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召喚されし者達  作者: カール・グラッセ
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王子

反乱軍を吸収するようにしながらレオナルドは軍を編成し直し、ボルボット大森林を抜ける途中でクオも見つけ行動を共にした。森を抜けた後、警戒を続けては見たものの障害と呼べるような規模のものは特になく無事王都へと到着した。大きな反抗もなかったことにレオナルドはホッとし、馬車に同乗しているロキと真一へ視線を投げかけた。


「…ところでロキ殿、もう少し落ち着かんか?それと真一、お主はもう少し民に顔を見せて手を振ったりしてくれ。お主が王門の兵士に行く手を阻まれ、城へ入れない理由の一つは顔をなかなか民に見せないからというのもあるんじゃぞ?」


声を掛けられた一人、ロキの方は人族の王都に興味があるのか森林を抜けてからずっと窓の外を眺めていた。


彼女は当初、続く荒地に対して興味を示さなかったが、王都が見えてくると彼女は窓から身を乗り出し、辺りを見渡した。その光景を最初に見た時、別の馬車に乗っていたリーゼロッテはロキが馬車から突き落とされそうになっていると勘違いし、レオナルド達の馬車を止めるため攻撃を仕掛けてきた。誤解が解けた後、リーゼロッテが顔を真っ赤にしながらレオナルド達へ謝罪したが、勘違いされるほど身を乗り出すということでどれだけロキが身を乗り出していたか想像付くだろうか?


「まーまー。堅いこと言うなよ。俺とお前の仲だろ?っていうか、この場合問題なのって俺よりむしろ真一じゃないか?」


ロキが窓の外から車内へと視線を変えるとそこには車内に張り付きそうなくらい背中を背もたれへと押し付ける真一がいた。


「確かに… 真一。お主はもはや3族会議やその前の戦闘も含め神族にも魔族にも、そしてもちろん人族にも名前が知られる魔王となった。顔を隠してどうする。」


二人から呆れられている当人の真一はそんな二人に対して首を横に振る。


「どうしても、しょうがないっていう時以外はできるだけ大衆に注目されたくないんだよ。」


「だからと言ってそんな格好せずともよかろうに…」


三人でそんなやり取りをしている間に馬車は城へと入り馬車が停止した。


「これが人族の城か~ 凄いな~…」


ロキが感嘆の声をあげるとレオナルドは満更でもなさそうな顔をしていると、他の主だった者達も次々と到着し馬車や馬から降りて近付いてきた。全員が揃うとレオナルドが声を掛ける。


「さて、ではそろそろ王の間へと行くかの…」


そこから、この一行はジュリウスを先頭にしながら王城の中を進んでいった。

最初は未だ敵対する者がいないか警戒していたが、行く先々にいる城の兵士達は皆、歓迎するかのように左右に分かれ整列し敬礼していた。そんな兵士達を見た武は一行みんなの気持ちを代弁するかの如く、話し出した。


「…反乱ってここから始まったんだよな?何、この歓迎ムード。」


誰に言ったわけではないがついでてきたこの言葉に思わず突っ込むのは連れとして長い時間を過ごしたからだろうか真一だった。


「知らんがな。」


「でも、武の気持ちももっともだよね。」


公彦がフォローを入れるとその一行はウンウンと頷く。

城の兵士達の動きはその敬礼が続き、抵抗もなく王の間の前まで到着した。

扉を前にし、さすがに緊張するのかレオナルドが再度みなに声を掛ける。


「ふう… よし、では入ろう。」


以前からやっているのだろう、ジュリウスが扉を開きレオナルドを中へと導くとレオナルドは颯爽と王の間へと入る。玉座に座っているのはレオナルドの息子であり、レオナルドの死後39代目の人族の王となるはずのジャックだった。そんなジャックを見るとレオナルドは怒気だけでなく怒声もあげた。


「…ジャック。お前はそこで何をしておる?そこは王が座る場所よ。小僧が座るには早いわ!!」


王の間全体を振るわせるほどの声でレオナルドが言うと、ジャックはそれに気圧されることもなく玉座から立ち上がった。


「…」


何かを呟いた王子の手には見たこともないような剣が現れ、ジャックはそれを振りかざした。


「前王よ。我は神も魔も認めぬ。我が唯一認めるのは人のみ… 魔と結んだなど情報を聞いたが我は認めぬ… 故に、ここに一つ勝負を申し込む。」


「…勝負とは?」


剣先をピタリと真一へ向けるとジャックは続きを話す。


「そこなる、人族の魔王との一騎打ち。」


その言葉を聞いたレオナルドは首を横に振る。


「お前はこの期に及んで何を言っておる。お前の反乱は失敗し反乱軍は消滅。お前が頼りにしていた勇者・高橋は勇者・公彦により惨敗しいずこかへ逃げ去った。城の兵士は我らを歓迎し、お前一人でどうするつもりじゃ?それにそんな状況にも関わらず、なぜ真一がお前と一騎打ちなど危険を犯さねばならぬ?お前の申し込みを受け入れる理由も必要もない。子供の我侭に付き合うほど我らは暇ではない!!」


両者の間に沈黙が流れ静寂がその場を支配し始めたとき、そんな時に声があがる。


「…いいよ、王子。その申し出受けよう。」


「おい、真一!」


「真一君?」


申し込まれた真一、当人だった。

その真一は驚きの声をあげた連れ二人に苦笑する。


「なんだよ。俺が申し出を受けるのが意外か?」


「そりゃあ、レオナルドが言うことが正しいと思うしさ。」


「理由あるの?」


「俺にはねーよ。」


そこで一度言葉を切って連れから視線を外しジャックを見ると、ジャックも真一を見ていた。

二人の視線が合い、それを外さないまま真一は続きを話し始める。


「でもさ、王子にはあるんだろ?それだけの想いがあるなら向けられてる当人としては受けてあげたくなるじゃねーか。」


成り行きを見守っていたレオナルドがそこで我に返り止めた。


「真一!武と公彦の言うとおりじゃ!申し出なんぞ無視すればよい!わざわざ危険なことをせんでいいんじゃ!」


真一は真面目な顔をするとレオナルドへ向けて首を横に振る。


「レオナルド、ここは任せろって。きっと… いや、多分… いや、恐らく… 悪いことにはならない… と、思う?」


「顔は真面目なのにだんだん弱気な発言になって最後は疑問系とか…」


「格好悪いね。」


「…五月蝿い。兎に角、俺に任せろ。」


三人のいつも通りの会話のようなものをして、武と公彦は笑みを浮かべた。

そのやり取りを見ながらもレオナルドはまだ止めたい気持ちが残っていて続いて話そうと口を開こうとしたが、真一に肩を叩かれ何も言えなくなった。


「俺は友ってのが嫌いでな。レオナルドには悪いけど、友じゃなく連れになってもらう。それと連れなら連れで、俺の性格を受け入れてもらわないとな。」


目を見開いたレオナルドがそのまま横の武と公彦へと目を向けると二人はウィンクをしながら親指の腹だけをレオナルドへと向けている。何度となく目の前で真一、武、公彦がやっているジェスチャーが自分に向けられているのがわかり、レオナルドは心が暖まるのを感じ思わず微笑んだ。


「…しょうがない義理の息子じゃのう。」


レオナルドの返事を聞いて片頬を少しあげるような笑い方をした真一は目をジャックへと向けた。


「それで、どこでする?」


「この場にて。」


「いつ?」


「知れたこと。今から。」


「わかった。」


手に刀を召喚した真一がそれを握り、腰へと持っていくとジャックは剣を担ぐようにしながら体勢を斜めにする。そして、真一も少し前屈みとなり体を斜めにしたところで… 両者は前へと出た。

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