表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
召喚されし者達  作者: カール・グラッセ
112/145

夜襲

そして、夜が更けた。

人族の軍も反乱軍も長時間の戦闘で気力も体力もすり減らし、泥のように眠りこけている中。まだ活動している者達がいた。百人ほどの集団だが、全員が黒い被り物をしており可能な限り暗闇に溶け込んでいる。戦闘に立つ者はジェスチャーで進軍を指示し、集団は微かな音はさせつつも眠気を覚ますほど大きな音は生み出さず反乱軍のテントの集合地帯へと消えていく。やがて集団は集合地帯の一箇所からみんなバラバラに動き始め散り散りとなり各自潜んだ。しばらくすると声が聞こえた。


「『ᛣ』」


その一言によりテントの一つから爆発が起き、付近のテントや物、人など様々なものが宙へと舞った。

次の瞬間、辺りに大声が聞こえた。


「爆発がおきたぞ~~!!」


「何だ何だ!?」


「助けてくれ!敵襲だ~~~~~~~~!!!」


「人族が攻撃を仕掛けてきたぞ~~~!!」


「みんな起きろ!!応戦するんだ!」


その声を聞いてテントから跳ね起きた反乱軍は慌てふためきつつ各自で武器を手に取り、知らない顔の者を見つけては攻撃を仕掛けた。そんな跳ね起きた者の中に讒言された参謀がいた。


(こんな夜更けに攻撃?しかも人族の方から?狙いがわからない…)


その参謀の下に一人の兵士がテントに駆け込んできた。


「失礼します。工藤様が参謀殿を至急呼ぶようにと仰せですので工藤様のテントまで行っていただけますか?」


「わかった。すぐ行く。」


参謀がテントの外に出るとそこには見たことがない世界が広がっていた。

薄暗かったはずの夜は、爆発から広がった火がテントを焼き、火は風に乗り燃え移り次々とテントが炎上し、兵士は皆お互いに敵だと斬り合っている。その光景を見た参謀は悪寒を覚えた。そして、次の瞬間には工藤の身を案じ彼のテントへと走り出した。その参謀が工藤のテントを見つけ駆け込むと、彼を待っていたのは工藤を始めとした周囲からの冷たい視線と周辺兵士達が向けてくる鈍い武器の刃だった。


「やあ、こんな時間に呼んですまないな。呼んだのは他でもない。今、外で起きているこの騒ぎはなんだろうか?俺には想像もつかないのだが、参謀にはわかるか?」


味方のはずの自分に対して、このような対応をしてくること自体わけがわからずその参謀は工藤に質問した。


「…工藤様、お言葉ですが味方がテントに来たのに武器を持ってその者に向けるなどしないで下さい。」


「俺が聞いているのはそういうことじゃないんだけどな。おい、外の騒ぎは何なんだ?」


「私にもわかりません。」


「……そうか。」


そう言った工藤の目は明らかに参謀を疑う眼差しとなった。

参謀自身もそのことを感じ、自分の置かれている状況を理解した… が、ここで参謀は更に話を続けた。


「工藤様、相手の狙いはわかりません。ですが、この外の混乱をこのままにしておいてはいけません。収拾をお願いします。」


参謀のこの言葉を聞いた工藤は疑う眼差しから怒りが篭った目へと変わり顔が赤くなり始めた。


「なんだと…?参謀のお前が大将の俺に対して命令だと?俺が大将でお前はただの参謀だ!身の程を知れ!」


だが、その参謀は工藤に怒鳴られたにも関わらずさらに頭を少し下げ食い下がる。


「今、事を放置しておくと混乱が続き兵が休まりませんし、被害が大きくなるだけです。私が不興を買おうともこの混乱の収拾はしてください。」


「お前に言われなくてもやる!!」


怒鳴る工藤がテントの外に出て行くと他の参謀達も工藤に付き従い外へと出て行く。

その際、一人の参謀が忠言をしていた参謀へと近付き素早く囁いた。


「…ジャック王子のお済付きのお主もここでは不興を買ったただの落ちこぼれよ。ここでの戦闘は我らに任せてお主はもう後方へと下がってよいのではないか?工藤様には私から話しておこう。」


ここにおいて自分が讒言された身であることを悟った参謀は怒りのあまりガタガタと震え始めた。


「…な、なんだ!?ここで手をあげればそれこそお主は裏切り者とし…」


喋ろうとした言葉は最後まで続かず、讒言された参謀は自分を陥れた者を殴り自分のテントへと戻っていった。テントの中へと戻ったその参謀は自分の部下を呼ぶと反乱軍の本陣へと戻ることを伝え、撤退準備をするよう伝え急がせた。

そして、テントを見渡し自分一人しかいないことを確認したこの参謀は肩を落とした。


「…ジュリウス様から指導をいただき五年経ち、ようやく後継者候補として王子へと紹介された矢先になぜこのようなことになったのか… ジュリウス様、申し訳ございません…」


自分の栄達などはともかくとして、自分を見込んで少ない自由時間を指導の時間へと充ててくれていたジュリウスに対しこの参謀は深く謝罪した。ところが、この参謀の独白に返事が返ってきたのである。


「…ジュリウスさんのお弟子さんか~… ジュリウスさんには僕もお世話になってるから聞いた以上他人事じゃないなぁ~」


「誰だ!?」


参謀の目には誰もいないように映っていたテント内だったが、そこには実は人がいた。


「驚かせてゴメンね。僕は公彦っていうんだ。」


その言葉が聞こえた瞬間、誰もいなかったはずの空間に人が一人現れた。


「突然だけど、あなたに選択をしてもらいます。」


「…選択だと?怪しいやつめ。捕まえて工藤様の前に引っ立ててくれる…」


「…あれだけ疑いの眼差しを向けられてたのにまだ義理立て?それよりもジュリウスさんへの恩返しを考えないの?」


その言葉に返す言葉は浮かばず参謀が黙ると公彦は軽く頷いた。


「自分の状況は把握してるみたいでなにより。それで、選択のことなんだけど… ここから大人しく撤退して本陣へと向かうか、もしくはジュリウスさんのいる人族の方へ寝返るか。どっちがいい?」


問われた参謀は雷を受けたように一度震えるとその場で両膝をガクリと付き、公彦を驚かせた。


「ちょ、どうしたの!?」


「頼む、ジュリウス様の下へ連れて行ってくれないか?できれば部下共々… みな不器用な私に付き従って苦労を共にしてきたのだ…」


「ちなみに人数ってどのくらいいるの…?」


「千人だ。」


「そうなると… う~ん… わかりました!静かに戻ろうかと思ってたけど、いいや。準備が出来次第人族の方へ全力で移動します。そのつもりでいてください。」


「すまない。私はダガーという。」


その参謀は…ダガーは両膝を付いたまま頭を下げると公彦へと感謝を伝えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ