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召喚されし者達  作者: カール・グラッセ
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勇者(2)

真一が後方でお茶会を催している時、反乱軍では四人の人物が話し合っていた。


「ねえ、なんであんたは王様の軍を攻撃してるわけ?」


髪型はストレートでショートボブ。召喚された当時は染めていたため茶髪だったのがここ二年の間、染めていなかったので既に元の黒髪となった女の子、佐藤愛子が苛立った様子を隠すこともなく面に出しながら偉そうに反乱軍の総大将を務める高橋に向かって質問していた。

実はこの愛子は自称勇者の高橋雄介と幼馴染であり付き合っていた。過去形なのは既に別れたからである。召喚された当時は勇者になる気満々だった高橋を支えてこちらの世界でも付き合って…と将来を考えていたのだが、高橋がレディ王女を追い求めるその姿を見ているうちに恋は冷め、高橋がジャック王子と共に真一を殺そうと争う少し前に愛子の方から別れを告げた。それまで高橋に付いて回りながら冒険者として依頼をこなし収入を得ていたが、高橋と別れた後二進も三進もいかなくなり、共に召喚された女性である藤井を頼った。この藤井の紹介ということで真一の開いたお店で働き、収入を得られることとなり、今まで衣食住には困ることなく過ごせていたのである。そして真一がロキシードから立ち去りクウェイで独立した後もお店自体は存続していたので愛子は困ることもなく働いていたのである。ところが今回、牢に入っていたはずの高橋が牢から出てきて働いている最中の佐藤を兵士達に捕縛させ跪かせた。


「愛子。どうやらこの世界では一夫多妻の制度みたいで何人もの女性と結婚しても問題ないらしい。まあ、甲斐性は必要だけどそれは男次第ってことだから俺なら問題ないだろう。こんな時化た店で店員なんかしなくても俺と結婚すればいい暮らしを保証する。だから… 俺について来い!」


召喚される前やされた当時ならまだ佐藤もこの高橋の言動に心が動かされて顔を赤く染めて付いて行ったかもしれない…が、既に恋は冷めたし、別れたし… 新しい生活を過ごしていた佐藤の心は既に動かなかった。それに別れたとはいえ、かつての彼女を捕縛し跪かせ、その目の前で気障なポーズを取りながらプレイボーイぶる高橋に対して逆に心が冷えていくのを感じた。


「一応、聞いておくけどさ。あんたと別れた後、私がこっちの世界で生きてこれてるのって田中さんのお陰でもあるんだよね。だから、田中さんは私にしてみれば働く会社の社長だし、恩人でもあるってこと。その社長でもあり、恩人でもある人を見下す元彼氏。私にとってどっちが大事だと思う?」


それを聞いた次の瞬間、高橋は愛子を殴った。

しかも、拳を握ってだ。


「愛子!!お前、いつからそんな偉そうになったんだ!お前は黙って俺について来ればいいんだよ!バカにしてんじゃねー!俺は勇者だぞ!?俺の妾にしてやるって言ってんだから喜んで従えばいいんだよ!それとも俺より田中のおっさんの方が好みだってのか?中年好きだったのか?」


「…こうやって従わなければ女でも手あげる元彼氏より、直接関わってないにしろお店で働かせてくれる田中さんの方がよっぽど好感度高いわよ。そんなことも言われないとわからないの?はぁ… あんたがそんな低脳だと今まで知らなかったわ。情けな…」


そして、愛子が続いて話そうとしたのを遮るかのように高橋は再度、殴り飛ばした。


殴り飛ばされた愛子は気絶し、次に気付いた時には既に反乱軍の行進に同行させられていた。

二、三日前に森の中で巨大な竜巻を遠目で見た時には恐怖したが、反乱軍は已然行進を止めず佐藤も無理矢理引っ張られて行った。そして、森から出た現在、自分を殴り飛ばした高橋がロキシードを出てから初めて目の前に姿を現し、反乱軍の指揮を執り、同じ人族の軍隊に向かって攻撃命令を下しているのを見せられ質問した。質問された高橋は鼻を鳴らすと口を歪めてニヤリと笑顔を浮かべると身振り手振りを派手にさせながら説明し始めた。


「フフ… ここにいる者が俺とジャック王子を真の王と真の勇者として崇めて牢から出してくれたのだ。だから俺とジャック王子はそれを証明するために、こうして魔王と手を組むレオナルド王と田中のおっさんを討伐しに来たのさ。そして、討伐したあとは…」


「レディ王女と結婚?」


「そう!レディ王女を正妻として迎え、そして第二婦人を愛子!お前にしようかと思ってる!」


「…じゃあ、ここにユッコがいるのはなんで?」


愛子が顔を向けた方には同じく手を縛られた女の子がもう一人いた。

その子はセミロングでストレートな髪を後ろに縛りポニーテールで眼鏡をした大人しそうな子だった。

いや、大人しくというよりも怯えて震えながら高橋を見ていた。

この怯えている女の子は日高裕子といって愛子の親友であり、高橋と同じく召喚された男子、工藤啓作の彼女だった女の子だ。過去形なのは裕子も工藤と別れたからだ。

雄介、愛子、啓作、裕子の四人は小さい頃からの幼馴染で小さい頃から相思相愛だった。そして物心付くようになってからもその気持ちは変わらず、愛子は雄介と、そして裕子は啓作と付き合いこのまま一生一緒だと裕子は思っていた。ところが召喚されてから全てが変わってしまった。四人のリーダー的存在だった雄介は12歳の女の子に熱を上げ、その結果として愛子には愛想を尽かれ別れてしまい、啓作は雄介に従う部下のようになり、雄介と同じく付き合っていたはずの裕子をないがしろにして、こちらの世界で違う女の子に対して熱を入れ始めた。召喚される前までは雄介も啓作も愛子や裕子に対して優しく、そして他の女の子には見向きもせずにそれぞれを好いてくれていたのにこちらの世界に来て二人共変わってしまった。

愛子が雄介に別れを告げた時、裕子も啓作に別れを告げて愛子と裕子は一緒に行動してきた。

自然、裕子も真一のお店で働いていたのだが愛子が捕縛された時に裕子も捕縛されて連行されてしまい今に至ったわけである。いつも大人しくみんなについて行くのが精一杯だった裕子にしてみると性格が豹変した雄介は畏怖の対象でしかなかった。

そんな裕子に対して雄介は投げキッスをするような仕草をしながら声を掛けた。


「裕子君には選択させてあげようかと思って連れて来たんだ。俺について来るか来ないかってね。まあ、愛子とどっちが早く俺に付いて来るかっていう意思表示の速さで第二婦人か第三婦人か決めようかと思ってるんだけどなぁ…」


舌なめずりをしそうな口調と顔つきとなった高橋が愛子と裕子を見比べて話をしていると二人共手を縛られているにも関わらず二人して寄り添うような形となって、高橋からできるだけ遠ざかるような姿勢をした。

そんな雰囲気をぶち壊すかのようにその場にいたもう一人の男が話し出した。


「勇者殿!英雄色を好むと私は聞いたことがありますが流石ですな!それはそうとして、そろそろあちらの軍を討伐しておきませんか?この様ですと、女性が逃げ出すということもないでしょう。勇者殿の実力を見せ付けてあげたらこの方達も素直になるかと…」


「フフフ… いいだろう!この勇者・高橋!この度の召喚された者の中で唯一の勇者としての実力を全員に見せてやろう!愛子、裕子君、俺の雄姿を見せてやるぜ!」


人差し指を人族の軍へと向けた高橋が高らかに命令を下すと反乱軍の攻撃は激しさを増した。

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