異常
奇しくも同時に動き始めたジャックと真一。
そこからさらに同時にお互いの間合いへと踏み入り同時に次の動きを始めた。
ジャックは頭を唐竹割りしようと上から下へ縦に、真一は居合いで胴を薙ぎ払うように横へと刃を閃かせ、十字に交差し刃と刃がぶつかり合う。
何秒か鍔迫り合いをした後、真一は瞬間的にジャックを押し返し距離を取る。
ジャックは無表情のまま剣を構え直すと再び斬りかかった。
それに対し、真一は抜刀術にて自分の最速の斬り込みで対応。
何合にも渡る刃の応酬が繰り返された。
そんな刃の応酬を見ていたレオナルドは驚いた。
それは真一に対してではなくジャックに対してだ。
そしてそれは口から漏れる。
「…あれがジャック?あのような巨大な剣を自由に操り、真一と互角に斬り結べるほど腕があったのか…?」
ジャックを知らないロキとリーゼロッテは真一とジャックとのやり取りを見て黙ってはいるが驚いていた。
真一にしろジャックにしろ人族と侮っている部分があったが、この刃の応酬は魔族相手でも十分通用するし、二人共見たことがない武器を使っているので自然と目を奪われていた。
そして、達人でもある公彦はジャックの動きを真剣に見ていたが首を捻っていた。
「普通、狭い牢の中に入れられて何ヶ月も過ごしてたら手足の筋肉も落ちて走ったり、重い物を持つにもそれなりに苦労するはず…」
「けど、王子は以前よりも筋肉隆々に見えるけど俺の見間違いか?」
「いや、僕の目にもそう写るから大丈夫なんだけど… 牢の中で筋トレしてたとか…?でも、筋肉だけあってもあの動きはできない。はっきりと言える。修練なしであんな動きができるものは存在しない。」
「さすが、こういったことには詳しいな。」
「お前も齧ったからわかってるだろ?それにしても今の王子は異常だよ。真一君があれだけできるようになったのだって、相当頑張ったと思うのに…」
「…あいつの場合、前の世界でも相当無茶苦茶してたからな… お前知ってる?あいつ、前の世界で一回だけ、フランス外人部隊に所属したことがあるとか…」
「…え?何それ?」
「つまんねー日常に飽きたあいつが刺激欲しさに行ったらしい。あの抜刀術はその時やることなくて一生懸命練習したって前に聞いたら言ってたよ。」
「…まあ、普通の日本人じゃなかなかやらないことしてるね…」
「それと互角か…」
武と公彦、二人でやり取りをしながら真一とジャックの一騎打ちを見守る。だが、公彦はなんとなくだが気が付いた。真一もジャックもお互いに何かを狙っている。今は様子見。
(様子見でこれだけ動けてるのも異常だと思うけどね…)
公彦が辺りを見回すとみんな言葉少なげに見守っている。
そんな中、フッと異変を感じた公彦は思わず武を見た。
武もハッと気が付いたようで公彦と目を合わせ、二人して入ってきた扉の方を向いた。
次の瞬間…
バンッ
勢い良く扉が開かれ、外から兵士達が流れ込んできた。
入ってきた兵士達は一様に槍を構え横一直線へ並ぶ。
「まずい!みんな入口を囲むようにして他の兵士が入れないようにするんだ!!」
公彦が思わず叫ぶとそれに反応したリーゼロッテ、ロキ、武、ジュリウス、カーネル、クオ、ロン、ユーシア、クリストフ、ランドルフ、イースが入口へ向き直り、兵士が広がり囲まれないよう行く手を遮った。
そんな仲間に気を取られた真一はジャックの斬り込みを捌ききることにしくじり刃を受ける。
「ッチ!」
反射的には避けたため、深い傷はないものの浅い切り傷をいくつももらってしまった真一は思わず舌打ちした。そんな真一に対し武が怒鳴った。
「おい!!真一、てめー何こっち気にしてんだ!こっちはお前の手助けなんぞなくても雑魚ばっかりで物足りねーくらいなんだ。てめーは王子だけ見てろ!!」
その言葉に思わず噴出した真一だったが、先程と違い気持ちが落ち着くのを感じた。
そんな真一にジャックが話しかけてきた。
「そこの者の言う通り。お前は我だけを見よ。余所見しておるお前など我の求める敵ではない。」
「聞く奴が聞いたら誤解を招きそうな台詞だな、おい。それに悪いな。俺は男なの。だから、女の子が好きであって王子は対象外だよ。」
「減らず口を…っ!!」
再度、刃の応酬を始めながら真一はジャックに対する違和感にここで初めて気が付いた。
違和感は覚えていたが、それの正体がなんであるかということに気が付いた、そういったところだ。
(王子の目、意思が見えない…)
人の視線や殺意、想い、そういったものは感じることができ、そのような目をする者の動向や目的といったものを想像することもできる。今のジャックにはおよそ『視る』といった感覚がなくジャックの意思を感じ取れなかった。
(太刀筋を読むのに苦労するのもこれが原因か…!)
達人は無意識のうちに戦闘を続け相手を倒すこともあると聞くがジャックがそこまでの達人ではない。
以前、襲われたことからジャックの剣の腕というものがどれほどか大体ではあるが想像がついている真一は一つの可能性にいきついた。それを口に出してみる。
「おい、王子操ってるの… 誰だ?」
入口で兵士達と争う仲間達にもこの問いの声が聞こえた。




