り、事務処理などをしておこうとしたのだが…
「真一は戻ったらなかなか来ないから戻るな!」
「戻らないで下さい!」
レオナルドとジュリウス、主従コンビの絶妙に息の合った防壁を越えることはできずロキシードで寝泊りさせられていた。
そんなわけで半ば強制的にロキシードで寝泊りするのでかつて自分が住んでいた一般民家へと戻ってきた真一は久しぶりにクオ、ナターシャ、セシリーの三人とそこで寝起きを共にし、家族水入らずなのんびりとした生活を送った。そしてロキはリーゼロッテ、キンバリー、ランドルフ達とロキシードを見て回ったり、真一が普段やっている作業などを見学したりと過ごしていた。
そんなある日のこと、レオナルドとジュリウスに呼び出された真一は王の間へと行ってみるとそこには意識を取り戻したジャックがいた。ジャックは真一の姿を見ると、召喚されて一度も見たことがないほどの笑みを浮かべ恭しく頭を下げてきた。真一が当惑しながらレオナルドとジュリウスを見ると二人共笑っている。真一がどういうことか尋ねるとジャックが頭を上げ、自分で説明を始めた。
「実は先日の最後、佐藤なる者に体を操られていたとき、心の中で我自身がどんなことをしていたのか、何を話していたのかといったことを全てわかっていたのだ。つまり、我のために真一様が佐藤とどういう約束をされたか… それも我は知っている。」
「…それで王子が私に頭を下げてるんですか?」
「いや、今まで我がお主のことを勘違いしていたことにようやく気が付いたので謝罪させてもらいたいのだ。そして、叶うならば我はお主と友好を深めたい。」
その言葉を聞いて真一はジャックに対して逆に頭を下げた。
「何をもって勘違いされてたのかもわかりませんが、友好を深めたいと言われるのはこちらとしても嬉しいです。なので、その謝罪を受け入れます。」
「そうか。」
と、言いつつジャックは真一をしっかりと抱きしめた。
ピシ
レオナルドとジュリウスがそんな音を出して固まった気がする。
それくらい二人は硬直した。
「…王子?」
「なんだ?」
「これは?」
「仲良くするには抱きしめて枕を共にすればいい、と貴族の者達が言っていたのでやってみてるのだが、何か間違っているのだろうか?」
「間違っているも何も… 完全に間違いというわけではないですが、恐らく貴族の者達が言っていたのは男女で仲良くするならば、ということでは?」
「そうなのか。では、男同士で友好を深めるというのはどうしたらいいのだろうか?」
そこで真一はフッと息を吐きながら笑いかけた。
「男女問わず、座って飲み物を飲みながらお互いのことを何かしら話をして、お互いのことを知っていく。これがいいかと思います。」
「そうか。我はそれさえも知らなかったのだな。」
「知らなかった。でも、知りました。知ったことで王子は知らぬ者より成長したのです。」
暗くなりかけたジャックだが、真一の言葉に笑顔になった。
「…なるほど、レディが見込んだのはこういう部分がわかっていたのかもしれないな… しかし… う~ん…」
「どうかなさいましたか?」
「結婚というものが男女でしかできないのが納得できん… なぜ男同士でではできんのだ。」
「え゛…?」
「おお、父上に法を変えてもらえばよいのか。父上、どうでしょうか?」
真面目に問われたレオナルドは思わず目を瞠り、ジュリウスを見るとジュリウスもまたレオナルドを見ていてお互いに目を合わせることとなった。
「仲がよくなってくれたのは嬉しいことじゃが…」
「これはいいのでしょうか…?」
「しかし、男同士か… う~ん…」
「真一様?」
「俺に話を振らないでくれ。」
そこでレオナルドはジャックの方を向き声を掛けた。
「ジャックよ。なぜ真一じゃ?結婚は女子とせい。後継ぎがいないといけない。男同士では子は成せんからの。」
そう言われて初めてジャックは腕を組み悩みだした。
「なるほど、言われてみれば…」
次にジュリウスがジャックに質問をした。
「王子、なぜ真一様と結婚したいと思われたのですか?」
するとジャックは大きく頷く。
「うむ、あの佐藤なる者とのやり取りを己が内から見ていたが、その時からか真一殿を見ると動悸が激しく、そして真一殿を考えるだけで顔が赤くなってしまってな。他の者に聞いたところこれは恋だと言われたのだ。」
「「「…」」」
理由を聞いたジャックを除いた三人は顔を合わせ、無言で目のやり取りを交わす。
(…惚れたの。)
(…惚れてますね。)
(ナイナイ。)
レオナルドは真一の肩を叩き一言言う。
「真一、双子揃って嫁とせんか?こやつもそれなりに整えれば綺麗じゃぞ?」
「その発想はやめろ!!」
王の間に真一の叫び声が木霊したのは言うまでもない。
真一が落ち着いた後、ジャックを下がらせたレオナルドは真一に対して改めて話しかけた。
「そういえば、真一。此度の反乱でジャックを殺さずにいてくれた礼をしたい。それと3族会議に参加してくれたこともそうじゃし、その後戦闘での貢献を考えると莫大な恩賞をお主は受け取ることになるんじゃが… どんなものがよいのじゃ?お主は他の者と違う物を好むすきがあるからの…」
「一応、独立した魔王のはずなんだけど褒美ってもらえるの?」
「手柄を立てて我が国に貢献したんじゃ、独立してようがなかろうが関係ない。それで何かあるかの?」
「あ、そうだ。それなら街としては既に廃墟と化したオリオーンを俺の領地として認めてくれないか?」
「ふむ… 他には?」
「他にも?いいのか?」
「廃墟をもらって喜ぶのはやはり真一だけよ。他の者も喜ぶようなものというのが少しでもないとの。」
そう言われ腕を組んで考え出した真一がしばらく考えた末、出した結果…
「…じゃあ、ロキシードの奴隷達をできるだけもらいたい。って言ったらどのくらいもらえる?」
その言葉にレオナルドは目を丸くした。
「ほう… 奴隷が欲しかったのか?ジュリウス?」
レオナルドがジュリウスの方を見るとジュリウスは少し首を傾げると答えを出した。
「今、王都にいる奴隷達を考えると神族・魔族・人族合わせて三千人ほどになると思います。報酬としては少し多い気もしますが、真一様が受け取るならみなも納得しましょう。」
その答えに満足したのかレオナルドはうんうんと相槌を打つように頷き、真一は破顔した。
「できれば、早目がいいんだけど今からすぐでもいいでしょうか?」
真一が珍しく嬉しさを抑えようともせず急かすので少し戸惑いながらもジュリウスは頷いた。
「大丈夫です。ただ、手続きや奴隷を真一様のものとすることを奴隷商人達に話したりしなければならないので少し時間が必要ですが…」
「ああ… できるだけ早目にお願いします。」
この時、レオナルドとジュリウスは真一の目的が全くわからなかった。
ジュリウスが全ての事務手続きを済ませ奴隷達がロキシードの広場に集められたとき真一の目的が果たされた。




