人族騒動(2)
武が陣内に戻り、テントに入るとそこには起床した公彦とダガーがいて、公彦は武を見ると片手を挙げて軽く挨拶してきた。
「やあ、武。お帰り、それとおはよう。」
公彦が挨拶を終えたのを見計らって次にダガーが少し頭を下げて挨拶をする。
「私ばかりか部下までゆっくりと眠らせてもらった。ありがとう。」
そんな二人に対して武はケラケラと笑いながらお茶を飲み、ダガーへ質問した。
「そういえば、あんた。反乱軍の前線って誰が指揮してるんだ?統率が全然取れてなくてこっちはほとんど被害無しで暴れまわれてるんだけど…」
「反乱軍の前線は工藤という召喚された一人が指揮している。私よりあなたの方が知っているんじゃないか?」
聞かれた武は横に首を振りながら公彦を見るが、公彦も知らないようで横に首を振った。
「生憎と召喚された者っていう共通点だけで、お互い名前も知らないやつみたいだな。しかし、そうなると顔も知らない召喚された者同士での殺し合いか…」
腕組みをしてそう呟く武の脳裏に過ぎったのは召喚された時、その場にいた者達の顔ぶれと婚約者の顔だった。その顔を振り切るように左右へと首を振ると改めてダガーへ声を掛ける。
「そういえばお前はジュリウスさんに会いに行きたいんだったな?これを持って行け。」
言いながら武はポケットに入っている物を手に取り、ダガーへ向かって軽く放り投げた。
ダガーはそれを落とすことなく受け取るとそれを見た…が、何かが書いてある物らしいのはわかるが何なのかはわからなかった。
「これは?」
「悪い。一応、そいつが何なのかってのは秘密なんだ。ただ、それを持ってないとあんたらは下手するとここの人族の軍を抜けて王様達を狙いに襲う敵と見なされちまう。だから、無くさない様に大事に持っていってくれ。」
「わかった。我が身にかえてもこれは死守してみせる。」
「いや、ここから先は敵がいないはずだから、そこまで重々しく捉えられると申し訳ないくらいなんだが…」
ダガーの決意を聞いて、軽く顔を引き攣らせながら指でポリポリと頬を掻く武に対して公彦は真面目に答えた。
「もし、無くしてしまったなら『武と公彦に認めてもらった』と言えば通してもらえるはずだよ。」
「今日中にジュリウスさんのところまでいけるはずだから、飯食ってから行くといい。」
「何から何まで世話になる。」
「気にするな。ジュリウスさんには色々世話になってるからな。」
やり取りが終わりダガーがテントから出ると、公彦と武はお互いの情報交換と意見や作戦のすり合わせを行い始めた。
「…さっきも言ってたように反乱軍は統率が取れてなくてこっちはあまり被害を出すことなく暴れまわれた。しかし、人数差があるから倒しても倒しても敵がいくらでも後ろに見えるのはぞっとするな。」
「起きてテントに来たらお前の姿がなくて、兵士に聞いたら出撃したとか言われて驚いたよ。」
言われて両肩を竦めた武はケラケラと笑った。
「なんとなく相手の兵士達が注意力散漫に見えてな。いけるんじゃね?と思ったから行ってみたらいけた。」
「そんなんで出撃したのか。まったく怖い怖い。それにしても、僕達がこっち側にいること知ってて工藤って人は反乱軍の指揮執って攻撃してきてるのかな?」
「さあな~。でも、同じ召喚された者同士だからって手加減なんかしてたらこっちがやべえんだからな?お前、変に同情するなよ?」
真面目な顔をして注意してきた武に対して公彦は苦笑した。
「まさか、僕は僕で元の世界に戻って家族に会わないといけないんだから、こんなところで死ねないよ。それはそうと、これからどうする?」
「まだまだ反乱軍との兵数差は二倍以上だし、真一みたいに魔術で一気に吹き飛ばすなんてできないからな… とりあえず、戦場が大きく動くまで夜襲をやったりやらなかったりしつつ持久戦ってのは?」
「食料がどのくらいもつかにもよると思うけど… 焦って動くとこっちが壊滅しちゃいそうだしね。しょうがないか…」
公彦が溜息混じりに言うのを聞いて武は頷いた。
「ああ、お前の時で攻撃にいけそうなときがあれば行ってもいいけど、ちゃんと戻ってこれるように気をつけろよ?」
「わかってるよ。…真一君はともかく、お前にそんなこと言われる日がくると思わなかったよ。」
「お前、人が真面目に言ってるのに…」
「わかってるって!いいから早く寝ろよ。」
「ああ、とりあえず交替だな。お休み。」
まだ、夜18時頃という時間で武は寝袋へと包まりに他のテントへと移動し中央テントには公彦が残った。
公彦はテントの中で戦闘時に装備している鉢がね、胸当て、手甲、脚絆などを付けると床几へと座り瞠目し、一人瞑想した。思うのは人を斬った時の感触と相手の叫び声。真一は仲間以外には冷めているし、武は慣れてきたと言っていた。公彦は…
「公彦様!大丈夫ですか!?顔色が悪いですぞ!?医師を呼びましょうか?何か悪い物でも食べられましたか!?」
瞠目して集中していたため、普段なら絶対に気付くはずの人の出入りの気配や音にさえ気が付かなかった公彦は自分でも気が付かないうちに荒い呼吸を繰り返していた。そんな公彦は片手を軽く挙げてその兵士に無事を示すと夜襲の準備を進めるようへ命令を下した。兵士は体調がすこぶる悪そうにも関わらず夜襲を行おうとする公彦の態度に感動し、打ち震えながらテントから退室すると公彦は一人になったのを確かめて一人ごちた。
「家族に会いたいなら会いたいで頑張らないと… あの感触や叫び声が嫌だから自分は元の世界に戻るまで引き篭もらせてもらって、武と真一君に全て丸投げ…そんなの僕自身許せるもんか…!」
低い声で自分の意思を確認しつつ、自分自身を叱咤した公彦は真一からもらった刀を取り出し力強く手に持った。




