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召喚されし者達  作者: カール・グラッセ
113/145

調査

明け方の人族の軍、中央テントには床几に座って仏頂面の武と片手を拝むような形にしながら苦笑する公彦の姿があった。


「だから、悪かったって言ってるじゃん。第一、しょうがないだろ。事情知ったら放っておけないし。」


「わかってるって。いや、わかってはいるんだけど、眠気のせいで勝手に顔が…」


夜襲が成功したら相手が寝静まったのを見計らって静かに陣へ戻ってくる。

そう聞いていたにも関わらず、数時間前に公彦が千人の敵兵士を引き連れ陣へと向かってきたと聞いたとき武は混乱した。先駆けて簡易事情をメモ書きされた書簡を公彦と同行した兵士がもってきてくれなかったら敵襲かと警戒して兵達に戦闘準備をさせなければいけなかったので書簡はありがたかったのだが、公彦が連れて来ている兵士達の後ろに、更にそれを討伐しようと敵兵士が追ってきていると連絡を受けたので結局戦闘準備を整えることとなった。公彦達が絶対に当らないという距離まで近付いた瞬間、陣の一番外側から配置に就いた兵士達で敵軍へと一斉に矢を射させ、矢の雨を弾幕として使い敵兵士の追撃を振り切らせ入口から公彦達を引き入れたのだ。

公彦とダガー達が陣内に入ったにも関わらず追撃してきた反乱軍はそのまま陣へと突撃してきたため、武は寝ているはずの時間に起きて戦闘指揮を執っていた。そのため現在眠気に襲われており寝ないようにしているのである。


「まあ、ホントしょうがねえよ。マジで怒ってねーからとりあえずお前ら一度寝ろ。お前が早く起きないと俺が眠れねー」


「わかった。ダガー。君も兵士達も一休みしよう。」


「そうさせてもらおう。」


武が部下を呼び、ダガー達を仮眠が取れる場所まで案内するよう伝えるとその部下は武へ一礼し、ダガーの方を向いた。


「お前が反乱に加担していたとは… でも、こっちに来たんだな。敵対せずにすんでよかったよ。」


ダガーも苦笑していたので武は気になり思わず口を開いていた。


「知り合いだったのか?」


「私の幼馴染なんですよ。」


それを聞いて武と公彦は二人揃って笑った。


「そりゃあよかったな!」


「お互い生きて会えてる事もいいことだけど、味方になってよかった。敵同士だと後々和解したところでお互いブツブツ文句言うかもしれないしね。」


「誰のことを言ってるんだ?」


「誰だろうね?」


「…とにかく、ダガー達を案内してやってくれ。」


「わかりました。こっちだ。」


部下がダガーを連れてテントから退室すると公彦も床几から立ち上がり隣のテントへ移動した。

一人になった武はしばらく周辺地図を睨みながら一人ごちた。


「…あいつがホントに来てたらどうするかな…」


自分の婚約者のことを想いタバコを吹かし、煙を空へと吐き出した。



----------後方、人族の魔王軍内------------

連日、お茶会を開き一休みしていた真一の下へ武と公彦から書簡が届けられた。

そして、その書簡を読んだ真一は口に含んだ珈琲を盛大に噴出していた。


「ブッ!ゲホッゲホッ!!は、はあ!?もしかしたら反乱軍に婚約者がいるかも(・・)!?かもってなんだよ!かもって!」


「まあ、可能性を示す言い方ですね。」


冷静にボッシュが言い方について分析した。


「そんなことは言われんでもわかっとる!しかしだなぁ…」


「確かめるしかないですね。」


話を聞いていたジュリウスが話しに入ってくると、そのままレオナルドも話しに加わる。


「いなかったらいいが、いたときは厄介じゃの…」


「人質なんかサッサと助ければいいじゃん。」


ロキが頭の後ろに両手を組んで寄り掛からせるように頭を置き、両足をぶらぶらと宙に浮かせのんびりさせたまま言っていると真一がそれを否定した。


「敵対してる勇者達と仲がよかった子だから、もしかすると傍に勇者がいるかもしれない。そうなるとそう簡単には助けられないかもしれない。」


「でも、その婚約者が戦場に来てるかどうかっていうところから調査しないといけないんでしょ?」


リーゼロッテが机に肘を乗せ頬杖を付くような状態でのんびりと言う。


「じゃあ、ここは…」


と、真一が机から立ち上がるとミントがすかさず口を挟んだ。


「あ、真一様は行ってはダメですよ?」


真一がミントの指を見てみると、ちゃんと指輪がされていた。


「真一様が考えることって読めてきてるので…」


と、ニコニコと笑顔で言うとミントの後ろで婚約者が四人共、同意するように頷いていた。

真一が少しばかりショックを受けて口をパクパクさせていると、真一の後ろから声が上がった。


「では、その調査といた場合は救出も…でしょうか?僕がやらせていただきます。」


その声を聞いた真一が弾ける様に振り返り叫んだ。


「ダメだ!絶対ダメ!お前がそんなことする必要ありません!ダメです!!」


否定されたクオは首を傾げつつ真一に反論した。


「真一様、ではどなたが行くんですか?」


「俺が…」


「「「「「ダメです」」」」」


「ほら、やっぱりここは僕しか適任者いないですから。」


「お前に何かあったらどうするんだ!だからここは俺が…」


「「「「「ダメです!!」」」」」


真一とミント&婚約者達、そしてクオの三人でこのやり取りがしばらくされた後、クオが真一に向かって頭を下げた。


「真一様。僕は元々奴隷でした。ナターシャは魔族。セシリーは神族。でも、僕は人族で二人と違って特に珍しくもない。しかも僕は買われた当時、死にかけだったにも関わらず高いお金を払って治療してくださり、そのまま看病もご自分でしてくださいました。初めて戦闘に参加される時には奴隷解除までしてくださり、奴隷で過ごしてる間も酷い扱いなどされませんでした。御恩ばかりが積み重なりお返しできていません!僕にできることはさせてください!」


クオの言い分を聞いた真一は腕組みをしてしばらく考えていたが、その右横からスッと珈琲が入ったマグカップが差し出された。真一が横目で見るとナターシャが笑顔で差し出している。何も言わずにそれを取り口に含み空のマグカップを渡し、再度腕組みをして今度は少し上を向いた。溜息を吐きながら下を向くと左横からタバコが一本差し出されている。何も言わずに横目で見ながらタバコを取ると差し出しているのはセシリーで、タバコに火を点けてくれたのはレディだ。真一が何も言わずにタバコを吸い始め煙を空へと吐き出すこと数回、タバコの灰を捨てようとすると灰皿を右横からアンナが差し出してきた。


「……絶対、危ないことするなよ?」


少し離れたところでボッシュが突っ込みを入れた。


「一番、危ないことする人が何を言うんだか…」


「そこ!茶化すな!」


ビシッと効果音が出そうな勢いでボッシュを指差した真一は指を戻しながらクオを見直した。


「…何度もお前には言って聞かせてるが、お前は血が繋がっていなくても自慢の息子だ。ってか、俺に似た息子なんざ可愛くないから息子が産まれてもお前の方を可愛がる。」


クオが苦笑しながら横に首を振ろうとすると、真一はそうさせないように両手でクオの顎をそれぞれ左右から挟むようにして持ち、目を覗き込みながら更に言葉を重ねる。


「前の世界だとな、子供が親より先に死ぬのは不幸者だってよく言われていた。いいか?クオ。お前は俺の息子だ。だから、お前が俺より先に死ぬのは不幸者のすることだ。不幸者には絶対なるなよ?」


暗に自分より死ぬことは許さない、ということを言われたことを理解したクオは少し涙を浮かべながら頷いた。そんなクオを力強く抱き寄せ抱きしめると真一は抱きしめている手で軽くクオの背中をポンポンと叩いた。


「…気を付けて行って来い。それと行くなら行くで準備だな。…おい、ボッシュ!!」


「はいはい。何ですか?」


「ユーシアとロンに預けておいた魔術ダイナマイトで武と公彦に渡してないやつがまだ何個かあったろ?あれ、全部クオに渡せ!それから使ってない新兵器も全部渡せ!それから…」


次から次へと準備する指示を出していく真一を見たお茶会のメンバーは目を丸くして絶句した。


「…真一殿は男色の方だったかの…?」


「いえ、ノーマルな方だったはずですが…」


と、レオナルドとジュリウスが話し、


「…私達より、クオの方が大切にされてない?」


「確かに私達兄妹の中では一番年下はあの子だけど…」


と、ナターシャとセシリーが少しむくれ、


「過保護過ぎる様な気が…」


「お父様より過保護かも…」


アンナとレディが冷や汗を流していた。

それ以外のメンバーも口には出していないものの真一の怒涛の勢いを見守り、唖然としていた。

指示がだんだんと終わってきたのか真一の口調もだんだんと落ち着いてきたところで真一は召喚を使い一振りの刀を出し、それを掴むとクオへと差し出した。


「3族会議の直前に俺が叩いた最新の俺の刀だ。これをクオ。お前にやる。」


その言葉を聞いた途端その場は静かになり、クオは震える手でその刀を受け取った。


「いつもの刀と同じで少量でも魔力を込めると効果は発動される。敵陣に移動している間なんかに何度か使って自分が使いやすい使い方を覚えろ。」


「はい!」


刀を渡した真一はクオの頭を一撫ですると笑顔で頷いた。

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